商業登記関係 役員(取締役・監査役)の任期が過ぎてしまっているとき
役員の任期と選任懈怠
株式会社の取締役及び監査役(併せて、役員といいます。)には任期があり、任期の満了をもって退任します。
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり(会社法第332条1項)、
監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなっています(会社法第336条1項)。
ただし、非公開会社の場合は定款に定めることにより、任期をそれぞれ10年まで伸長することが可能とされています。
役員の任期は、選任の日からぴったり2年(または4年)ではないため、任期の計算には注意が必要です。
役員の任期が切れていた…
- 役員の任期の計算を間違っていた…
- 役員に任期があることを知らなかった…
- 同じ人が役員であり続けるときは再選や登記の手続きが不要だと思っていた…
- 任期がもうすぐ満了することは知っていたが取締役選任決議をし忘れていた…
などを理由に、役員の任期が切れてしまっているケースがあります。
このような場合、このまま放置しておいていいということはなく、何か対応をしなくてはなりません。
既に役員ではなくなっている可能性
辞任とは異なり、任期満了による退任にはその役員の意思は関係がありませんので、時期の到来とともに自動的に退任をしてしまいます。
既に役員ではないのに、役員として行動してしまっているという状況もあるかもしれません。
例えば、取締役Aが1名いる株式会社(定款の規定も「取締役1名以上を置く」)において取締役Aの任期が切れているところ、取締役を増員するために取締役Bを追加したというケースではどうでしょう。
会社は取締役AB(代表取締役A)の2名体制だと思っていたとしても、取締役Bが選任されたことにより取締役Aは任期満了により退任してしまっています。
Aは代表取締役でも取締役でもないのに、会社の代表として活動をしてしまっているということになります。
権利義務取締役、権利義務監査役
任期満了により退任した役員は、その役員が退任することにより役員の数が会社法または定款で定めた人数に満たなくなってしまうときは、新たに役員が選任されるまでは役員としての権利義務を有します(会社法第346条1項)。
役員としての権利義務を有してはいますが、任期が切れていることには変わりはなく、また次に記載のあるとおり選任懈怠の状態に陥ってしまっています。
ずっと放置していると…
役員の選任の懈怠及びその登記を懈怠していてると何が問題になるのでしょうか。
まず選任懈怠、登記懈怠は会社法に違反していますので、過料に処せられてしまう可能性があります。
次に、株式会社の場合は12年以上何も登記をしていない場合は、一定の手続きを経た後に職権で解散の登記をされてしまいます。
大事な取引の際に、相手から会社登記簿謄本の提出を求められ見てみたら、いつの間にか解散の登記がされていた、、、解散状態の会社とは取引をしない可能性は低くはないかもしれませんね。
職権で解散の登記をされた後も、解散状態を解消する継続の登記をすることは可能ですが、役員変更登記と比較して多くの費用がかかります。
役員を選任する
役員の選任懈怠を解消するには、株主総会を開催して役員を選任する必要があります。
取締役会設置会社においては取締役が3名以上いなければなりませんが、後任者が3名決まらず、取締役の人数を2名以下としたいときは取締役会を廃止する方法が考えられます。
取締役会を廃止するには、株主総会の特別決議によって定款の変更をします。
退任日、就任日
権利義務役員は、特定の定時株主総会の終結の時に任期が満了して退任しています。
平成29年3月末の事業年度に関する定時株主総会の終結の時が任期満了である役員の退任日は、平成29年5-6月頃に実際に開催された日であり、開催をしていなかった場合は、定款に事業年度末から3ヶ月以内に定時株主総会を開催すると定められているときは、平成29年6月末日が退任日となります。
なお、就任日は当該取締役が就任を承諾した日です。
選任された役員の任期
役員の任期の起算点は、就任のタイミングに関わらずその役員が選任された時です。
これは役員の任期が満了し、数年経ってから同じ役員が選任されたときでも変わりはありません。
例として、任期が2年以内に終了する事業年度~となっている会社において、その会社の事業年度末が12月のケースでは次のようになります。
平成25年3月に選任された取締役Xが、平成27年3月に任期満了による退任していたが権利義務取締役となっている場合に、平成28年3月の定時株主総会でXが取締役として選任されたときは、平成30年に開催される定時株主総会の終結時までがその任期となります。
権利義務役員の選任と本人確認証明書
取締役会設置会社の取締役(代表取締役を除く)や監査役は、その就任の登記申請には本人確認証明書の添付が必要です。
しかし、上記の取締役Xが取締役会設置会社の取締役(代表取締役ではない)であったときに、退任と就任の登記を1つの申請でする場合は、登記申請の添付書類として本人確認証明書は不要とされています。
同様に、取締役会非設置会社の取締役や取締役会設置会社の代表取締役の就任登記に添付が必要な印鑑証明書についても、再任の場合は添付が不要です。
役員変更登記の添付書類
役員全員の任期が切れている取締役会設置会社で、同じ役員が再度選任されたときの登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- 就任承諾書
早く登記申請をする
役員の任期が過ぎていたとしても、事業を継続するのであれば、いつかは必ず役員変更の登記を申請しなければなりません。
登記懈怠や選任懈怠は、その期間が長ければ長い程過料が課される可能性が高くなり、金額も大きくなるという話を聞きます。
そうであれば会社として行うことは、任期切れに気付いてから早い段階で株主総会を開催して役員の選任をし、その登記申請をすることではないでしょうか。
役員の変更登記でお困りの方は、こちらの≫お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。