商業登記関係 取締役になるには、当該株式会社の株式を保有している必要があるか
取締役の株式保有要件
株式会社取締役は、原則として意思能力があれば誰でも就任することができます。
取締役は個人でなければなりませんので法人は株式会社の取締役となることができず、会社と取締役の関係は委任に基づきますので成年被後見人は取締役となることができません(会社法第331条1項)。
≫司法書士が株式会社の定款の条文を解説します(取締役の資格編)
ある人が株式会社の取締役となることができない場合というものが、会社法第331条1項には定められています。
株式会社の取締役となるためには、当該株式会社の株主でなければならないのでしょうか。
取締役の資格に関する定款の定め
会社法第331条1項には当該株式会社の株式を保有していることは、取締役となるための条件とはされていません。
そうであれば、株主でない人を取締役として選任しても問題はなさそうです。
しかし、非公開会社においては、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができるとされています(会社法第331条2項)。
この定款の定めのある株式会社の取締役となるには、当該株式会社の株式を取得して株主にならなければなりません。
必要に応じて株主以外から選任する規定
よくある非公開会社の定款の記載例としては、取締役を株主に限定しつつも、必要に応じて株主以外の人も取締役に選任することができる旨が記載されています。
次のような定款の記載内容であれば、必要があるときは株主以外の人を取締役として選任しても問題はありません。
この場合、株主総会の取締役の選任に関する議案の決議をするときに、株主以外の人を取締役とする必要性が述べられていることが望ましいでしょう。
(取締役の資格)
第17条 取締役は、当会社の株主の中から選任する。ただし、必要があるときは、株主以外の者から選任することを妨げない。
定款を変更する
このように取締役を株主に限るとする定款の規定がある会社が、株主でない人を取締役に選任するには株式を保有してもらうか定款の規定を変更することになります。
選任する取締役に株式を保有してもらうつもりがない場合は、定款を変更することになるでしょう。
定款の変更は、株主総会の特別決議によって行うことができます。
株式を取得する
上記のケースで、選任する取締役が株式を保有するにはどうすればいいでしょうか。
現実的に考えられる方法としては、既存の株主から株式を一部譲渡するか、自己株式を交付する、あるいは新しく株式を発行する方法が挙げられます。
株式を譲渡するには当該会社の承認が必要であったり、自己株式の交付及び新しく株式を発行するには募集株式の発行の手続きを踏まなければなりません。
取締役の変更登記と書面審査
ところで、取締役の就任に関する登記申請をするときは、定款が添付書類とならないケースは少なくありません。
そのため、取締役を株主に限定している会社が、株主でない人を取締役として選任していても登記申請は受理される仕組みとなっています。
しかし、当該行為が定款違反であることには違いありませんので、必要に応じて定款を柔軟な設計にしておくことも一つの手です。
取締役とインセンティブ
会社法、定款の話とは異なりますが、取締役にインセンティブや業務への取り組む意識の向上等を理由として、取締役に株式を保有してもらっているという会社もあります。
現物の株式を渡した場合、株主には持株数や持株比率に応じて多くの権利が付与される点は把握しておいた方が良いでしょう。
≫少数株主権
≫単独株主権
また、当該取締役が取締役を退任したときや相続発生時の株式の取り決めについてはケアしておいた方がいいかもしれません。
取締役に対して現物の株式ではなく、新株予約権(ストックオプション)を付与するという方法もあります。
新株予約権は行使期間や行使条件等の定め方により、ある程度会社の意向に沿ったインセンティブの設計が可能です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。