商業登記関係 取得条項付株式の取得事由が発生した場合の、当該株式の取得
取得条項付株式の一定の事由の発生
株式会社は、当該会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることをその内容とする株式を発行することができます(会社法第107条、108条)。
この株式は、発行会社が一定の事由(「取得事由」といいます)が生じたことを条件に取得することができるため、「取得条項付株式」と呼ばれています。
取得事由の発生と取得手続き
取得事由が生じたときに発行会社が株式を取得することになりますが、
- 取得事由を「会社側が取得日を別に定める日の到来」としているかどうか
- 取得条項付株式の(全部ではなく)一部を取得するとしているかどうか
- 株券発行会社かどうか
により、手続きが異なります。
取得事由を「会社が別に定める日の到来」としていない場合
取得事由を「会社が別に定める日の到来」としていない場合は、取得事由が生じたときに会社が当該取得条項付株式を取得します。
取得条項付株式の全部を取得する場合と、取得条項付株式の一部を取得する場合の手続は次のとおりです。
取得条項付株式の全部を取得する
取得事由の発生をもって、会社が当該取得条項付株式の全部を取得することになります。
効力発生後、遅滞なく、取得事由が発生したことを当該取得条項付株式の株主に対してその旨を公告「または」通知します(会社法第170条)。
公告「及び」通知ではないため、どちらか一方を行えば問題ありません。
取得条項付株式の一部を取得する
取得条項付株式の一部を取得するとしている場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合は、株主総会の普通決議)によって取得する株式を決定します。
取得する株式を決定したときは、取得する対象となる取得条項付株式の株主に対して、直ちに当該取得条項付株式を取得する旨を通知または公告しなければならないとされています(会社法第169条)。
この場合の効力発生日(会社が取得条項付株式を取得する日)は、
- 取得事由の発生日
- 上記会社法第169条の通知または公告をした日から2週間を経過した日
のうち、いずれか遅い日となります(会社法第170条1項)。
取得事由を「会社が別に定める日の到来」としている場合
取得事由を「会社が別に定める日の到来」としている場合、「会社が別に定める日」は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合は、株主総会の普通決議)によって定めます(会社法第168条)。
取得条項付株式の全部を取得する場合と、取得条項付株式の一部を取得する場合の手続は次のとおりです。
取得条項付株式の全部を取得する
取得事由を「会社が別に定める日の到来」としている場合で、取得日を定めたときは、当該取得日の2週間前までに、当該取得日を取得条項付株式の株主に対して通知または公告をしなければなりません(会社法第168条)。
ある日突然、明日を取得条項付株式の取得日とすることはできないということです。
取得日に、対象となる取得条項付株式の全てを会社が取得します。
取得条項付株式の一部を取得する
取得条項付株式の一部を取得するとしている場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合は、株主総会の普通決議)によって取得する株式を決定します。
取得する株式を決定したときは、取得する対象となる取得条項付株式の株主に対して、直ちに当該取得条項付株式を取得する旨を通知または公告しなければならないとされています(会社法第169条)。
この場合の効力発生日(会社が取得条項付株式を取得する日)は、
- 取得日と定めた日
- 上記会社法第169条の通知または公告をした日から2週間を経過した日
のうち、いずれか遅い日となります(会社法第170条1項)。
株券発行会社と株券提供公告+通知
株券を発行している会社は、上記手続きに加えて、取得条項付株式の株主に対して株券を提供しなければならない旨の公告と通知をしなければなりません(会社法第219条1項4号)。
公告+通知が必要とされており、どちらか一方だけでは足りません。
この期間は、1ヶ月以上前に行わなければなりませんので、株券を発行している会社はスケジュール管理に気を付けた方がいいでしょう。
この公告は、定款で定められている公告方法によって行います。
株券提供公告の記載例
当社は、取得条項付株式であるA種株式を取得することにいたしましたので、該当株券を所有する方は、株券提出日である平成30年5月30日までに当社にご提出下さい。
なお、取得事由は、定款に定める○○の発生であり、該当株券はA種株式の株券全部となります。
東京都中央区銀座七丁目13番8号
汐留太郎株式会社
代表取締役 汐留太郎
対価が金銭である場合と分配可能額
取得条項付株式の取得事由が生じた場合においても、当該株式の取得日における分配可能額を超えて対価を交付することはできません。
そのため、分配可能額が足りない場合は、当該会社は株主からは取得条項付株式の取得をすることができません。
なお、発行会社の株式を対価として交付する場合は、分配可能額の制限はありません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。