商業登記関係 株式会社を設立するときに、出資者と取締役が別の人になる場合の取締役の任期
取締役の任期
非公開会社(全ての株式について譲渡制限が付いている株式会社)においては、取締役を1人又は2人以上置かなければなりません(会社法第326条1項)。
そして、株式会社の取締役には任期があり、それは次のとおりです。
(取締役の任期)
第332条1項取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
取締役は株主の中から選ばなければならない?
法律上、取締役は株主の中から選ばなければならないという決まりはありません。
インターネット上で参考にできる定款には、取締役の資格に関する規定が盛り込まれていることが少なくありません。
第●●条 取締役は、当会社の株主の中から選任する。ただし、必要があるときは、株主以外の者から選任することを妨げない。
なお、当該規定が定款にある株式会社においても、ただし書きによって、必要があるときは株主以外の者から取締役を選任することができます。
≫司法書士が株式会社の定款の条文を解説します(取締役の資格編)
取締役と株主が異なる
例えば株主が1名、取締役も1名であるときに、株主と取締役が別の人となるケースがあります。
出資はするけれども会社の運営は他の人に任せる、というようなケースです。
合同会社と異なり、株式会社においては所有と経営が分離していますので、所有者(出資者=株主)と経営者(取締役)が別人となることは法律上、全く問題ありません。
取締役を辞めさせたい
出資者(A)が、信頼していた人(B)を取締役に選任したものの、実際にBに経営をしてもらってみたら想定していた結果とは程遠いものになってしまった、という話はあり得る話ではないでしょうか。
また、Bが決算承認をやらない(会社法第438条)、会計帳簿等の閲覧請求(会社法第433条)に応じないことにより、会社の情報をAに隠すようになってしまったとしたらどうでしょう。
株主であるAは、この会社はBではなく別の人(C)に任せたいと考えるようになるかもしれません。
取締役を辞めさせる方法
Bを取締役から辞めさせる方法は、自ら辞任してもらうか、株主総会の決議で解任する方法が一般的です。
取締役を辞任してもらうにはBの辞任する意思が必要となりますので、Bに辞任する意思がなければ実現することができません。
Aは100%株主ですので、株主総会の決議によってBを取締役から解任することはできますが(会社法第339条1項)、解任に正当な理由がない場合はBから損害賠償の請求をされる可能性があります(会社法第339条2項)。
権利義務取締役であるかチェックする
ところで、Bの取締役の任期が切れていて、Bが権利義務取締役である状況であれば、C(A自身でも可)を取締役に新たに選任し、選任された取締役が就任することによって、Bは任期満了により退任します。
≫株式会社の権利義務取締役、権利義務監査役とは何でしょうか。
権利義務取締役は辞任することはできず、またBの任期が切れているのであれば株主総会で解任するのではなく新たな取締役を選任するだけで済みますので、まずはBの任期を確認してみましょう。
取締役の任期を短くしておく
取締役を辞める気のない人に辞任してもらうことは難しく、そして解任には損害賠償のリスクがつきまといます。
取締役の任期は、特に定款に定めなければ約2年となりますが、定款に定めることにより最長約10年まで伸ばすことが可能です。
特に取締役を変更する予定もないし、取締役の重任登記をするにも費用がかかるし、、、という理由で、取締役の任期をとりあえず約10年としている人も多いのではないでしょうか。
上記AとBのように、株主と取締役が異なるときは、任期を短くしておくという選択肢も持っておいた方がいいかもしれません。
定期的なチェック
ビジネスには行ってみなければ分からないという点が多々あり、特に今の時代、10年も順調に何事もなく上手くいくという保証はありません。
そのため、取締役の任期を短くしておき、定期的に株主が取締役の適性や成果をチェックするという仕組みを設けておいても良いのではないでしょうか。
具体的には、取締役の任期を約1年~2年としておき、任期満了時に更新(再任)するかどうかを株主が審査できるようにしておきます。
任期満了のタイミングで、継続して取締役をお願いしたいのであれば株主総会で再度取締役として選任し、取締役を他の人に変えたいのであれば他の人を取締役として選任します。
特に初めて取締役をお願いする人は、その人がちゃんと仕事をしてくれるかどうか不明であることがあるため、任期を約1年に設定しておくと株主サイドも安心できるのではないでしょうか。
取締役重任登記のコスト
取締役の任期を短くすることのデメリットとして、再任するたびに取締役の変更登記(重任登記)が必要となる点がよく挙げられます。
登記手続きには手間もかかりますし、費用もかかります。
資本金が1億円以下の株式会社であれば役員変更登記の登録免許税は1万円であり、司法書士に依頼するとしても数万円で済むのではないでしょうか。
解任や損害賠償に対する保険と考えれば、任期を短くしておくメリットは大きいと思います。
最初だけ任期を約1年とし、問題なさそうであればそれ以降の任期を約3年等とすることもできます。
適切な定款の作成
なぜ、株主と役員が異なるときに役員の任期を短くしておいた方が良いと考えるのかというと、そのような相談をいただくことが定期的にあるからです。
そのような相談とは、取締役を辞めさせたいのだけど任期がまだ8年も残っている、という株主からの相談です。
1人会社(株主=取締役=1名)の場合は、いわゆるテンプレートの定款でも問題が起きにくいのかもしれません。
1人会社であれば、取締役の任期を短くする意味はほとんどなく、取締役の任期は約10年をクライアントにはお勧めしております。
しかし、1人会社以外の会社においては、それぞれの会社の状況に適した定款の内容にしておいた方がいいでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。