商業登記関係 株式会社の株主総会、取締役会における条件付き決議のあれこれ
株主総会、取締役会の決議と効力発生
株主総会の決議、あるいは取締役会の決議で、何かを決定したときは、原則としてその決議が成立したときにその効力が発生します。
株主総会で事業目的に係る定款を変更する決議を行えば、その決議が成立したときに定款変更の効力が生じます。
また、種類株式を設けていない株式会社において、取締役会の決議で株式を分割する決議を行えば、その決議が成立したときに株式は分割されます。
会社の都合上、決議が成立したときにその効力を生じさせることが望ましくないときは、効力発生日を定めたり、効力を生じさせるための条件を設定することができます。
効力発生に順番を付ける
効力の発生に順番を付けることは、使わないように構成する方がシンプルではありますが、一定のケースではその効力を発揮することがあります。
例えば、募集株式の発行をするケースを考えてみます。
現在の発行可能株式総数を超えて新しく株式を発行するときは、発行可能株式総数を変更(拡大)した上で行われますが、発行可能株式総数の変更が承認されるか分からない状況では、募集株式の発行を発行可能株式総数の変更の効力発生を条件とすることがあります。
また、
- 取締役会の決議(募集株式の発行の意思決定、株主総会招集決定)
- 株主総会の開催
- 募集株式の引受けの申込みをしようとする者への通知
- 募集株式の引受けの申込み
- 取締役会の決議(募集株式の割当て決定)
- 募集株式の割当て通知
- 出資の履行
と手続きは進んでいきますが、上記5の決議は、上記1の取締役会で行うことも可能です。
ただし、「次の者から申込みがあることを条件に」等の文言を入れることが一般的です。
効力発生日を指定する決議
条件とは別に、効力発生の日を指定して決議することも可能です。
定款一部変更の決議をするときに、その定款変更の効力発生日を数日後とするようなケースです。
定款変更をともなう本店移転を移転日よりも前に決議するときは、移転日に定款変更の効力が生じるように効力発生日を指定することがあります。
なお、解散決議については株主総会の決議日より遠く離れた日を解散の効力発生日とすることはできません。
条件付き決議を利用するケース
条件付き決議はどのようなケースで利用されるのでしょうか。
条件付き決議は株主総会、取締役会の意思決定次第ですので、条件付き決議を利用する条件というものはなく、いつでも利用することはできます。
よく利用されるケースとしては次のようなものがあります。
定款変更をともなう本店移転
定款変更をともなう本店を行うようなケース(東京都港区から中央区へ移転)では、流れとしては定款を変更した後に、具体的な本店の所在場所を決定します。
株主総会の決議(定款変更)の前に、取締役会の決議で具体的な本店の所在場所を決めるのであれば、取締役会の決議内容として、株主総会の決議で定款変更が可決されることを条件に本店の所在場所を次のとおりとする、等とすることがあります。
株式分割と募集株式、新株予約権の発行
株式分割と前後して募集株式の発行や募集新株予約権の発行を行うときは、その募集株式の発行等の効力発生が株式分割の前であるのか後であるのかを明確にしておくニーズがあります。
発行済株式数が100株の株式会社が、株式分割をして発行済株式数を10,000株とした上で新たに100株を発行するようなケースでは、株式分割の効力発生を条件しておくことにより、もし株式分割が発生しなかったときに発行済株式数が200株となってしまうことを防ぐことができるでしょう(この場合、引受人がものすごく得をしてしまいます)。
これは募集新株予約権の発行についても同様のことが言えます。
なお、新株予約権の発行後に株式分割の効力を生じさせるときは、株式分割にともなう新株予約権の変更も同時に(弊所の場合は)行います。
- 株式の分割
- 募集新株予約権の発行
- 第1回新株予約権の変更
増資と減資
増資と減資を同時、あるいは増資を先行して行うときに、現在の資本金の額を超える額を減資する旨の決議をすることあります。
例えば資本金1億円の株式会社が、9月1日に5億円増資して、9月1日に5億円減資するようなケースです。
増資の効力が発生しないと減資の効力も発生させることはできないため(資本金1億円を5億円減資することはできない)、減資の効力発生条件を増資の効力発生としたりします。
組織再編と条件付き決議
組織再編を行うときに条件付き決議を利用するケースがあります。
新設分割のときに、分割会社と同じ本店に新設法人を設立し、新設法人の商号を分割法人の商号と同一とするために分割法人の商号変更も同時に行うようなケースでは、新設分割の効力発生条件を分割会社の商号変更の効力発生とすることもあるでしょう。
あるいは、株式交換のときに完全子会社の自己株式が効力発生日の前日等に消却される予定であるときに、それが全て消却されることを株式交換の効力発生条件とすることもできます。
また、対価の調整として合併存続会社や株式交換完全親会社等が株式分割をするときは、合併等の効力発生条件を株式分割の効力発生とすることも考えられます。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。