商業登記関係 司法書士が合同会社の定款の条文を解説します(法務局の定款モデルを参考に)
合同会社の定款の条文解説
合同会社は特に、1名で会社を興してビジネスを行われる方に人気のある法人形態で、設立件数も直近では年々伸びてきています。
≫【2017年】登記統計表(法務省)から見る会社、法人、組合設立登記件数の傾向
最近ではご自身で調べて合同会社の設立登記をされる方も多くいらっしゃいます。
しかし、インターネット上にある合同会社の定款内容をよく理解せずに、そのまま利用している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ご自身で合同会社を設立する方のために、法務省が公開している≫合同会社設立登記申請書 – 法務局をベースとして、合同会社の定款の各条文について解説をしていきたいと思います。
ビジネスに専念したい方へ
合同会社の設立登記は自分でできるとはいえ、調べて書類を作るには時間を要しますし、法務局に相談をするとしても現在は予約制であり、平日の日中にしか相談は受け付けていません。
また、一度登記申請をして合同会社が設立した後に登記簿を修正をするときは、登録免許税を支払わなければなりませんので余計な出費がかかります。
合同会社の設立手続きは専門家に任せて、安心してご自身のビジネスに専念したい方はこちらのページをご参照ください。
合同会社の定款条文
≫合同会社設立登記申請書 – 法務局に記載されている合同会社の定款条文とその解説は次のとおりです。
シンプルで、一般的な内容を最低限記載しているという印象の内容です。
1人法人であればこれで全く問題ありません。
商号
第1条 当会社は、○○商店合同会社と称する。
合同会社は定款で商号(会社名のこと)を定めなければならず、商号に「合同会社」の文字を入れなければなりません。
他にも、登記に使用できる文字かどうか、同じ場所に同じ商号の会社がないか、スペースを空けられるのかどうか等も気を付ける必要があります。
「商店」を付けるかどうかは任意であり、なぜ法務省がサンプル定款に「商店」を付けているのかは分かりません。
目的
第2条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
1 ○○の製造販売
2 ○○の売買
3 前各号に附帯する一切の事業
合同会社は定款で目的(事業内容のこと)を定めなければなりません。
ここではどのような事業を行うのか記載しますが、会社設立後に目的を変更するには登録免許税が3万円かかりますので、少なくとも3-5年以内に行う事業も入れておいた方がいいでしょう。
特に、許認可が必要な事業を行うとき(建築、飲食、酒、旅行、民泊、介護等)は、それに応じた適切な目的を定款に記載しておく必要があります。
≫会社の事業目的と登記
≫許認可が必要な事業を行うときは、その目的を定款に記載しておく
とりあえず何でもかんでも目的に詰め込むのはお勧めしません(行う可能性がほぼゼロな「石油の輸出入」等)。
本店の所在地
第3条 当会社は、本店を○県○市に置く。
合同会社は本店を決めなければならず、本店の所在地は定款に記載しなければなりません。
定款には最小行政区画まで記載すれば足り、最小行政区画とは、例えば「東京都中央区」や「千葉市」、「埼玉県比企郡小川町」が該当します。
次の記事は、株式会社に関するものですが合同会社においても同様ですのでご参照ください。
公告の方法
第4条 当会社の公告は、官報に掲載してする。
公告方法は定款に必ず定めなければならない事項ではありませんが、ほぼ全ての合同会社の定款に記載されています。
「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」のいずれかから選択することになりますが、合同会社は公告をするケースが少なく、特にこだわりがないのであれば「官報」が良いと思います。
なお、定款に公告方法を定めていないときは自動的に当該合同会社の公告方法は「官報」となります(会社法第939条4項)。
≫合同会社の公告方法は官報?電子公告?それぞれのメリットを比較する。
社員の氏名,住所,出資及び責任
第5条 社員の氏名及び住所、出資の価額並びに責任は次のとおりである。
1. 金300万円 ○県○市○町○番○号 有限責任社員○○商事株式会社
2. 金200万円 ○県○市○町○番○号 有限責任社員○○○○
次の事項は定款の記載事項であり、本条ではそれを記載しています。
- 社員の氏名又は名称及び住所
- 社員全員が有限責任社員である旨
- 社員の出資の目的及びその価額又は評価の標準
定款例は金銭出資を前提としていますが、社員が現物出資をするときは現物出資をした財産等を定款に記載します。
持分の譲渡
第6条 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。
2 会社法第585条第2項及び第3項は、適用しない。
