商業登記関係 取得請求権付株式を設定する
会社にその株式の取得を請求することができる株式
株式会社は、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができることをその内容とする株式を発行することができます(会社法第107条、第108条)。
この株式は、発行会社に対して当該会社が取得する請求権が付いている株式であるため、取得請求権付株式と呼ばれています。
あくまで請求できるのは株主であり、発行会社が株主からその保有株式を会社に渡すよう請求することができるわけではありません。
取得請求権付株式を設定する
発行する全ての株式に取得請求権を付けることはあまり多くはないと思いますので、種類株式として一部の種類株式に取得請求権を付けるケースを考えます。
取得請求権付株式は定款を変更する方法により設定しますので、株主総会の≫特別決議が必要です。
例えば対価を金銭とする取得請求権付株式を設定するときは、当該株式につき定款に次の事項を定めます。
- 会社に対して取得請求をすることができる旨
- その対価が金銭である旨とその金額またはその算定方法
- 取得請求をすることができる期間
なお、取得請求権付株式について定款に定めただけでは誰も取得請求権付株式の保有者となっていませんので、実際に発行するには別途募集株式の発行の手続きを採るか、現在の株主が保有している株式を取得請求権付株式に変えることになります。
種類株主総会の決議が必要か確認する
種類株式を発行している会社が新たに取得請求権付株式を発行できるようにする、あるいは既にある種類株式に取得請求権を付けるときに、特定の種類株式を保有する株主に損害を及ぼす可能性がある場合は、当該種類株式に係る株主総会の特別決議も必要となります。
ただし、当該種類株式に係る株主総会において議決権を行使することができる種類株主がいない場合は、この限りではありません(会社法第322条1項)。
株主が所有している株式を取得請求権付株式に変更する
株主が現在保有している株式の種類を変更することもできるとされています。
例えば発行している株式が次のような株式会社において、
であるときに、定款に取得請求権付株式の定めがあるときは、原則として株主全員の同意あるいは合意により、
とすることもできます。
取得請求権付株式の取得を請求する
取得請求をすることのできる期間(及び取得請求の条件を定めているときはその条件)を満たしているときは、取得請求権付株式の取得を発行会社に対して請求することができます。
取得請求権付株式の株主が発行会社に対して取得の請求をしたときは、発行会社が取得請求権付株式を取得し、当該株主はその対価を得ることになります。
会社はその自己株式を募集株式の発行の方法により株主や第三者に交付することもできますし、自己株式の消却手続きを採ることもできます。
また、そのまま自己株式を保有しておくこともできます。
取得請求権付株式の対価と分配可能額
取得請求権付株式の取得が請求された場合においても、当該請求日における分配可能額を超えて対価を交付することはできませんので、当該株主は取得請求権付株式の取得を請求することができません(会社法第166条1項)。
なお、発行会社の株式を対価として交付する場合は、分配可能額の制限はありません。
取得請求権付株式の対価となる株式と発行可能株式総数
取得請求権付株式の対価が他の株式であるときに、対価として自己株式ではなく新たに株式を発行して交付する場合は発行可能株式総数に注意が必要です。
発行可能株式総数及び発行可能種類株式総数を超えて新たに株式を発行することはできませんので、必要に応じて、株主総会の特別決議により発行可能株式総数及び発行可能種類株式総数を増加する定款変更をします。
取得請求権付株式の取得と変更登記
取得請求権付株式の取得が請求されると、発行会社は取得請求権付株式を取得し(自己株式となる)、取得請求をした株主はその対価を得ます。
対価が金銭あるいは自己株式であるときは、発行済株式数も資本金の額の変動も生じないため、変更登記をする必要がありません(することができません)。
取得請求権付株式の対価として発行会社が別の種類の株式等を新たに発行し交付するときは、その新たに発行した分につき発行済株式数等の変更登記をします。
会社が取得した自己株式を消却したときは、その取得請求権付株式の減少に係る変更登記をします。
登記期間は、それぞれ効力発生日から2週間以内です(会社法第915条1項)。
取得請求権付株式の取得と資本金の額
取得請求権付株式の対価として株式や新株予約権、社債を交付したときも、金銭等の財産を交付したときも資本金の額に変動はありません。
これは対価となる株式につき、自己株式を交付した場合も新たに株式を発行した場合も同様です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。