商業登記関係 上場準備をしている株式会社において行われる登記(非公開会社→公開会社)
上場準備と株式の譲渡制限規定の廃止
株式上場の目途が立ってきた会社は、その要件を満たすために、種類株式や株式の譲渡制限規定を廃止する等の手続きを行います。
各会社の状況によって異なりますが、一般的には下記に記載している定款変更(+登記事項の変更であれば登記手続き)を行います。
これらを全て同時に行う会社もあれば、段階的に行っていく会社もあるでしょうか。
上場に近づいている段階では証券会社の関与もあるため、大きく間違うということは少ないかもしれません。
種類株式の普通株式への転換と種類株式の廃止
実務上、上場をする際は普通株式のみを発行している状況とする必要があるため、種類株式を発行している会社は、普通株式のみを発行する会社へ移行します。
一例として、次の手続きを行います。
- 種類株主に取得請求権を行使してもらう又は取得条項の発動し、種類株式を会社が取得し、種類株主へ普通株式を交付する。
- 取締役会の決議によって自己種類株式を消却する。
- 株主総会の決議によって種類株式に関する定款の規定を廃止する。
株式の譲渡制限規定の廃止
上場に向けて株式の譲渡制限規定を廃止し、非公開会社から公開会社へと移行します。
取締役、代表取締役及び監査役の選任
非公開会社から公開会社へ移行すると、取締役及び監査役の任期が満了し、取締役及び監査役は退任します(会社法第332条7項、同法第336条4項)。
そのため、株式の譲渡制限規定を廃止する旨の定款変更決議を行う株主総会において、取締役及び監査役の選任決議も行います。
また、取締役の任期が切れることで代表取締役も退任することになるため、株主総会後に取締役会決議によって代表取締役の選定を行います。
なお、この株主総会と取締役会の日が同日でない場合、代表取締役の登記は「重任」ではなく「退任」+「就任」となります。
監査役会の設置
非公開会社から公開会社へ移行する前に監査役会が置かれているケースは多いかと思いますが、まだ監査役会が置かれていない場合は、監査役会を設置する旨の定款変更を行います。
監査役会設置会社においては、監査役は、3人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならず(会社法第335条3項)、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければなりません(会社法第390条3項)。
会計監査人の設置及び選任
会計監査人を設置していない場合は、会計監査人を設置します。
会計監査人は、公認会計士又は監査法人でなければなりません(会社法第337条1項)。
単元株式数の設定
上場に向けて、100株を1単元とする旨を定款で定めます。
株式分割
必須ではありませんが、多くのケースでは、1株当たりの価格の調整のため上場準備の段階で株式分割が行われます。
株式分割をするときは、取締役会の決議によって次に掲げる事項を定めます(会社法第183条2項)。
- 株式の分割により増加する株式の総数の株式の分割前の発行済株式の総数に対する割合及び当該株式の分割に係る基準日
- 株式の分割がその効力を生ずる日
- 変更後の発行可能株式総数(必要に応じて。ただし次項のとおり制限あり。)
※上記は、種類株式を発行していないことを前提としています。
発行可能株式総数の変更
こちらも必須ではありませんが、一般的には、株式分割と同時に発行可能株式総数の変更が行われます。
種類株式を発行していない会社においては、株式分割と同時に株式分割の割合と同じ割合以下で発行可能株式総数の変更を行うのであれば、取締役会の決議で変更することが可能です(会社法第184条2項)。
なお、非公開会社から公開会社へ移行するときは、発行可能株式総数は、発行済株式数の4倍以下である必要があります(会社法第113条2項)。
公告方法の変更
上場するにあたり、公告方法が官報である会社は、日刊新聞紙or電子公告に変更することが求められます。
日刊新聞紙よりも電子公告を選択されている会社が多いのではないでしょうか。
電子公告を選択した場合、定款には公告を掲載する旨と、(一般的には)電子公告できない場合の公告方法を記載し、登記簿には公告を掲載するURLを記載します。
当会社の公告方法は、電子公告とする。ただし、電子公告によることができない事故その他のやむを得ない事由が生じたときは、日本経済新聞に掲載する方法により行う。
登記事項ではないその他定款変更
非公開会社から公開会社へ移行することにともない、定款につき、相続人売渡請求の削除(会社法第174条)や、取締役会の決議によって自己株式の取得ができる旨(会社法第165条2項)を新たに定める等の定款変更を行います。
また、令和元年改正会社法に基づき、株主総会資料の電子提供制度に関する事項も定款に盛り込むでしょうけれども、定款変更についても証券会社からアドバイスがあるかと思います。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。