会社法上、社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができません(会社法第585条1項)。
本条第1項は、それを定款で明文化している規定です。
また、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡し、かつ定款変更もできるところ(会社法第585条2項、3項)、それを本条第2項であえて否定しています。
業務執行社員でない社員が持分を譲渡するときも、当該社員以外の社員全員の同意を必要とすることで、より慎重に社員構成等を検討できるという意味で入れておいて良いかと思います(反面、意思決定は遅くなる可能性があります)。
社員の相続及び合併
第7条 社員が死亡し又は合併により消滅した場合には、その相続人その他の一般承継人は、他の社員の承諾を得て、持分を承継して社員となることができる。
社員が死亡(個人)又は合併(法人)により消滅したときは、当該社員は合同会社から退社することになります(会社法第607条1項)
しかし、定款に定めることにより社員が死亡又は合併しても、相続人又は承継会社が持分を承継することが可能となります(会社法第608条1項)。
本条は、上記会社法第608条1項に関する事項を定めている条文となっています。
特に、1人合同会社の場合は当該社員の死亡と同時に合同会社が解散してしまいますので、本条は定款に入れておいた方がいいかもしれません。
業務執行社員
第8条 社員○○商事株式会社及び○○○○は、業務執行社員とし、当会社の業務を執行するものとする。
合同同会社は業務を執行する社員(業務執行社員)が業務を執行しますが、定款に別段の定めがある場合を除き、全社員が業務を執行することになります。
本条では社員2名のうち、2名とも業務執行社員であることを定款で明文化しています。
社員2名のうち、1名だけを業務執行社員とするときは、その者だけが業務執行社員であることを定款で明記しておきます。
なお、個人だけでなく法人も業務執行社員となることが可能です。
代表社員
第9条 代表社員は業務執行社員の互選をもって、これを定める。
業務執行社員が1名である合同会社においては、当該業務執行社員が代表社員となります(会社法第599条1項)。
業務執行社員が2名以上いる合同会社においては、原則として業務執行社員全員が代表社員となります(会社法第599条2項)。
定款又は定款の定めに基づく社員の互選によって、業務執行社員の中から代表社員を定めることができますので(会社法第599条3項)、本条によって業務執行社員の互選によって代表社員を決めると設計していることになります。
代表社員の氏名(個人)又は商号(法人)を直接定款に記載することも可能です。
報酬
第10条 業務執行社員の報酬は、社員の過半数の決議をもって定める。
業務執行社員に対して、役員報酬を支払うことができます。
社員が複数いるのであれば、お金に関する部分は争いになりやすいため、その決定方法も明確にしておいた方が無難です。
業務執行社員の報酬を、社員全員の同意によって定めるとすることも可能です。
支配人の選任及び解任
第11条 当会社の支配人の選任及び解任は、業務執行社員の過半数をもって決定する。
合同会社も支配人を置くことができ、その選任及び解任は、社員の過半数をもって決定します(会社法第591条2項)。
この選任及び解任の方法は定款で定めることができ(会社法第591条2項但書)、本条は社員の過半数の決定でなく、業務執行社員の過半数の決定としています。
この方(意思決定への参加者が少ない方)が、意思決定をスムーズに行うことができます。
なお、合同会社で支配人を置いている会社は非常に少ないかと思われます。
事業年度
第12条 当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までとする。
合同会社は事業年度を定めなければならず、事業年度を定款に記載することが一般的です。
事業年度は、会社設立日から1年以内に、一事業年度目が終わるように設定しなければなりません。
消費税の免税事業者や決算申告業務等の関係から、設立日の前月末を事業年度末とすることが多い印象です。
計算書類の承認
第13条 業務執行社員は、各事業年度終了日から3か月以内に計算書類を作成し、総社員の承認を求めなければならない。
株式会社と異なり、合同会社には計算書類の承認義務が会社法に定められていませんが、株式会社と同様に、計算書類につき出資者の同意を得るという仕組みにしておいた方が良いでしょう。
株式会社では株主総会で承認をすることになりますが、合同会社には株主総会のような「総会」がありませんので、総社員の承認となります。総社員の過半数の承認と定めることも可能でしょう。
なお、社員総会を任意に設けることは可能ですが、社員が1名、2名であるような合同会社にとってはあまり実益がありません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。