商業登記関係 株式譲渡と利益相反承認決議
中小企業の株式を譲渡する
株式会社(特例有限会社を含みます、以下同じ)の株式は、他人に譲渡することができます。株式の売買は、投下した資本を回収する一つの手段です。
株式譲渡と株式譲渡制限
株式を譲渡するときは、当該株式に譲渡制限が付いているかどうか確認をしなければなりません。上場会社を除き、ほとんどの株式会社では株式の譲渡制限を設定しています。
譲渡制限といっても、それは譲渡すること自体が制限されているわけではなく、譲渡をするときに会社の承認を要するというものです。
譲渡制限規定を無視して他人に株式を譲渡することは可能であり、当事者間でその譲渡契約は成立し得ますが、譲受人がその株式の所有者であることを当該株式会社に主張をすることはできません。
株式譲渡と利益相反
株式譲渡をするときに、ついつい忘れがちな(であることをよく見かける)のが利益相反の承認決議がされていないことです。
利益相反承認が必要なケースは全ての株式譲渡に当てはまるのではなく、一定のケースに限られます。
典型的な例は、X株式会社の株式を所有しているAさんが、その株式を、Aさんが代表取締役となっているY株式会社へ譲渡するようなケースです。
取締役が自身が役員を務める会社と取引をするときは、その会社の承認を受けなければならないとされています(会社法第356条1項)。
上記のケースでは、AさんとY株式会社の取引(株式譲渡)がそれに該当します。
(競業及び利益相反取引の制限)
会社法第356条1項取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
1 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
2 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
3 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
利益相反の承認決議
株式会社の取締役が利益相反取引を行うときは、会社からその承認を得る必要があります。
取締役会設置会社においてはその承認を取締役会決議で行い、取締役会非設置会社においてはその承認を株主総会決議で行います。
譲渡人・譲受人は議決権を行使することができるか
株式譲渡の当事者である譲渡人・譲受人が、当該利益相反取引の承認決議において議決権を行使することができるかどうかは、その決議機関によって異なります。
取締役会設置会社の場合
取締役会設置会社の場合、上記のとおり利益相反取引の承認は取締役会において行いますが、譲渡人・譲受人は特別利害関係者に該当するため、取締役会の決議に参加することができません(会社法第369条2項)。
取締役会非設置会社の場合
取締役会非設置会社の場合、上記のとおり利益相反取引の承認は株主総会において行いますが、結論から申し上げますと譲渡人・譲受人は議決権を行使することができます。
株主総会で株主が議決権を行使できない事項については、次の記事をご参照ください。
ただし、利害関係を有する株主が議決権を行使した結果、著しく不当な決議がなされた場合には決議取消事由となる可能性があります(会社法第831条1項)。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。