商業登記関係 株式会社が臨時株主総会を開催するまでの手続き(株主数名程度を想定)
本ページは、対象を非公開会社であり株主が数名程度いる株式会社が、書面投票制度又は電子投票制度を採用せずに臨時株主総会を開催することを前提としています。
株式会社の株主総会
株式会社における株主総会は、会社法に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができます(会社法第295条1項)。
株主総会は多くのことを決めることができ、その決議は原則として賛成する議決権の個数によって決まりますので、誰が何個議決権を保有しているのかは株式会社にとって重要な事項です。
なお、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができます(会社法第295条2項)。
株主総会の招集時期
株主総会には定時株主総会と臨時株主総会の2種類があり、毎年招集しなければならないのは定時株主総会、必要があるときに招集するのが臨時株主総会です。
定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならず(会社法第296条1項)、会社法上は具体的な招集の期限は定められていませんが、決算承認や基準日の関係から、毎事業年度の終了後3ヶ月以内に招集・開催されることがほとんどです。
臨時株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができます(会社法第296条2項)。
株主総会の招集権者
株主総会は、裁判所の許可を得て株主が招集する場合を除き、取締役が招集します(会社法第296条3項)。
※このページでは、株主総会の招集につき、裁判所の許可を得て株主が招集する手続きは除いています。
株主総会の招集を決定した後、取締役であれば誰でも招集することができますが、多くの会社は次のような定款の定めがあるでしょうから、その場合は当該定めに従います。
第●●条 株主総会は、法令に別段の定めがある場合を除き、取締役会の決議により、取締役社長が招集する。
2 取締役社長に事故があるときは、あらかじめ取締役会の定めた順序により、他の取締役がこれに当たる。
臨時株主総会の招集を決定する
臨時株主総会の招集をするには、まず取締役の決定(取締役会設置会社においては取締役会の決議)によって次の事項を定めます(会社法第298条1項)。
- 株主総会の日時及び場所
- 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
- 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
上記3は書面投票制度、4は電子投票制度を指しており、株主数名の株式会社で採用されるケースは多くありません。なお、当該株主総会で議決権を行使することができる株主が1000人以上いる場合は、書面投票制度の採用が必須となります。
株主総会の日時及び場所
株主総会の日時及び場所は、自由に決めることができます。ただし、株主参加しにくい日時や場所を指定すると、株主総会の招集手続きが著しく不公正だとして当該決議が決議の取消しの訴えの対象となり得てしまいます(会社法第831条1項)。
最近では、WEB会議システムの充実、普及によりハイブリッド型バーチャル株主総会が多く利用されている印象です。
この「株主総会の場所」を定めることが求められている関係から、一定の条件を満たした上場会社を除き、場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)は現在認められていません。そのため、少なくとも非公開会社においては会社の本店会議室や代表取締役の自宅等、場所の定めは必須です。
法務省令で定める事項
上記5の「法務省令で定める事項」は次のとおりです(会社法施行規則第63条)。
- 株主総会の場所が過去に開催した株主総会のいずれの場所とも著しく離れた場所であるとき(次に掲げる場合を除く。)は、その場所を決定した理由
イ 当該場所が定款で定められたものである場合
ロ 当該場所で開催することについて株主総会に出席しない株主全員の同意がある場合 - 代理人による議決権の行使について、代理権(代理人の資格を含む。)を証明する方法、代理人の数その他代理人による議決権の行使に関する事項を定めるとき(定款に当該事項についての定めがある場合を除く。)は、その事項
- 議決権の不統一行使について、株主からの通知の方法を定めるとき(定款に当該通知の方法についての定めがある場合を除く。)は、その方法
上記は実務的に該当することが少ないため、定められることは多くありません。ほとんどのケースでは、株主総会を招集するときは「法務省令で定める事項」として次の事項を決定します。
- 次に掲げる事項が株主総会の目的である事項であるときは、当該事項に係る議案の概要(議案が確定していない場合にあっては、その旨)
・役員等の選任
・役員等の報酬等
・全部取得条項付種類株式の取得
・株式の併合
・有利発行による募集株式を引き受ける者の募集
