商業登記関係 定時株主総会における取締役・代表取締役の変更登記と添付書類(取締役会設置会社)
定時株主総会と取締役・代表取締役の重任登記
取締役の任期は「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」ですので(会社法第332条1項)、株式会社が毎年必ず行う定時株主総会(会社法第296条1項)においては、取締役を含む役員等の任期が満了するかどうかは確認した方が良い事項の一つです。
役員の任期が今年の定時株主総会の終結の時に満了する場合、当該役員に継続して役員をお願いするのであれば当該定時株主総会で改めて選任する必要があり、この選任を忘れてしまうと(他に役員を最低員数選任しない限りにおいて)既存の役員が権利義務役員となり、役員の選任懈怠状態となってしまいます。
さらに、任期の満了する役員の選任をし忘れ当該役員が権利義務役員になるのであれば、役員としての業務を行うことができますが、新しく役員が選任されていて新任の役員だけで最低員数を満たしてしまう場合、任期の満了する役員は退任してしまいます。
ここでは取締役会設置会社における取締役の任期が満了するときの登記手続きについて記載しています(監査役や会計参与の任期も合わせてご確認ください)。
任期を確認する
株主総会の目的である事項を取締役が決定するときに(会社法第298条1項)、定款に記載されている取締役の任期を確認します。
任期の起算点は「選任時(not 就任日)」であり、事業年度末日に取締役が選任されたようなケースでは選任日の初日が含まれるのかどうかに注意が必要です。
≫取締役、監査役の任期の計算方法
また、各取締役の選任日が全て同日でないようなケースでは、取締役の補欠規定や増員規定の確認も必要でしょう。
≫取締役・監査役の任期に関する補欠規定と増員規定
任期が満了する旨の議事録の記載
取締役の任期が当該定時株主総会の終結の時に満了することを登記官に示すため、株主総会議事録にその旨を記載します。
「取締役全員が本定時株主総会の終結の時をもって任期満了により退任するため、次の取締役候補者を…」等という記載であれば退任する取締役が明確であり問題ありませんが、「取締役1名が本定時株主総会の終結の時をもって…」という記載だと誰が退任するのか分かりません。
そのため、「取締役1名(田中一郎)が本定時株主総会の終結の時をもって…」あるいは「取締役田中一郎が本定時株主総会の終結の時をもって…」等のように退任する取締役を特定すると良いかと思います。
みなし決議では就任承諾書が必須
株主総会のみなし決議(会社法第319条1項、みなし報告につき会社法第320条)、取締役会をみなし決議(会社法第370条)で行った場合は、登記手続き上、再任取締役を含めて就任する取締役・代表取締役の就任承諾書が必須となります。
株主総会や取締役会が実開催型の場合、株主総会議事録につき取締役の就任承諾を証する書面として援用することも可能ですが、援用するには一定の条件がありますのでご注意ください。
≫株主総会議事録を取締役、監査役の就任承諾を証する書面として援用する
なお、取締役会設置会社が取締役会のみなし決議を行うにはその旨の定款の定めが必要です。
≫みなし取締役会(みなし決議・書面決議)-会社法第370条
代表取締役選定に係る取締役会議事録と押印
代表取締役を選定した取締役会議事録(実開催型)には、原則として出席役員全員の個人実印を押印し出席役員全員の印鑑証明書を用意するところ、変更前の代表取締役が権限を持って出席し当該代表取締役が登記所に提出している印鑑を押印したときは、他の役員の実印押印・印鑑証明書の用意は不要となります(商業登記規則第61条6項)。
実務的には、出席役員全員に実印を押印してもらい、印鑑証明書を用意してもらうことは大変なため、後者の方法が採用できるのであれば採用されるケースがほとんどです。
なお、後者の方法を採用する場合でも、実開催型の取締役会議事録(書面)には出席役員が署名又は記名押印します(会社法第369条3項)。
変更前の代表取締役が役員として再任されないのであれば、後者の方法を採用することはできません(取締役会に権限をもって出席することができないため)。
取締役会議事録と電子署名
代表取締役を選定した取締役会議事録につき電磁的記録をもって作成されている場合は、電子署名がされたものを登記に使用することも可能です。ただし、代表取締役を選定した取締役会議事録への電子署名は、全員が登記に使用可能なクラウドサイン等の電子署名をするだけでは足りません。
この場合、代表取締役が商業登記電子証明書又は公的個人認証サービス電子証明書等の電子署名をするか(この場合、他の出席役員はクラウドサイン等の特定の電子署名でもOK)、出席役員全員が公的個人認証サービス電子証明書等の電子署名をする必要があります。
