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代表司法書士 石川宗徳の 所長ブログ&コラム

ストックオプションとして発行した新株予約権を退職する従業員から取得する(非公開会社)

スタートアップ企業とストックオプション

いわゆるスタートアップ企業は役員、使用人(従業員)又は外部協力者に対する報酬・インセンティブの一つとして、ストックオプション(新株予約権)を付与することがあります。

ストックオプションは予め定められた価格で発行会社の株式を取得することができる権利ですので、例えば株式公開をトリガーとしてその権利を行使することができるよう設計することで、付与者に対して発行会社が株式公開をすることへのインセンティブが働くことになります。

ストックオプションたる新株予約権を付与後いつでも行使できるとなると株主が増えて管理コストが増えること等の理由から、その行使条件を定めることが一般的です(税務上の理由や、資本政策上の理由も大きいところです)。

最近では株式公開だけではなくバイアウト(合併、会社分割、株式の過半数の譲渡、主要な事業の譲渡その他)によるイグジットも増えていることから、新株予約権の行使条件として株式公開だけではなくバイアウトもトリガーとしているケースもよく見かけます。

バイアウトを行使条件とするか取得条項とするか

新株予約権の設計において、バイアウトによるイグジットをするときに新株予約権者が当該新株予約権を行使することができるようにするか(行使条件)、当該新株予約権を発行会社が取得するか(取得条項)は一つのポイントです。

バイアウトによるイグジットをするときに、新株予約権が残っていると買主側が買収先の株式の100%を保有することができないリスクが生じることから、バイアウトに係る株主総会決議(株主総会決議が不要の場合は取締役会決議)をトリガーとする取得条項を設定しておくことで当該リスクを軽減することができます。

会社の成長へのインセンティブという意味では、行使条件として株式公開だけではなくバイアウトもトリガーに含めた方が効果が高いとも言えますので、そのような新株予約権の設計も見かけるケースが増えているところです(バイアウトに係る株主総会決議等の後、一定期間が経過した後は新株予約権が行使できずに消滅又は発行会社が取得する設計です)。

この場合、バイアウトに係る株主総会決議等の後に新株予約権の行使はしたけれども、買主側への株式売却を拒否されてしまうとバイアウトに大きな影響を与えてしまうため、新株予約権者との間で予めバイアウト時には株式売却に協力する旨の合意書や覚書を結んでおくことが考えられます。

ストックオプションの行使時も使用人等であること

ストックオプションは株式公開まで、及び株式公開後も発行会社の成長に貢献することへの報酬・インセンティブという要素があるため、ストックオプションを付与した後すぐに退職した使用人が、数年後発行会社が株式公開した後にストックオプションを行使することができてしまうと報酬・インセンティブとして機能しません。

そのため、行使時において使用人等ではない者はストックオプションを行使できないように設計することが一般的です(死亡した新株予約権者の相続人にその行使を認めるかは一つのポイントです)。

当該設計に関してよく見かける行使条件の定めは、行使時においても発行会社の使用人等であることを条件とするものです。行使条件を満たさない限り新株予約権を行使することはできませんので、発行会社を退職して(行使時に)使用人等でない者は新株予約権を行使することができなくなります。

ところで、新株予約権者が一度退職した後に、株式公開後に復職したような場合、行使時において使用人等であることの行使条件を満たすことができるようにも映ります。

行使時において使用人等であることを行使条件としている場合、当該行使条件を満たすことができなくなったことを取得条項のトリガーとすると、使用人等が退職しただけでは将来復職する可能性はゼロとは言えないためこれを行使条件未達と評価して良いのかは若干の疑義が生じるかもしれません(実務上は、退職者に新株予約権を放棄してもらう、あるいは発行会社が取得するケースが多いでしょう)。

最近では、取得条項のトリガーを役員又は使用人の身分を全て喪失したこととするケースを見かけるようになりました。このような定め方であれば、使用人が退職したときは取得条項に基づき当該使用人から新株予約権を回収することができます(従業員から役員に昇格した者は変わらず行使条件達成不可に該当しません)。