・有利発行による募集新株予約権を引き受ける者の募集
・事業譲渡等
・定款の変更
・合併
・吸収分割
・吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継
・新設分割
・株式交換
・株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得
・株式移転
・株式交付
上記を決定した後は、株主に対して招集の通知をします。
招集を通知する対象
招集を通知する対象は、株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)となっています(会社法第299条1項、同法298条2項参照)。
そのため、無議決権株式(会社法322条等により決議を行使できる種類株主総会を除く。)、単元未満株式しか有しない株主、相互保有株式に該当する株式を有する株主等には、招集の通知は不要です。
招集の通知のタイミング
株主総会を招集するには、取締役は、次のタイミングまでに株主へ招集の通知を発しなければなりません(会社法第299条1項)。
- 公開会社又は書面投票制度・電子投票制度を採用する場合
→株主総会の日の2週間前まで - 非公開会社(取締役会設置会社)
→株主総会の日の1週間前まで - 非公開会社(取締役会非設置会社)
→株主総会の日の1週間前まで又はこれを下回る期間を定款で定めた場合は、その期間
株主総会の日の1週間前まで、とは、株主総会開催日から中7日を開ける必要があるとされていますので、株主総会開催日の8日前までには通知を発します。
非公開会社(取締役会設置会社)が2022年7月28日に株主総会を開催する場合、その招集の通知の期限は2022年7月20日です。
招集の通知方法
招集の通知は、取締役会設置会社を除き、その方法が定められていないため、書面、メール、口頭又は電話等でも通知をすることが可能です。後で言った言わないとならないよう、書面で通知する方法が一般的かと思います。最近だとメールでの通知も多いでしょうか。
なお、次に掲げる場合には、招集の通知は、書面でしなければなりません(会社法第299条2項)。
- 書面投票制度又は電子投票制度を採用する場合
- 株式会社が取締役会設置会社である場合
上記に該当する場合でも、株主の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。この場合において、当該取締役は、同項の書面による通知を発したものとみなす(会社法第299条3項)。
あとでメールでの通知は承諾していない、想定していないメールアドレスに送られてきた等とならないよう、当該同意及びメールの送付先は書面又はメールでもらっておくと良いでしょう。
上記に該当し書面又はメールで招集の通知をするときは、株主総会の日時及び場所その他会社法298条1項で定める事項を記載し、又は記録する必要があります(会社法第299条4項)。
招集通知と委任状
非公開会社の多くは、招集通知を発する際、当日出席できない株主のために委任状を添付することが少なくありません。
これは他の人へ議決権の行使を委任するものですが、その委任先の多くは代表取締役(委任先が空欄の場合、代表取締役に委任したものとみなす場合を含む)の印象です。
この他に、当日出席できない株主をフォローするために書面投票制度又は電子投票制度というものがあります。
誰かに議決権の行使を委任するのではなく、株主本人が書面又は電磁的記録で議決権を行使できるから便利なように見えますが、招集期間が2週間前までであったり、株主総会参考書類の作成が必須であったりと会社側の負担もあり、非公開会社の特に中小企業においては、書面投票制度又は電子投票制度はあまり使われていません。
招集手続きの省略
書面投票制度、電子投票制度を採用する場合を除き、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく株主総会を開催することができます(会社法第300条)。
一例として、招集通知を送付していない状況でも、その場に株主全員がいるときに、株主全員が同意をすれば「今から株主総会を始めます~」と株主総会を開催することができるので、同族会社や株主=役員のような会社ではこの方法は便利です。
書面又は電磁的によるみなし決議
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき当該事項について議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(会社法第319条1項)。
≫みなし株主総会(書面決議・みなし決議)-会社法第319条1項
このみなし決議は、招集の通知期間(会社法第299条1項)の影響を受けませんので、●日前までに提案書を発する等の期間的な制限はありません。7月7日提案、同日同意、同日株主総会のみなし決議成立とすることも可能です。
海外法人の日本支社や、1人法人、100%子会社等、株主が1名の会社ではこの方法は便利です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。