商業登記関係 自己株式の種類の変更と自己株式の処分
自己株式の種類を変更する
株式会社はその発行している株式の種類を変更することが可能とされています。
例えば、普通株式からA種類株式への変更や、A種類株式からB種類株式への変更ということが可能です。
株式の種類を変更できるのは、株主が保有している株式だけではなく、発行会社が保有している株式についても同様です。
株主が保有している株式の種類の変更手続きは、こちらの記事をご確認ください。
自己株式の種類の変更の決定
株式の種類を変更するには、
- 保有する株式の種類を変更する株主と発行会社の合意
- 種類を変更する株主が保有する株式と同じ種類を保有する株主全員の同意
が必要です。
新たに種類株式を設定(変更)するときは、当該変更に関する株主総会の特別決議も必要となります。
上記「1」につき、自己株式の種類を変更する場合は発行会社自身が自身と合意することはできないため、取締役会の決議で意思決定をすることがそれに代替するものと思われます。
なお、上記「2」につき当該株主として残る株主に全く不利益がない場合は、その同意は不要とされています。
普通株主全員の同意
普通株式しか発行していない(種類株式を発行していないの意)株式会社において、株主がXY+発行会社である場合、新たにA種類株式を定款に規定し、自己株式をA種類株式に変更するケースを見てみます。
A種類株式を新たに定款に規定するため株主総会の特別決議が必要となることは前述のとおりですが、この株主総会で株主全員が定款変更につき賛成していたとしても、普通株主全員の同意は必須です(普通株主に不利益が全くない場合を除く)。
株主総会では定款変更につき賛成しているだけで、上記「2」は自身が普通株主として残り、発行会社が保有する自己株式のみA種類株式へ切り替わることへの同意であるためです。
このときに、株主リストは原則として、株主総会に関するものと普通株主全員の同意に関するものの2部用意します。
忘れがちな種類株主総会
普通株式、A種類株式を発行している株式会社が、今回B種類株式を新たに定款に規定するケースを見てみます。
このときに、忘れがちになってしまうのが種類株主総会の決議かもしれません。
定款変更につき全体の株主総会の決議(会社法第309条2項)は当然行うものの、種類株主総会の決議(会社法第322条1項1号)も必須となります(会社法第322条3項)。
これは、普通株式・A種類株式が無議決権株式であったり、会社法第322条第2項に関する定款の定めを置いている場合も同様です。
≫【ケース別】種類株主総会の決議が必要なケース・不要なケース
自己株式の処分
自己株式のある株式会社が、自己株式の種類を変更して出資者に交付するというケースが稀にあります。
普通株式しか発行していない会社が、新たにA種類株式を設定し、自己株式をA種類株式へ変更した上で、出資者に自己株式たるA種類株式を交付するケースです。
自己株式を処分するときに、よくある誤解としては、株式譲渡行為によって自己株式を第三者に譲渡しようとすることがあります。
自己株式の処分は、募集株式の発行の手続きを踏まなくてはなりません(会社法第199条1項)。
株式譲渡契約書を作成して発行会社と引受人が自己株式の譲渡手続きをしても、当該行為は法的に不備がありますので、多額の出資を行う出資者の権利を守るためにも法的な手続きはしっかり行っておくことをお勧めします。
募集株式の発行手続き
募集株式の発行手続きについては、こちらの記事をご確認ください。
自己株式の処分に関する登記は不要
定款に新たに種類株式を規定したときは、「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」の変更の登記を申請します(必要に応じて「発行可能株式総数」も)。
また、発行済株式の一部の種類を変更したときは、「発行済株式の総数並びに種類及び数」の変更登記を申請します。
ところで、自己株式の処分のみをしたときは、登記事項に変更が生じません。
新たに株式を発行したわけではないため発行済株式の総数は変わらず、また、同様の理由により資本金の額も変動しないためです。
募集株式の発行=増資と勘違いをして、資本金の額を増加させないよう注意が必要です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。