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代表司法書士 石川宗徳の 所長ブログ&コラム

会社の協力者や知人に株式を渡すことになりましたが、議決権は持たせたくありません。

協力者に株式を譲渡する

会社の外部協力者に対して、社長が保有している会社の株式を少し譲渡し、協力者に株式を持ってもらおうと思っています、、、というご相談をいただくことがあります。

株主には色々な権利が付与されているため、単に株式を渡して終わりではなく、株主が株式を持っている限り、長い付き合いをしていく必要があります。

また、一度株式を渡すと、当該株式は譲受人の固有の財産となるため、原則として一方的に剥奪することもできません。

そのため、「何となく」、「記念として」や「とりあえず」で株式を渡さない方がいいでしょう。

株式と議決権

株主の権利の一つとして、株主総会において議決権を行使することができる、というものがあります。

1株でも株式を持っている株主に対しては、株主総会の招集通知を発送しなければならない等の管理コストも生じるほか、保有する株式数が全体の34%以上となると、株主総会の特別決議に対する拒否権を持つことになります。

そのため、株式は渡すけれども議決権のない株式を渡したいというニーズも一定数ありますね。

譲受人に議決権を持たせない方法

新たに株主に加わる人へ議決権を持たせない方法としては、次のものが考えられます。

  1. 社長の株式を譲渡し、譲受人につき属人的株式(議決権無し)を定款に設定する
  2. 新たに株式を発行・交付し、譲受人につき属人的株式(議決権無し)を定款に設定する
  3. 無議決権株式を設定し、社長の株式を普通株式と無議決権株式に分け、無議決権株式を譲渡する
  4. 無議決権株式を設定し、無議決権株式を新たに発行・交付する

株主に議決権を持たせない方法の一つとして、上記「1.」「2.」の≫属人的株式がありますが、属人的株式の定めを定款に置いても登記は不要という費用的な利点はある一方で、株式が第三者の手に渡ると議決権が復活してしまうというデメリットがあります。

また、属人的株式の設定は株式譲渡(株式発行後)に行うことになるため、譲渡する株式数によっては社長側で特殊決議の要件を欠いてしまう可能性があります。

そのため、ここでは種類株式を用いた「3.」「4.」について簡単に見ていきます。

無議決権株式の設定+株式譲渡

社長が持っている株式の一部を譲渡するけれども、譲受人の保有する株式につき議決権を無くす方法の一つとして、「無議決権株式の設定+株式譲渡」というものがあります。

新たに無議決権株式を発行できる旨を定款に定め、社長が持っている株式の一部を無議決権株式に変更し、当該無議決権株式を譲渡するという方法です。

無議決権株式を設定する

株主総会を開催し、特別決議によって定款を変更することにより、無議決権株式を発行することができるようにします。

≫議決権制限株式(種類株式)

無議決権株式の定款記載例は、次のとおりです(一部のみ記載)。

(発行可能株式総数及び発行可能種類株式総数)
第●条 当会社の発行可能株式総数は、●万株とする。
 当会社の発行可能種類株式総数は、各種類の株式に応じてそれぞれ次のとおりとする。
  普通株式  ●万株
  A種類株式 ●万株
第●●条 A種類株主は、法令に別段の定めのある場合を除き、株主総会において議決権を有しない。
既存の株式の一部を無議決権株式に変更する

社長の保有している株式の一部を無議決権株式に変更します。

≫発行済株式の一部の株式の内容を変更する登記手続き

無議決権株式を譲渡する

社長の保有している株式のうち、無議決権株式を譲渡します。

多くの会社においては、株式を譲渡するために会社側の承認が必要と設定されていますので(非公開会社)、その譲渡手続きに沿って株式譲渡手続きを進めます。

後の紛争の原因となってしまう可能性があるため、非公開会社においては、譲渡手続きはしっかりやっておくことをお勧めします。

≫非公開会社の株式を譲渡する方法と対抗要件

無議決権株式の設定+募集株式の発行

社長が持っている株式の一部を譲渡するけれども、譲受人の保有する株式につき議決権を無くす方法の一つとして、「無議決権株式の設定+募集株式の発行」というものもあります。

