商業登記関係 任期が過ぎてしまっている取締役の再任手続きと登記(株式会社)
株式会社の取締役と任期満了
株式会社の取締役には必ず任期があり、それは選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法第332条1項)。
非公開会社においては、定款に定めることにより、それを10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までに伸長することができます(会社法第332条2項)。
取締役の任期の計算方法については、次の記事をご確認ください。
取締役の任期満了と権利義務取締役
取締役はその任期が満了すると退任します。
ところで、取締役がその任期を満了したけれども、その取締役が退任することによって会社法や定款で定める取締役の人数を割ってしまう場合は、その人数を満たす取締役が選任されない限り、当該取締役は取締役として職務執行を行う権利があり、義務があります(会社法第346条1項)。
このように、任期が満了しても退任できず、取締役としての権利と義務を有する理事を、権利義務取締役といいます。
≫株式会社の権利義務取締役、権利義務監査役とは何でしょうか。
権利義務取締役も取締役の業務を行うことができるのであれば、取締役の選任手続きをしなくても問題ないかというとそうではありません。
任期の満了した取締役に関して何も登記をしないことは登記懈怠に該当し、また必要に応じて取締役を選任しない行為は選任懈怠として過料の対象となる上に、何年も放置していると≫みなし解散の対象となり勝手に解散の登記を入れられてしまう可能性があります。
取締役の任期が切れているとは
例えば取締役の任期が「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」である株式会社があったとします。
この株式会社における「取締役の任期が切れている」とは、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会で再選されないまま、当該株主総会が終結していることをいいます。
そもそも定時株主総会が開催されていない株式会社の場合はどうでしょうか。
この株式会社の定款に「定時株主総会は、毎事業年度の終了後3か月以内に開催する」旨の記載があるときは、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものの末日から3か月が経過したときに任期が切れます。
例えば、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものが2019年12月31日であれば、2020年3月31日が該当します。
既に取締役の任期が過ぎてしまっている場合はこのままお読みいただき、今度の定時株主総会で取締役の任期が満了する場合は次のページをご確認ください。
≫株式会社の取締役の任期満了と再任に関する登記手続き(取締役1名の場合)
≫取締役2名、代表取締役1名の株式会社の全員再任(重任)手続きと登記
≫(取締役会設置会社)取締役3名、代表取締役1名の株式会社の全員再任(重任)手続きと登記
取締役の再任手続きと登記申請
ここでは次のような株式会社を想定しています。
- 取締役の任期が切れている取締役会非設置会社
- 取締役AB、代表取締役Aが存在する
- 取締役ABともに任期が満了している
- 取締役ABともに継続して取締役を続ける
- 代表取締役はAが続ける
- 代表取締役の選定方法は取締役の互選
取締役の任期が満了している場合、当該締役に取締役を継続してもらうには、一般的には次の流れで手続きを進めていきます。
- 株主総会の開催
- 取締役の就任承諾
- 取締役の互選
- 代表取締役の就任承諾
- 管轄法務局へ登記申請
株主総会の開催
取締役は株主総会の決議によって選任しますので(会社法第329条1項)、株主総会を開催し、定款に別段の定めがない限り普通決議によって取締役を選任します。
この株主総会は、臨時株主総会でも定時株主総会でも問題ありません。
株主が1名の株式会社であれば、招集通知を送って数日後に定時株主総会を開催するよりも、株主の同意を得て招集手続きを省略するか(会社法第300条)、議題の提案に対して株主が書面または電磁的記録によって同意することにより株主総会を成立させる方法(会社法第319条1項)が用いられることが多いでしょう。
なお、登記官からは取締役がいつ任期満了によって退任したのかは、登記簿や定款からは分かりません。
株主総会議事録の記載から、取締役がいつ退任したのかを分かるようにしておきます。
議長は、2018年6月20日付けの定時株主総会終結の時をもって取締役全員が任期満了となっているため、改めて取締役として下記の者を選任したい旨を説明し、本議案の賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもって原案どおり承認可決された。
なお、被選任者は即時就任を承諾した。
就任の承諾(取締役)
株主総会で取締役に選任された人は、その就任を承諾することによって取締役になります。
これは、新任の取締役だけでなく、再任された取締役であったとしても同様です。
就任の承諾は口頭でも成立しますが、変更登記の申請の添付書類として就任を承諾する書面を提出しなければなりません。
就任承諾書を用意する方法もありますが、株主総会議事録を援用することも可能とされています。
なお、みなし株主総会議事録(会社法第319条1項)を使用するときは、当該議事録を就任承諾を証する書面として援用することはできませんのでご注意ください。
≫株主総会議事録を取締役、監査役の就任承諾を証する書面として援用する
取締役の互選
取締役の互選によって、代表取締役Aを選定します。
取締役の互選によって代表取締役Aを選定するとは、取締役の過半数の賛成をもってAを代表取締役にすると決定することをいいます。
今回のケースにおいては、取締役の互選書につき、代表取締役Aの押印は会社実印で押印することをお勧めします。
Aが会社実印を押さない場合は、取締役の互選書にABともに個人実印で押印し、ABともに個人印鑑証明書の添付を登記申請時に求められることになってしまうからです。
就任の承諾(代表取締役)
取締役の就任の承諾と同様に、代表取締役としての就任の承諾も行います。
取締役の互選書に就任承諾をした旨が記載されている場合は、当該互選書を代表取締役の就任の承諾を証する書面として援用することが可能です。
登記申請
取締役を選任、代表取締役を選定した日から2週間以内に、取締役及び代表取締役の退任及び就任による変更登記の申請をします。
申請書の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録(就任を承諾する書面として援用する)
- 株主リスト
- 取締役の互選書(就任を承諾する書面として援用する)
- 定款
再任された取締役の印鑑証明書が不要であることについてはこちらの記事をご参照ください。
≫取締役の再任の登記に、当該取締役の印鑑証明書の添付は必要でしょうか
登録免許税は1万円(資本金の額が1億円を超える株式会社は3万円)です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。