商業登記関係 (ケース別)株式会社における株主総会の定足数はどのような定め方をしておくのがよいか
株主総会の決議要件
株式会社の株主総会では、決算の承認や剰余金の処分(配当)、募集株式の発行等、多くの重要な事項を決議することができます。
株主総会の決議は、各議案につき、全体の議決権数に対して一定の議決権数を持つ株主が賛成することにより成立します。
議案の内容によって賛成が必要な議決権数は異なっており、この必要な議決権数に応じた決議要件を普通決議、特別決議、特殊決議等と呼んでいます。
≫株主総会とその決議要件(普通決議、特別決議、特殊決議 他)
普通決議
株主総会の普通決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行います(会社法第309条1項)。
100株発行している株式会社においては、合計51株以上を保有する株主(複数可)が出席しないと株主総会の普通決議を成立させることはできず、また、出席した株主の議決権の過半数が承認する必要があります。
一方で、「定款に別段の定めがある場合を除き」とあるとおり、決議要件につき定款で別段の定めを設けることができます。
インターネットで拾うことができる定款の多くには、次のような定めが置かれていることが少なくありません。
第●●条 株主総会の決議は、法令又は定款に別段の定めがある場合を除き、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う。
これは普通決議における定足数を排除する規定であり、1株しか保有しない株主のみが出席した場合でも、普通決議を成立させることができるようになっています。
特別決議
株主総会の特別決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行います(会社法第309条2項)。
普通決議との大きな差は、議案を承認するためには出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な点です。
インターネットで拾うことができる定款の多くには、次のような定めが置かれていることが少なくありません。
第●条の2 会社法第309条第2項の定めによる決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上をもって行う。
これは定足数を過半数から3分の1まで緩和している規定であり、株主総会の成立をしやすくしている規定といえます。
特殊普通決議
役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行います(会社法第341条)。
普通決議に似ていますが、普通決議と異なり、定足数を完全に排除することができません。
こちらについても、定足数を3分の1まで緩和している定款例を良く見かけます。
株主構成と定足数の定め方
会社の運営が上手く行っていれば、株主総会の決議で何か問題が生じることは少ないでしょう。
しかし、株主が複数いるときは、数年後に株主と連絡が取れなくなってしまったり、株主と敵対的な関係になってしまう可能性はゼロではありません。
(職業柄、そのようなお話を耳にすることが少なくありません。)
そのために、予防という意味を込めて設立時、あるいは設立後でも株主との関係が円満なうちに、定款の規定を見直しておくというのも長期的な視点から大切なことではないかと考えます。
株主が1名のケース
株主が1名であれば、株主総会のどのような決議においても、当該株主の同意・賛成が必要となります。
そのため、株主総会の決議に関する定款の規定は何でも問題ありません。
ただし、株式の一部を譲渡したり、株主以外の者へ募集株式の発行をするときは、定款の規定を見直した方が良いでしょう。
持株比率が1:1のケース
2名で新たに株式会社を設立するときに、2名とも取締役兼代表取締役になり、株式を半分ずつ持ち合うというケースがあります。
このときに、定款で普通決議や特別決議の定足数を緩和しておかないと、一方と連絡が取れなくなってしまったときに株主総会の決議が全くできなくなってしまうというリスクがあります。
そのため、定足数を過半数から緩和しておくメリットはあるといえます。
一方で、(1名が取締役でないような場合は)招集通知を見忘れてしまう等により、相手方のみで株主総会を成立させられてしまうリスクは抱えることになります。
しかし、そもそも50:50の割合で株式を保有することは、可能であれば避けた方が良いと考えます。
持株比率が2:1のケース
発行済株式数が300株で、株主2名がそれぞれ200株と100株を保有しているケースはどうでしょうか。
この場合、定款で普通決議や特別決議の定足数を3分の1と緩和することにより、200株保有する株主と連絡が取れなくなったとしても、100株保有する株主だけで株主総会の決議を成立させることができます。
しかし、200株保有する株主からすると、全体の3分の2以上の議決権を確保しておきながら、自分の関与なしに特別決議が成立してしまうリスクを抱えることになります。
200株保有する株主がそれを嫌がるのであれば、定款で普通決議や特別決議の定足数を緩和しない方がいいでしょう。
持株比率が51:49のケース
このケースも上記「持株比率が2:1のケース」と同様に、定款で普通決議や特別決議の定足数を3分の1と緩和すると51%保有する株主にとって、自分の関与なしに株主総会の決議を成立させられてしまうリスクがあります。
とはいえ、招集通知を受け取ったときに株主総会に毎回出席(委任状含む)するのであれば、自分だけで普通決議を成立させられるのですから、毎回出席すれば良いだけともいえます。
一方で、普通決議や特別決議の定足数を緩和しないと、51%保有する株主と連絡が取れなくなってしまった場合、株主総会の決議を全くすることができなくなってしまいます。
持株比率が1:2(経営に関与しない株主)のケース
外部の方から出資を受けて、経営者は全体の3分の1の株式しか保有していないケースがあります。
何らかの事情で、全体の3分の2の株式を保有する株主が、出資はするけれども経営には口を一切出さないし、そもそも株主総会の決議に参加することを煩わしいと考えていたとします。
このような場合は、普通決議や特別決議の定足数を定款で3分の1まで緩和しておいた方がいいでしょう。
出資者が良いと言うのであれば、種類株式の議決権制限株式を交付することも考えられます。
株主構成や事情によって変更する
定款で普通決議や特別決議の定足数を緩和することは、それぞれの会社の株主構成や事情を考慮した上で決定します。
インターネットにある定款は一般的な例、あるいはサンプルですので、全ての会社にフィットしたものではありません(多くの場合、その内容で問題なかったりもします)。
もちろん、内容を把握した上で利用したり、定足数を緩和したりするのであれば何の問題もないでしょう。
設立する、募集株式の発行をする等で、株主が2名以上に増えるときは、株主総会の決議に関する定足数についても気にしてみてはいかがでしょうか。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。