商業登記関係 取締役が退任するときに、退任する取締役から株式を回収することができるか
取締役の退任と株式の行方
創業時に共同経営者がそれぞれ出資をして株式を持ち合うということは少なくありません。
また既にある株式会社において、新たに取締役を追加するときに、インセンティブ目的で株式を付与するということもあるでしょう。
取締役になるために株式を保有することは必須ではありませんが、様々な目的のため取締役が当該会社の株式を保有するということがあります。
ところで、株式を保有した取締役が退任したときに、当該取締役が保有している株式はどうなってしまうのでしょうか。
株式の所有者はそのまま
個人が所有している株式はその人の財産の一つですので、法的根拠無しに勝手に第三者が取得することはできません。
また取締役以外の者が株式を保有してはならないという決まりはありませんので、株式を保有している取締役が退任をしたとしても会社が勝手に回収することもできません。
つまり、原則として株式を保有している取締役が、取締役を退任したとしても株主であることに変わりはないということです。
退任する取締役から株式を回収したい
株主には多くの権利が認められているため、それらに対して会社は気を遣って会社を運営していかなければなりません。
≫単独株主権
≫少数株主権
退任した取締役、特に仲違いをして辞めていった取締役からは株式を回収したいところではないでしょうか。
もちろん、当該取締役が例えば1株1万円の価格で売却することに同意をして、会社に残る取締役との間で株式の売買が成立するのであれば回収することはできます。
また、例えば会社に1株1万円(あるいは無償)で渡すことの同意を取れるのであれば、自己株式の取得の手続きを経て回収することはできるでしょう(なお、財源規制があります)。
強制的に株式を買い取ることができるか
個人の財産を強制的に取り上げることはできません。
しかし、会社法においては一定の手続きを経て強制的に株式を取得する方法が示されています。
これらの方法においても株式の正当な対価を支払わなければならないこと、相手が所有している株式数によってはそもそも当該方法を取ることができないことがあります。
特に、退任する取締役が保有する株式数(議決権数)が34%を超えている場合は強制的に回収することは難しくなります。
スクイーズアウト
少数株主を排除する手続きのことをスクイーズアウトといいます。
スクイーズアウトをする方法としては、次のような制度が用意されています。
- 全部取得条項付種類株式
- 株式併合
- 特別支配株主の株式等売渡請求
創業時にできる対策
退任をした取締役から株式を回収できなかったために、それが会社運営に支障をきたしてしまうという事態を避けるために何か対策をすることはできるのでしょうか。
その方法としては創業時あるいは取締役就任と同時に株式を付与するときに、株主間契約を締結したり、種類株式を活用するというような方法が考えられます。
そもそもとして、前述のとおり株主は会社に対して影響力を持つ存在となりますので、本当に株式を付与することが適切なのかどうかを検討しておかなければならないでしょう。
株主間契約の締結
創業時あるいは株式を付与する時に、主要株主との間で株主間契約(創業者間契約)を締結しておくことで、取締役退任時に株式を回収できる可能性が高まります。
単に取締役を退任したら保有する全株式を売り渡すだけでなく、べスティング条項を付けて取締役に長くいるようにインセンティブを付与するようなケースもあります。
買い取るための資金が必要となるため資金が用意できない場合に備えて、株式の譲渡先として契約当事者である主要株主あるいは当該主要株主が指定する第三者等にしておきます。
種類株式の活用
種類株式を活用して、退任する取締役から株式を回収するという方法があります。
具体的には、取得条項付株式を利用することになり、そのトリガーは取締役の退任ということになるでしょう。
前述のとおり自己株式の取得には原則として財源規制があるため、剰余金に余裕の無い会社では買い取ることができないという状況が生じ得ます。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。