商業登記関係 任期が過ぎてしまっている理事の再任手続きと登記(一般社団法人)
一般社団法人の理事と任期満了
一般社団法人の理事には必ず任期があり、それは選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までです(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、「法人法」といいます)第66条)。
株式会社と異なり、一般社団法人はこの任期を伸長することができません。
なお、定款に定めることによりこの任期を短縮することはできます。
理事の任期の計算方法については、次の記事をご確認ください。
理事の任期満了と権利義務理事
理事はその任期が満了すると退任します。
ところで、理事がその任期を満了したけれども、その理事が退任することによって法人法や定款で定める理事の人数を割ってしまう場合は、その人数を満たす理事が新たに選任されない限り、当該理事は理事として職務執行を行う権利があり、義務があります(法人法第75条1項)。
このように、任期が満了しても退任できず、理事としての権利と義務を有する理事を、権利義務理事といいます。
権利義務理事も理事として業務を行うことができるのであれば、理事の再任手続きをしなくても問題ないかというと、そうではありません。
任期の満了した理事に関して何も登記をしないことは登記懈怠に該当し、また必要に応じて理事を選任しない行為は選任懈怠として過料の対象となる上に、5年以上放置していると≫みなし解散の対象となり勝手に解散の登記を入れられてしまう可能性があります。
理事の任期が切れているとは
例えば、理事の任期が「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時まで」である一般社団法人があったとします。
この一般社団法人における「理事の任期が切れている」とは、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会で再選されないまま、当該社員総会が終結していることをいいます。
そもそも定時社員総会が開催されていない一般社団法人の場合はどうでしょうか。
この一般社団法人の定款に「定時社員総会は、毎事業年度の終了後3か月以内に開催する」旨の記載があるときは、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものの末日から3か月が経過したときに任期が切れます。
例えば、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものが2019年12月31日であれば、2020年3月31日が該当します。
選任されてから2年経過していない理事についても、選任された時期、当該一般社団法人の事業年度及び増員規定の有無等によって任期が切れている可能性はありますのでご注意ください。
理事の再任手続きと登記申請
ここでは次のような一般社団法人を想定しています。
- 理事の任期が切れている理事会非設置法人
- 理事AB、代表理事Aが存在する
- 理事ABともに任期が満了している
- 理事ABともに継続して理事を続ける
- 代表理事はAが続ける
- 代表理事の選定方法は理事の互選
理事の任期が満了している場合、当該締役に理事を継続してもらうには、一般的には次の流れで手続きを進めていきます。
- 社員総会の開催
- 理事の就任承諾
- 理事の互選
- 代表理事の就任承諾
- 管轄法務局へ登記申請
社員総会の開催
理事は社員総会の決議によって選任しますので(法人法第63条2項)、社員総会を開催し、定款に別段の定めがない限り、普通決議によって理事を選任します。
この社員総会は、臨時社員総会でも定時社員総会でも問題ありません。
社員が1名の一般社団法人であれば、招集通知を送って数日後に定時社員総会を開催するよりも、社員の同意を得て招集手続きを省略するか(法人法第40条)、議題の提案に対して社員全員が書面または電磁的記録によって同意することにより社員総会を成立させる方法(法人法第58条)が用いられることが多いでしょう。
なお、登記官からは理事がいつ任期満了によって退任したのかは、登記簿や定款からは分かりません。
社員総会議事録の記載から、理事がいつ退任したのかを分かるようにしておきます。
第1号議案 理事選任の件
議長は、2018年6月20日付けの定時社員総会終結の時をもって理事名全員が任期満了となっているため、改めて理事として下記の者を選任したい旨を説明し、本議案の賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもって原案どおり承認可決された。
就任の承諾(理事)
社員総会で理事に選任された人は、その就任を承諾することによって理事になります。
これは、新任の理事だけでなく、再任された理事であったとしても同様です。
就任の承諾は口頭でも成立しますが、変更登記の申請の添付書類として就任を承諾する書面を提出しなければなりませんので、就任承諾書を作成しておきましょう。
就任承諾書を用意する方法の他に、社員総会議事録を援用することも可能とされています。
なお、みなし社員総会議事録を変更登記の添付書類として使用するときは、当該議事録を就任承諾を証する書面として援用することはできませんのでご注意ください。
≫株主総会議事録を取締役、監査役の就任承諾を証する書面として援用する
理事の互選
理事の互選によって、代表理事Aを選定します。
理事の互選によって代表理事Aを選定するとは、理事の過半数の賛成をもってAを代表理事にすると決定することをいいます。
今回のケースにおいては、理事の互選書につき、代表理事Aの押印は法人実印で押印することをお勧めします。
Aが法人実印を押さない場合は、理事の互選書にABともに個人実印で押印し、ABともに個人印鑑証明書の添付を登記申請時に求められることになってしまうからです。
就任の承諾(代表理事)
理事の就任の承諾と同様に、代表理事としての就任の承諾も行います。
理事の互選書に、代表理事として就任承諾をした旨が記載されている場合は、当該互選書を代表理事の就任の承諾を証する書面として援用することが可能です。
登記申請
理事を選任、代表理事を選定した日から2週間以内に、理事及び代表理事の退任及び就任による変更登記の申請をします。
申請書の添付書類の一例は次のとおりです。
- 社員総会議事録(就任を承諾する書面として援用する)
- 理事の互選書(就任を承諾する書面として援用する)
- 定款
再任された理事の印鑑証明書が不要であることについてはこちらの記事をご参照ください。
≫取締役の再任の登記に、当該取締役の印鑑証明書の添付は必要でしょうか
登録免許税は1万円です。
これは役員構成が変わらないケースの例であり、Bのみが唯一の理事になる場合、Aが理事を退任して代わりにCが理事に就任する場合等、ケースによって必要書類が変わりますのでご注意ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。