代表取締役の重任と新住所
代表取締役の住所は登記事項であるところ、代表取締役が住所を移していて再任時の住所が再任前の登記簿記載の住所と異なるときは、住所変更登記を省略して再任時の(移転後の)住所で重任登記をすることが可能です。
代表取締役の重任登記をするときは、代表取締役の住所に変更がないか確認をしておきましょう。
代表取締役が再任後に住所を移転したときは、再任の登記+代表者住所移転の登記を申請することになります。
取締役の選任と種類株式
種類株式を発行している株式会社が取締役を選任するときは、種類株式の内容として次の定めがある場合はそれに沿った手続きをします。
「1」+定款の定足数・決議要件を含め取締役の選任が成立しているかどうか、「2」は拒否権を持つ種類株式に係る種類株主総会を行っているかどうか、「3」は取締役の選任権を持つ種類株式に係る種類株主総会によって選任されているかどうかを確認します。
「2」につき種類株式に拒否権が付いている場合でも、取締役全員が承認したときは当該種類株主総会を要しないと定められているときは、当該種類株主総会議事録の代わりに、取締役全員が承認したことの分かる取締役会議事録等を添付することになります。
会計監査人の重任
取締役の話ではありませんが、会計監査人設置会社は定時株主総会において別段の決議がされない限り自動再任となりますので(会社法第338条2項)、会計監査人の重任登記を忘れずに行います。
≫定時株主総会と会計監査人の重任登記
以下、取締役3名・代表取締役1名の取締役会設置会社が定時株主総会において取締役の任期が満了するケースの登記添付書類の一例です(取締役会の決議で代表取締役を選定)。
取締役・代表取締役全員が重任するパターン
<実開催型>
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録(Aは会社実印を押印)
- 就任承諾書(議事録の記載を援用する役員分は不要)
<みなし決議型>
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録(Aが会社実印を押印)
- 就任承諾書
- 定款
代表取締役が重任し、他の取締役が交代するパターン
<実開催型>
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録(Aは会社実印を押印)
- 就任承諾書(議事録の記載を援用する役員分は不要)
- DEの本人確認証明書 or 住民票 or 印鑑証明書
<みなし決議型>
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録(Aが会社実印を押印)
- 就任承諾書
- DEの本人確認証明書 or 住民票 or 印鑑証明書
- 定款
代表取締役が交代するパターン(旧代表が取締役に残る)
<実開催型>
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録(Aは会社実印を押印)
- 就任承諾書(代表取締役分につきBは実印を押印、議事録の記載を援用する役員分は不要)
- Bの印鑑証明書(印鑑届書へ援用するため、発行後3ヶ月以内のもの)
- Dの本人確認証明書 or 住民票 or 印鑑証明書
※登記申請と同時に、Bの印鑑届書の提出も必要です。
<みなし決議型>
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録(Aが会社実印を押印)
- 就任承諾書(代表取締役分につきBは実印を押印)
- Bの印鑑証明書(印鑑届書へ援用するため、発行後3ヶ月以内のもの)
- Dの本人確認証明書 or 住民票 or 印鑑証明書
- 定款
※登記申請と同時に、Bの印鑑届書の提出も必要です。
代表取締役が交代するパターン(旧代表が取締役も退任)
<実開催型>
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録(出席役員は実印を押印)
- 就任承諾書(議事録の記載を援用する役員分は不要)
- DEF及び監査役の印鑑証明書(取締役会に役員全員が出席した前提)
※登記申請と同時に、Dの印鑑届書の提出も必要です。
<みなし決議型>
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録(DEFの実印押印又はDEFの実印が押された同意書)
- 就任承諾書(代表取締役分につきDは実印を押印)
- DEFの印鑑証明書(D分につき印鑑届書へ援用するため、発行後3ヶ月以内のもの)
- 定款
※登記申請と同時に、Dの印鑑届書の提出も必要です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。