商業登記関係 代表権のない取締役が辞任するときの登記手続き(株式会社)
取締役の辞任
株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければなりません(会社法第326条1項)。
そして、取締役と株式会社は、委任に関する規定に従いますので(会社法第330条)、原則として取締役は自由に辞任をすることができます。
法律上は、取締役を辞任をすることにつき、事前に代表取締役その他機関の承諾は不要です。
なお、相手方に不利な時期に委任の解除(辞任)をしたときは、取締役は、相手方の損害を賠償しなければなりません。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りではないとされています(民法第651条2項)。
取締役の氏名は登記事項
代表権のない取締役の氏名は登記事項となっています。
取締役が辞任したときは、辞任の効力が発生したときから2週間以内に、取締役が辞任した旨の登記申請を行います(会社法第915条1項)。
取締役が複数いる株式会社において、代表権のない取締役の辞任に関する登記手続きは比較的容易と言えるかもしれません。
しかし、本ページの後半に記載するとおり、代表権のない取締役の辞任の登記にも特有の注意点もありますのでご確認ください。
取締役の辞任登記を申請する
取締役の辞任登記は、登記申請書に次の書類を添付して行います。
登記申請書の内容としては、法務省のHPにあるこちらのページが参考になります。
≫1-10-1株式会社役員変更登記申請書(辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合)【R1.6.21更新】<法務省>
※役員の辞任及び就任に関する登記申請書のサンプルです。
なお、代表権のない取締役の辞任につき、その辞任の登記申請だけでは足りないケースがあります。
取締役の辞任登記において確認すべきこと
上記は代表権のない取締役の辞任のみの登記を申請する場合の一例です。
これは、例えば取締役がABの2名、代表取締役Aがいる株式会社において、代表権のないBが取締役を辞任するようなケースを想定しています。
あるいは、取締役会設置会社の場合、例えば取締役がCDEF、代表取締役Cがいる株式会社においてFが取締役を辞任するようなケースです。
取締役2名・代表取締役1名の株式会社において、代表取締役たる取締役の辞任の登記を検討されている方は、こちらの記事をご確認ください。
≫取締役2名のうち代表権を有する取締役が辞任するときの登記手続き
権利義務取締役
取締役が辞任をすることにより、取締役が1名もいなくなってしまう場合や、会社法又は定款で定めた取締役の数を下回ってしまう場合は、後任の取締役が就任するまで、辞任をした取締役がなお取締役としての権利義務を有します(会社法第346条1項)。
≫株式会社の権利義務取締役、権利義務取締役とは何でしょうか。
会社法又は定款で定めた取締役の数を下回ってしまう場合とは、次のような場合です。
- 取締役会設置会社において取締役が2名以下となってしまう場合
- 定款に「当会社の取締役は、2名以上とする」と定めている会社において取締役が1名となってしまう場合
例えば、取締役1名の株式会社が、取締役辞任のみの登記を申請しても、その登記申請は却下されてしまうでしょう。
取締役1名の株式会社が取締役の辞任の登記を申請するのであれば、後任の取締役の就任の登記を同一の申請で行う必要があります。
取締役会設置会社
取締役会設置会社においては、取締役は、3名以上でなければならないとされています(会社法第331条5項)。
取締役3名の取締役会設置会社で、取締役が1名辞任するけれども、後任の取締役が見つからないような場合は、取締役会を廃止することも検討することになります。
定款の規定を変更する
取締役が辞任することにより、定款で定めた取締役の員数を満たせなくなってしまう場合は、定款の変更をすることを検討します。
第●●条 当会社の取締役は、2名以上とする。
このような定めを定款に置いている株式会社が、取締役2名以上を維持できなくなってしまうのであれば、これを次のように変更します。
第●●条 当会社の取締役は、1名以上とする。
なお、定款を変更するためには株主総会の特別決議が必要です。
責任免除規定
取締役2名以上いる株式会社は、一定の条件の下、取締役の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができます(会社法第426条1項)。
そしてこの責任免除に関する規定は登記事項です。
取締役が辞任をした結果、取締役が1名となるのであれば、株主総会の特別決議によってこの旨の定款の定めも削除し、当該登記を抹消する必要があります。
責任限定契約
株式会社は、取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)の責任について、一定の条件の下、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)と締結することができる旨を定款で定めることができます(会社法第427条1項)。
取締役と責任限定契約を締結することができる旨を定款で定めている場合、非業務執行取締役が存在しなくなるのであれば、この旨の定款の定めも削除し、当該登記も抹消することも検討します。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。