新たに無議決権株式を発行できる旨を定款に定め、当該無議決権株式を新たに発行するという方法です。

無議決権株式を設定する

株主総会を開催し、特別決議によって定款を変更することにより、無議決権株式を発行することができるようにします。

≫議決権制限株式(種類株式)

無議決権株式の定款記載例は、次のとおりです(一部のみ記載)。

(発行可能株式総数及び発行可能種類株式総数)
第●条 当会社の発行可能株式総数は、●万株とする。
 当会社の発行可能種類株式総数は、各種類の株式に応じてそれぞれ次のとおりとする。
  普通株式  ●万株
  A種類株式 ●万株
第●●条 A種類株主は、法令に別段の定めのある場合を除き、株主総会において議決権を有しない。
無議決権株式を発行する

募集株式の発行手続きにより、新たに無議決権株式を発行します。

≫第三者割当による募集株式の発行(増資)手続き

その他の注意点

外部協力者に株式渡すことそれ自体は比較的簡単に行うことができますが、当初に申し上げたとおり、それに付随する問題を検討する必要があります。

その多くは、株式を渡してしまった後に対策を行うことが難しいものです。

株式を渡すときは、事前に色々と検討しておいた方がいいでしょう。

決議を行うことができない株主総会の範囲

単に、株主総会において議決権を行使することができない、と設定するだけでは、種類株主総会における議決権の行使に対するケアができていません。

つまり、全体の株主総会においては議決権を行使することができませんが、種類株主総会の決議が必要な場面においては、議決権を行使することができます。

種類株主総会の決議が必要なケースは、定款に特段の定めのない限り、会社法第199条4項、第238条4項、第322条の3つが該当します。

≫種類株式に係る株主総会(種類株主総会)の決議は必要?不要?

種類株主総会においても議決権を行使することができないようにするには、次のような記載を種類株式の内容として設定します。
会社法第322条1項1号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、定款に下記定めを置いたとしても、種類株主総会の決議を経る必要があります。

第●条 当会社が、会社法第322条第1項各号に掲げる行為をする場合には、法令に別段の定めがある場合を除き、A種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない。
2 A種類株式については、会社法第199条第4項及び第238条第4項の規定による種類株主総会の決議を要しない。
残余財産の分配

議決権の無い株式を保有している株主も、議決権に関するもの以外の権利については保有しています。

その中の一つとして、会社が解散したときに残った会社の財産(残余財産)の分配を受ける権利があります。

株式を協力者へ渡す理由にもよりますが、もし株式を渡す目的に沿わないのであれば、種類株式の内容として、残余財産の分配を受け取る権利を無くしておくことも考えられます。

株式の回収方法

渡した株式も、譲受人の固有の財産となるため、原則として強制的に回収することができません。

これは、協力者と会社の縁が切れてしまった場合や、敵対的な存在になってしまった後でも同様です。

そのため、株主間契約を締結しておくとか、種類株式の内容として取得条項や全部取得条項を付けておくといった対策が考えられます。

株式でなく新株予約権を検討

上場した、あるいはM&A等でイグジットしたときの利益を協力者が得るために株式を渡すのであれば、株式ではなく新株予約権を渡すという方法もあります。

新株予約権は行使されるまで、新株予約権者に株主としての権利は生じないため、検討の余地があります。

なお、既に投資家から出資を受けている場合は、新株予約権の行使価格の金額によっては投資家サイドの普通株式への転換比率が有利になることがあるため、投資契約や種類株式の内容に注意が必要です。

議決権以外の株主の権利

無議決権株式であっても、議決権以外の株主としての権利は保有するため、当該株主がどのような権利を保有するのかは事前に確認はしておいた方がいいでしょう。

1株でも保有していれば、計算書類等の閲覧も請求することが可能です(会社法第442条3項)。

≫単独株主権
≫少数株主権

贈与税

仮に無償、あるいは低額で株式を譲渡等するときは、贈与税もケアした方がいいでしょう。

贈与税に関しては顧問税理士にご確認ください。


この記事の著者

司法書士
石川宗徳

代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]

1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)

2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。

2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。

また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。

RSM汐留パートナーズ司法書士法人では、
商業登記不動産登記相続手続き遺言成年後見など、
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