商業登記関係 取締役1名の株式会社が取締役を交代するときの手続きと登記
取締役1名の会社が取締役を交代する
平成18年5月1日に会社法が施行されてから、会社法上、株式会社の役員は最低限取締役が1名いればよいことになりました。
Aさん(個人)が自分で出資をして会社を作り、唯一の役員として取締役に就任する、いわゆる1人会社の数も多く作られています。
このような1人会社の取締役が交代するときには、どのような手続きが必要となるのでしょうか。
なお、取締役が1名の場合は会社法第349条1項の規定により、自動的にその取締役は代表取締役にもなります。
株式譲渡を伴う場合
よくあるケースとしては、1人会社の株主兼取締役が保有する株式を他人に譲渡して、取締役も辞任するようなケースです。
このようなケースでは、新しい取締役を選任する前に株式譲渡の手続きをすることが一般的です(後でも法律上問題はありません)。
株式譲渡の手続きについては、こちらの記事をご参照ください。
取締役を交代する手続き
取締役1名の会社において、当該取締役を交代するには一例として次の手続きが必要です。
- 株主総会で取締役を選任
- 新取締役の就任
- 旧取締役の辞任
- 登記申請
株主総会を開催する
取締役は株主総会の決議によって選任しますので(会社法第329条1項)、株主総会を開催して取締役を選任します。
株主が1名の株式会社であれば、招集通知を送って数日後に開催するよりも、株主の同意を得て招集手続きを省略するか(会社法第300条)、議題の提案に対して株主が書面または電磁的記録によって同意することにより株主総会を成立させる方法(会社法第319条1項)が用いられることが多いでしょう。
取締役の選任決議要件は特殊普通決議ですが、株主1名という前提ですので、唯一の株主が賛成するのであれば決議要件が問題となることはありません。
取締役に就任する
株式会社と取締役は委任関係に基づきますので、株式会社の選任行為と当該被選任者の就任の意思表示によって、当該被選任者は取締役となります。
口頭による就任の承諾でもその効力は生じますが、登記申請の際には就任を証する書面が必要となるため、就任承諾書を用意することが多いでしょう。
この就任承諾書には、選任された取締役の個人実印を押印します(商業登記規則第61条2項)。
なお、一定の要件を満たした場合、株主総会議事録の記載につき取締役の就任を承諾する書面として援用することも可能です。
なお、みなし株主総会議事録(会社法第319条1項)を使用するときは、当該議事録を就任承諾を証する書面として援用することはできませんのでご注意ください。
≫株主総会議事録を取締役、監査役の就任承諾を証する書面として援用する
取締役を辞任する
交代して退く取締役が権利義務取締役でない場合は、ここで取締役を辞任することになりますが、これは取締役がその役職を辞する意思を会社に伝える方法によって行います。
辞任は口頭で会社に伝えることによっても成立しますが、辞任を証する書面として「辞任届」を用意することが一般的です。
この辞任による登記申請の添付書類として辞任届を使用するには、当該辞任届には辞任する取締役が法務局へ届け出ている、いわゆる会社実印を押印するか、個人実印を押して印鑑証明書を添付しなくてはなりません(商業登記規則第61条6項)。
なお、新取締役が就任する前に辞任することもできますが、権利義務取締役として、取締役の業務を執行する義務は負っています(会社法第346条1項)。
登記申請をする
取締役が交代したときは、効力発生日から2週間以内に、管轄法務局へその旨の登記申請をします。
取締役1名の株式会社の、取締役交代による変更登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 辞任届
- 新取締役の印鑑証明書
※議事録の作成者によって押す印鑑が異なりますのでご注意ください。
≫取締役1名の株式会社の取締役が交代するときの株主総会議事録に押す印鑑
※株主総会開催時の株主を記載します。新取締役の名前⁺新取締役の届出印を押印します。
※新取締役の個人実印を押印します(商業登記規則第61条2項)。議事録の記載を援用する場合については前述のとおりです。
※旧取締役の辞任届に、旧取締役が法務局に提出していた印鑑(会社実印)を押印します。
※この印鑑証明書は、発行後3ヶ月以内のものである必要はありませんが、印鑑届書にも印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)を添付する関係で、発行後3ヶ月以内のものを用意した方がいいでしょう。
登記申請の添付書類ではありませんが、変更登記の申請と一緒に印鑑届書も提出します。
印鑑届書には、新取締役の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)を添付しますが、登記申請書に添付した印鑑証明書を援用することができるため、印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)を1通用意しておけば問題ありません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。