商業登記関係 取締役しかいない株式会社が、監査役を新たに置くときの手続きと登記
株式会社に監査役を置く
株式会社には必ず置かなければならない機関があり、それは株主総会と取締役です(非公開会社の場合)。
つまり、個人が1名いれば株主総会も取締役も構成することできるため、1名で株式会社を設立し、維持することができます。
会社が成長してきたため監査制度を整えたい、あるいは特定の人を役員に迎えたいために、監査役を新たに設置し、監査役を選任することがあります。
監査役とは
監査役の職務は、取締役の職務の執行を監査することであり、その監査に基づき監査報告を作成します(会社法第381条1項)。
取締役に不正行為等があったときは、取締役(取締役会)に報告する義務があります(会社法第382条)。
また、監査役は取締役会に出席する義務があります(会社法第383条1項)。
なお、非公開会社においては、原則として役員は取締役が1名いれば会社法上は足りますが、次のように監査役の設置が義務付けられている株式会社もあります。
監査役が必須の株式会社
次の株式会社は監査役の設置が義務付けられています。
- 公開会社
- 取締役会設置会社(非公開会社は会計参与による代替可)
- 会計監査人設置会社
- 監査役会設置会社
その他に、取締役会の決議等による責任免除規定(会社法第426条1項)を定款に定める場合は、監査役(業務監査権限あり)の設置が必要です。
監査権限を会計に限定する
監査役の職務は大きく分けて2つあり、取締役の職務の執行を監査することと、会社の会計を監査することです。
ところで、非公開会社においては、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができます(会社法第389条1項)。
監査役に業務監査権限を持たせないのであれば、定款にこの規定を設けます。
「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨」は登記事項とされていますので、初めて監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役が就任したときは、「監査役の選任」等の登記と併せて登記申請をします。
監査役を設置する手続き
今まで監査役を置いていなかった株式会社が、新たに監査役を設置するときはどのような手続きが必要でしょうか。
一般的には、次のような手続きで進めていきます。
- 監査役候補者を見つける
- 株主総会を開催する
- 監査役がその就任を承諾する
- 登記申請をする
株主総会を開催する
監査役は、株主総会の(特殊)普通決議によって選任します(会社法第329条1項)。
加えて、監査役を選任するときは監査役に関する事項を定款に規しますので、株主総会の特別決議によって定款を変更します(会社法第466条)。
そのため、株主総会を開催して、次の2つの議案について決議をすることになります。
- 第1号議案 定款一部変更の件
- 第2号議案 監査役選任の件
変更後の定款については、≫定款記載例(日本公証人連合会)が参考になります。
監査役がその就任を承諾する
株式会社と監査役は委任関係に基づきますので(会社法第330条)、株式会社が監査役を選任し、選任された人がその就任を承諾することでその人が監査役になります。
就任の承諾は口頭でも成立しますが、口頭では就任承諾をした証拠が残らないことに加えて、就任の承諾をしたことを証する書面が登記手続きで必要となるため、就任承諾書を用意することが一般的です。
この就任承諾書には監査役の住所・氏名の記名と認印(実印でもOK)の押印をします。
≫取締役・監査役の就任と本人確認証明書
≫株主総会議事録を取締役、監査役の就任承諾を証する書面として援用する
監査役を選任したときの登記手続き
監査役が就任をしたときは、就任をしたときから2週間以内にその旨の登記申請をします(会社法第915条1項)。
登記の事由としては、監査役以外の登記事項に変更が生じなければ、次の2つまたは3つです。
- 監査役の変更
- 監査役設置会社の定めの設定
- 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨
≫会社・法人登記の申請期限である2週間はいつまで?期限を過ぎたら登記申請できない?
添付書類
監査役設置、監査役の変更登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 定款
- 就任承諾書
- 本人確認証明書
登録免許税
監査役の変更に係る登記の登録免許税は1万円(資本金の額が1億円を超える株式会社は3万円)です。
これには、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨の登記の登録免許税も包含されています。
加えて、監査役設置会社の定めの設定の登記の登録免許税は3万円です。
仮に、資本金1,000万円の株式会社の場合、上記登記の登録免許税は4万円となります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。