商業登記関係 株主が行方不明になったら
株主と連絡が取れなくなった
平成28年10月1日以降の登記申請のうち、基本的には株主総会議事録を添付する登記申請には株主リストの添付も求められることになりました。
株主リストは、多くの中小企業においては株主が誰であるかの一覧表となるので、株主名簿を日ごろからしっかりと管理しておくことはとても重要です。
株主が1名2名程度であったり、株主全員が親族であるような会社ではなく、外部の株主がいるような会社では、当該株主と連絡が不通になってしまうケースがあります。
特に、平成2年より前に株式会社を設立する場合は、発起人7名が必要とされていたため名義だけ貸してもらうようなケースもあったと思います。発起人とは設立時に設立される株式会社の株式を1株引き受けた者ですので株主に当たります。
連絡が取れなくなった株主の株式
もちろん、連絡の取れなくなってしまった株主の株式を、会社や代表者が勝手に買い取ったことにするのではなく、会社法に則った手続きをとった方が良いことは言うまでもありません。
勝手な手続きをしてしまうと、後々になって当該株主あるいはその株主の相続人と名乗る方が現れたときに、争いになってしまうことは容易に想像ができます。
連絡が取れなくなった株主の株式の処分
一定の条件を満たすことによって、株式会社は連絡の取れなくなった株主の所有する株式を処分することができるとされています(会社法第197条)。
株式会社は、次のいずれにも該当する株式を競売し、かつ、その代金をその株式の株主に交付することができる。
1 その株式の株主に対して第196条第1項又は第294条第2項の規定により通知及び催告をすることを要しないもの
2 その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったもの
(3項以下省略)
①会社法第197条1項の前提として5年以上の継続した通知が必要
会社法第197条1項による処分は、例えばたまたま株主に電話連絡をしたけど電話に出なかったとか、2期連続定時株主総会に欠席したという短いスパンで条件が整うわけではなく、会社法第196条1項によると、株主に対する通知又は催告が5年以上継続して到達しないことが必要です。
株式会社が株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しない場合には、株式会社は、当該株主に対する通知又は催告をすることを要しない。
②5年間継続して剰余金の配当を受領しないこと
連絡の取れなくなった株主の所有株式を処分するには、上記①の通知が届かなかったことに加え、当該株主が剰余金の配当を5年継続して受領していないことが求められます。
剰余金の配当を決議して実際に剰余金の配当をしたけれども受領をしなかったことはもちろん、剰余金の配当を行わなかった年も込みで5年間と捉えられると考えられます。
処分方法
上記①②を満たした株式は、会社法第196条1項により競売をすることができますが、会社法第196条2項3項により、市場価格のある株式は市場価格で、市場価格のない株式については、裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却をすることができ、当該会社あるいは代表者などが買い取ることもできます。
一部の上場会社などを除き、ほとんどの中小規模の会社においては株式の市場価格はないこと、また第三者に株式が渡ることを望んでいないことも多々あるため、会社又は会社関係者が買い取るケースが多いかもしれません。
なお、会社が買い取る場合は、分配可能額の範囲内でなければなりません。
株価鑑定評価書
市場価格のない株式の売却価格は、裁判所への疎明資料として、株価鑑定評価書にて裁判所に示す必要があります。
株価鑑定評価書は、一般的に会計士や税理士が作成します。汐留パートナーズグループには会計士も税理士もいるため、株価鑑定評価書についてもご相談いただけます。
株主等に対する公告
会社法第198条1項により、3ヶ月以上の期間、株主その他利害関係人が一定の期間異議を述べることができる旨の公告及び当該株主には各別に催告をしなければなりません。
売却代金
株式の売却代金は、連絡の取れなくなっている株主であった者のものではありますが、当該株主は連絡が取れなくなっているため弁済は実質的にできない状態であることがほとんどかと思います。
その場合、当該株主が現れた際にいつでも弁済できるように会社が準備をしておくか、供託することが考えられます。供託をして当該株主に対する弁済義務を免れる方が、権利関係がスマートかと思います。
スクイーズアウト
株式併合や特別支配株主の株式等売渡請求などにより、強制的に少数株主を排除することも可能とされています。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。