商業登記関係 取締役会、株主総会で何かを決議するときは拒否権付種類株式の対象にご注意を
必要な決議機関を確認する
特に初めて登記のご依頼をいただくクライアントの場合、登記事項の変更にどの決議機関においてどのような決議が必要か(又は不要か)につき、登記簿と定款の確認は慎重に行います。
ご依頼内容の変更を行うためにはどの決議機関による承認が必要かという点は重要であり、必要な決議機関による承認が漏れてしまうと手続きをやり直す必要が生じます。
普通株式しか発行していない取締役会設置会社がその商号を変更するときは、一般的には取締役会の決議で株主総会の招集を決定し(会社法第299条1項)、株主総会の特別決議で定款を変更します(会社法第309条2項)。株主が1名しかいない場合は、株主提案による書面決議(会社法第319条1項)が採用されることもあるでしょう。
普通株式のみを発行している株式会社であれば比較的決議機関が分かりやすいところ、種類株式発行会社となると種類株主総会の決議が必要かどうかの検討が求められます。
種類株主総会の決議が必要なとき
種類株主総会の決議が必要であるときに、この決議を忘れてしまうと実体上の効果に大きな影響を与えてしまいます。
種類株主総会の決議が必要なケースは次の記事にまとめております。
≫種類株式に係る株主総会(種類株主総会)の決議が必要なとき
≫【ケース別】種類株主総会の決議が必要なケース・不要なケース
決議機関を確認する際、個人的に特に注意しているケースは次のとおりです。
常に必ず確認 | 拒否権(会社法第108条1項8号)の有無とその内容 |
役員変更時 | 役員選任権(会社法第108条1項9号)の有無とその内容 |
新株予約権発行時 | 発行可能(種類)株式総数の変更が生じるか 会社法第238条4項の定めが定款にあるか |
シリーズの2ndクローズ | 発行可能(種類)株式総数の変更が生じるか 会社法第199条4項の定めが定款にあるか 1stクローズにおける会社法第200条1項の募集事項の委任の有無 |
取得条項の内容変更(廃止を除く)や新規設定するとき | 当該種類株主全員の同意が得られるかどうか |
上記とは話が逸れますが、取締役会決議をメール決議にて行うときは、会社法第370条の定款の定めの有無とその内容(稀に同意の意思表示方法が書面に限定されている)は確認しています。
拒否権付種類株式
株式会社は、特定の事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます(会社法第108条1項)。
発行会社が株主総会又は取締役会において特定の決議をするときに、投資家が拒否できるよう種類株式の内容に拒否権を盛り込むケースがあります。
拒否権の対象が株主総会における決議だけではなく、取締役会における決議も対象とできる点は見落としやすいかもしれません。
株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第478条第8項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
拒否権条項の有無及び内容を確認をする
シリーズCやDにもなってくると、定款や登記簿に記載された種類株式の内容の記載が多くなり、また、拒否権が記載される決まった位置や順番というのもないため、拒否権条項の見逃さないよう注意が必要です。
一般的な拒否権の対象は、「定款の変更」「募集株式の発行」「減資、剰余金の配当」「組織再編、事業譲渡」「破産手続等の開始の申立て」あたりでしょうか。
その他にも、「代表取締役、取締役、監査役の選任(選定)、解任(解職)」「株式の譲渡」「株式分割、併合」等が拒否権の対象とされているケースもあります。
株式分割や、株式の譲渡承認機関が取締役会となっている株式会社がする株式譲渡の承認は、取締役会の決議だけでそれらの効力を生じさせられるところ、それらが拒否権の対象となっている場合は、取締役会決議とは別に種類株主総会の決議がないと効力を生じさせることができません(種類株式発行会社の株式分割は、定款の規定や会社法第322条1項の観点からの検討も必要)。
種類株式(普通、A種、B種(新株予約権発行につき拒否権))を発行している株式会社が、その目的となる株式の種類を普通株式とする新株予約権を発行するときは、全体の株主総会(会社法第238条2項)に加え、普通株式に係る種類株主総会(会社法第238条4項、定款で排除可)及びB種株式に係る種類株主総会(会社法第108条1項8号)の決議が求められます。
特定の条件を満たした場合は拒否権に基づく種類株主総会が不要となる定め
発行会社Xにおいて種類株主が取締役を(1名)選任し当該取締役が就任しているケースでは、種類株式の内容として拒否権が入っているときでも、発行会社Xの取締役会において取締役全員が承認したときは拒否権に係る種類株主総会の決議は不要としていることがあります。
投資家が選任した取締役が拒否権の対象としている決議事項を拒否することができる体制の構築をもって、実質的に種類株主総会における拒否権の効果を担保しています。
発行会社Xにおいて拒否権の対象に定款変更議案の決議が入っている場合、発行会社Xが商号変更登記を申請するときの添付書類は次のいずれでも可能です。
- 株主総会議事録(全体)、種類株主総会議事録(拒否権あり)、株主リスト
- 株主総会議事録(全体)、取締役会議事録、株主リスト、(取締役会がみなし決議の場合は「定款」)
後者の場合、実開催型の取締役会においては全員が出席の上、当該議案に賛成している内容の議事録である必要があります。
みなし決議型(会社法第370条)の場合は、そもそもその成立に取締役全員の同意が必要であるため、本ケースにおける取締役会議事録の記載事項につき特段気にする点はありません。取締役全員の同意書の添付も不要です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。