退職者が有するストックオプションの出口

前述のとおりスタートアップ企業において、株式公開前に使用人が退職するときは、一般的に当該使用人が新株予約権を行使できないようにするニーズがあります(定年退職等、退職の理由によっては退職者に新株予約権の行使を認めるかは一つのポイントです)。

加えて、発行会社の管理コストやオプションプール等との兼ね合いから、退職する者の有する新株予約権を消しておきたい又はいつでも消せる状態にしておきたいニーズもあるでしょうか。

新株予約権が消滅する又は発行会社が取得した新株予約権を消却する主な方法は次の3つです。

  1. 行使不能による消滅
  2. 放棄による消滅
  3. 自己新株予約権の消却
行使不能による消滅

新株予約権者がその有する新株予約権を行使することができなくなったときは、当該新株予約権は、消滅します(会社法第287条)。

新株予約権を行使することができなくなったときとは、行使期間が過ぎたときや、行使条件を満たすことができないことが確定したときのようなケースが該当します。

新株予約権が消滅するとその個数が減少するため、その旨の登記が必要となります。新株予約権の目的たる株式の総数を定めている場合は、新株予約権の個数だけではなく「新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法」の内容の変更も生じます。

放棄による消滅

新株予約権者がその有する新株予約権を放棄すると、放棄された新株予約権は消滅します。

退職者に退職日付けで新株予約権を放棄してもらうことは少なくなく、放棄により消滅するものと構成するか、取得条項や割当契約書等に基づき放棄された新株予約権を発行会社が取得するものと構成することになります。

新株予約権が消滅するとその登記が必要となる点は前項のとおりです。

自己新株予約権の取得及び消却

新株予約権者が退職する度に新株予約権の変更登記を行うことはコストがかかるため、発行会社側としては退職者から新株予約権を取得し、ある程度の期間が経過した後にまとめて自己新株予約権を消却することがコスト的に優位です。

自己新株予約権を取得する方法は、新株予約権者との合意に基づき取得する方法と強制的に取得する方法に分けられます。

新株予約権者との合意に基づき取得する

自己株式の取得手続きと異なり自己新株予約権の取得手続きは、取得条項付新株予約権を除き会社法に規定されていません。

そのため、発行会社は新株予約権者との合意に基づき自己新株予約権を取得するというケースもあるかと思います。

使用人向けストックオプションたる新株予約権は、新株予約権の取得条項又は割当契約(総数引受契約)により退職者から新株予約権を回収できるよう設計されていることがほとんどではありますが、もし当該設計がされていない場合、退職者から任意で新株予約権を回収することも選択肢の一つとなるでしょうか。

取得条項に基づき強制的に取得する

新株予約権の内容として、発行会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができる旨(取得条項)を定めることが可能です(会社法第236条1項7号)。

この一定の事由が例えば、役員又は使用人の全ての地位の喪失であれば使用人が退職した(+役員にもならない)ときに退職者が保有している新株予約権を発行会社が取得します。

取得条項として定める主な内容は次のとおりです(会社法第236条1項7号)。ストックオプションでは取得条項に基づく取得の対価を定めない(あるいは対価を無償と定める)ことが多いためここでは対価に関する記載は割愛しています。

  • イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨及びその事由
  • ロ 当該株式会社が別に定める日が到来することをもってイの事由とするときは、その旨
  • ハ イの事由が生じた日にイの新株予約権の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する新株予約権の一部の決定の方法

取得条項に基づき発行会社が新株予約権を取得する手続き

取得条項付新株予約権は前項のとおり一定の事由が生じた日に取得するパターン(上記イ)、取締役会等が別に定める日が到来することで取得するパターン(上記ロ)及びそれらに上記ハを追加したパターンがあります。

