商業登記関係 株式会社に取締役を1名追加する手続きと登記(取締役会非設置会社)
株式会社の取締役の選任手続き
株式会社の取締役は株主総会の決議によって選任します。
選任された取締役がその就任をすることによって、当該株式会社の業務を取締役として行うことができるようになります。
業務拡大や役員の交代によって、取締役を1名追加したいというご相談も多くいただいております。
ここでは取締役会非設置会社が、取締役を1名新たに追加するときの注意点と手続きを見てみます。
定款の取締役の員数を確認する
株式会社の定款には、取締役の員数を定めているケースが少なくありません。
第○○条 当会社の取締役は、1名とする。
上記のように「当会社の取締役は、1名とする。」としているのであれば、2名以上の取締役がいることは定款違反になってしまいますので、取締役の選任と併せて定款変更の決議をします。
「当会社の取締役は、1名以上とする。」等のような記載であれば、定款変更の決議は必要ありません。
同様に、「当会社の取締役は、3名以内とする。」と定款に規定されている株式会社が、現在の取締役の数3名に加えて1名追加するのであれば、定款変更の決議が必要となります。
定款の取締役の資格を確認する
定款で取締役の資格を規定している株式会社もあります。
非公開会社の場合、定款で取締役を株主に限定することも可能です(会社法第331条2項)。
第○○条 取締役は、当会社の株主の中から選任する。
もし、定款にこのような規定のある株式会社が、株主以外の人を取締役に選任するのであれば、取締役の選任と併せて定款変更の決議をします。
親会社の監査役
当該株式会社の親会社の監査役は、当該株式会社の取締役に就任することはできません(会社法第335条2項)。
当該株式会社の取締役に就任するのであれば、親会社の監査役を辞任等をする必要があります。
新任取締役の任期
定款に上記のような増員取締役の任期に関する規定がある株式会社が、取締役を1名増員したときは、当該取締役は既存の取締役の任期と満了日が同じになります。
任期が10年である株式会社の取締役X(就任後4年経過)に加えて、取締役Yを新たに選任するときは、取締役Yの任期は取締役Xの任期と同じになり、残りは6年です。
なお、取締役1名の株式会社が新たに取締役1名を追加するときは、定期的に取締役の資質を株主総会でチェックできるように任期を10年から2年に短縮することもあります。
この場合、上記取締役Xは任期満了により退任しますので、取締役Yの選任と一緒に取締役Xの選任も決議します。
既存の取締役が権利義務取締役の場合
取締役がA1名の株式会社に新たにBを取締役として追加するケースにおいて、取締役Aの任期が満了していた場合はどうなるでしょうか。
定款に「取締役は1名以上とする。」等と規定されているのであれば、取締役Aは権利義務取締役となっているため、取締役Bが就任すると同時にAは取締役を退任してしまいます。
取締役Aも引き続き取締役として業務を行っていくのであれば、株主総会において取締役ABの2名を選任する決議をしなければなりません。
取締役を1名選任する
取締役は株主総会の決議によって選任します(会社法第329条1項)。
取締役の決定によって、取締役を選任するための株主総会の招集をします。
取締役選任の決議
取締役選任の決議要件は、いわゆる特殊普通決議です。
≫株主総会とその決議要件(普通決議、特別決議、特殊決議 他)
定款に別段の定めがない限り、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数の賛成があればOKです。
役員報酬決定の決議
取締役が増員した場合、必要に応じて当該取締役の役員報酬を決めることが一般的です。
取締役の役員報酬は、株主総会の決議によって決定します(会社法第361条1項)。
役員報酬の枠を株主総会の決議で定めている場合は、その枠を広げる決議が必要なケースも少なくありません。
役付取締役の決議
取締役会長、取締役社長、取締役副社長、専務取締役、常務取締役等の役付取締役を選定するときは、定款に記載された方法によって選定します。
特に役付取締役が必要がないのであれば、必ず選定・決議しなければならない事項ではありません。
代表取締役を選任する
取締役会非設置会社の取締役は、原則として株式会社を代表しますので(会社法第349条1項)、定款に別段の定めがない場合は、選任された取締役は代表取締役となります。
ただし、
- 定款
- 定款の定めに基づく取締役の互選
- 定款の定めに基づく株主総会の決議
によって特定の取締役を代表取締役とすることができます。
第○○条 当会社に取締役を複数置く場合には、代表取締役1名を置き、株主総会の決議により定める。
このような定款の規定がある取締役C1名の株式会社が新たに取締役Dを選任したときに、代表取締役としてはC1名を考えているのであれば、株主総会で代表取締役を選定する決議も追加することになります。
- 第1号議案 取締役選任の件
- 第2号議案 代表取締役選定の件
取締役1名追加の登記手続き
取締役を1名選任したときは、その就任の効力が発生した日から2週間以内に取締役の変更登記を申請しなければなりません(会社法第915条)。
登記申請書に登録免許税となる収入印紙を貼付して、添付書類と一緒に当該株式会社を管轄する法務局へ提出します。
添付書類
取締役2名の株式会社が、新たに取締役1名を選任したときにその就任の登記に係る添付書類の一例は次のとおりです。
登記申請する会社や内容によって(種類株主総会議事録・株主リストが必要になる、代表取締役を変更する等)添付書類が異なる場合があります。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任を承諾したことを証する書面
- 印鑑証明書(新しく就任した取締役のもの)
就任した取締役が、代表取締役にも就任する場合は別の書類が必要となります。
登録免許税
取締役就任の登記に係る登録免許税は、資本金の額が1億円以下の株式会社は1万円、資本金の額が1億円を超える株式会社は3万円です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。