商業登記関係 相談事例 合同会社の持分は譲渡するが代表者は変更したくないというご相談
持分を譲渡しても代表者でいたい
合同会社の代表者から、あるいは合同会社の持分を買い取りたい方から、次のようなご相談をいただくことがあります。
「合同会社の出資した分を全て譲渡し(買い取り)たいのですが、代表者は今のまま変えたくない。」
合同会社において、出資者と経営者(業務執行社員・代表社員)は別の人となることは可能なのでしょうか。
※ここでは社員が1名の合同会社を前提としています。
代表社員と社員
社員(従業員のことではありません)は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行しますので(会社法第590条1項)、業務執行社員は当該合同会社の社員である必要があります。
業務を執行する社員は、持分会社を代表しますので(会社法第599条1項)、代表社員は当該合同会社の業務執行社員である必要があります。
結論として、代表社員である人は社員でなくてはならないことになります。
なお、社員となるには新たに出資をするだけでなく、既存の社員から持分を譲り受ける(購入する)方法もあります。
所有と経営の一致
上記のとおり、合同会社においては原則として、出資者全員が代表社員となる仕組みとなっています。
そのため、唯一の社員Aが代表社員となっている合同会社があるときに、Aが持分全部をBに譲渡したのであれば、Aは代表社員として居続けることはできません。
これを、所有と経営が一致している等といいます。
「合同会社の出資した分を全て譲渡し(買い取り)たいのですが、代表者は今のまま変えたくない。」は、残念ながら実現することができないということになります。
代替手段はあるか
合同会社において、出資者B・代表社員Aが実現できないのは上記のとおりです。
それを実現する、あるいはそれに近づける方法の一例としては、次のような方法が考えられます。
- 株式会社へ組織変更する
- 持分の一部のみ譲渡する
- 支配人、店長、マネージャーという役職を与える
株式会社へ組織変更する
合同会社と異なり、株式会社は所有と経営が分離できますので、出資者B・代表社員Aを実現することが可能となります。
合同会社は、組織変更をすることにより株式会社となることができますので、株式会社へ組織変更した後に株式を譲渡する方法が考えられます。
ただし、合同会社から株式会社への組織変更は、最短でも1.5ヶ月程度の期間と登録免許税等の費用がかかる点に注意が必要です。
持分の一部を譲渡する
代表社員となるには1円でも持分を保有していればいいため、AがBへ持分の全部を譲渡するのではなく、一部だけ(持分100万円のうち99万円)譲渡する方法も考えられます。
結果として、社員AB・代表社員Aという形が出来上がります。
ただし、持分を1円でも保有している社員の会社に対する権利はとても大きい(定款変更に対する同意権、社員の加入に関する同意権、解散に関する同意権等)ため、Bが重要なことを全て自分で決めることを完全に実現することは難しいかもしれません。
そのため、定款の変更等をBのみで決定できるように、あるいは損益の分配等について定款で設計しておかないと運営に支障をきたす場合があります。
また、何かあったときにAを社員から追い出すことも簡単ではない点に注意が必要です。
≫合同会社に社員総会を置く方法
≫合同会社の特定の社員を退社させる方法はどのようなものがあるか
支配人、店長、マネージャー
出資者B・代表社員Bとした上で、支配人(会社法第591条2項)としてAを選任する方法もあるでしょうか。
あるいは、合同会社でAを雇用または業務委託する等して、店長やマネージャー等の役職を与えることもできます。
しかし、これらは当初想定していた出資者B・代表者A(所有と経営の分離)とは異なるものでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。