上記イは予め定めた一定の事由が生じたときに(自動的に)自己新株予約権を取得し、上記ロは一定の手続きを経た後に自己新株予約権を取得することになりますが、どちらもその手続きが会社法に定められています。

(イ)一定の事由が生じた日に取得するパターン

一定の事由が生じた日に発行会社が新株予約権を(自動的に)取得する取得条項の記載例は次のとおりです。

新株予約権者が当社の取締役又は従業員の地位をいずれも失った場合には、当社は、当該新株予約権者が有している本新株予約権の全部を無償で取得する。

※上記の記載例はあくまで一例であり、対象として子会社の役員等の地位を含めていない、あるいは定年退職や他会社への出向等の事情に対応していない内容ですので、実際に新株予約権の発行要項を作成される際は各会社の事情に合わせた内容としてください。

定年退職等の個別の事情に対応するため、取締役会が認めた場合はその限りでない旨を定めたり、上記ハのとおり取得する新株予約権につき取締役会で全部又は一部で決定する旨の記載をすることがあります。

「一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨及びその事由(会社法第236条1項7号イ)」を定めたときは、当該事由が生じた日に対象となる新株予約権を取得します(会社法第275条1項1号)。

発行会社は、上記事由が生じた後遅滞なく、対象となる新株予約権者に対して当該事由が生じた旨を通知又は公告をします(会社法第275条4項、5項)。

(ロ)取締役会が別に定める日が到来することで取得するパターン

発行会社が別に定める日が到来することを取得の事由とするときの取得条項の記載例は次のとおりです。

新株予約権者が当社の取締役又は従業員の地位をいずれも失った場合には、当社は、当社の取締役会が別に定める日の到来をもって、当該新株予約権者が有している本新株予約権の全部を無償で取得する。

※前項の記載例と同様に上記の記載例はあくまで一例ですので、前項同様に各会社の事情に合わせた内容としてください。

上記の取得条項に基づき発行会社が新株予約権を取得するときは、発行会社が「別に定める日」を取締役会の決議によって定めます(会社法第273条1項)。

「別に定める日」を定めたときは、発行会社は対象となる新株予約権者に対し、当該日の2週間前までに、当該日を通知又は公告をしなければなりません(会社法第273条2項)。

「別に定める日」の到来をもって、発行会社は新株予約権を取得します。

(ハ)取締役会が取得する一部を決定するパターン

一定の事由が生じた日にその一部を取得することができるようにするときの取得条項の記載例は次のとおりです。

新株予約権者が当社の取締役又は従業員の地位をいずれも失った場合には、当社は、当該本新株予約権者が有している本新株予約権の全部又は一部を無償で取得する。取得する本新株予約権は取締役会の決議において決定する。

※前項の記載例と同様に上記の記載例はあくまで一例ですので、前項同様に各会社の事情に合わせた内容としてください。

上記の取得条項に基づき発行会社が新株予約権を取得するときは、その取得する新株予約権を取締役会の決議によって決定します(会社法第第274条1項)。

発行会社は、上記取得事由が生じ取得する株式を決定した後、対象となる新株予約権者に対して当該取得事由が生じた旨及び新株予約権を取得する旨を通知又は公告をします(会社法第274条3項、4項)(会社法第275条4項、5項)。

発行会社は、上記通知の日又は公告の日から2週間を経過した日に当該新株予約権を取得します(会社法第275条1項2号)。

新株予約権の消却、消滅と登記

自己新株予約権を消却したとき、又は新株予約権が消滅したときは、その時から2週間以内に管轄法務局へその旨の登記申請をします(会社法第915条1項)。

自己新株予約権の消却又は消滅に係る登記手続きは次の記事をご確認ください。

≫自己新株予約権の消却手続きと登記
≫新株予約権の行使不能と登記手続き
≫新株予約権の放棄と登記手続き


この記事の著者

司法書士
石川宗徳

代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]

1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)

2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。

2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。

また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。

RSM汐留パートナーズ司法書士法人では、
商業登記不動産登記相続手続き遺言成年後見など、
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