商業登記関係 黄金株の株主が亡くなった後はどのような手続きが必要になるか
種類株式としての黄金株
株式会社や特例有限会社の事業承継の一環として、いわゆる黄金株が用いられることがあります。
黄金株とは会社法上の用語ではなく、一般的には拒否権条項(会社法第108条1項8号)が付いた種類株式のことを指し、発行済株式の大半は後継者が保有するけれども、株主総会の決議に関して自分の影響力を残しておきたいというケースでは一定の効果を発揮します。
黄金株には、一般的には株主総会や取締役会の特定の議案又は全ての議案に対してNOを突き付けられる強力な権利が付いていますので、当初の黄金株主から相続によって黄金株が承継されるときは、誰がそれを承継するのかは会社にとって非常に重要な問題です。
取得条項が付いている場合
黄金株には取得条項(会社法第108条1項6号)が付いていることがあり、例えばそのトリガーが黄金株保有者の死亡で、発動条件を満たしたときは取締役会の定める日に会社が黄金株を取得することができるという内容であったとします。
このような取得条項が付いていれば、当該取得条項を用いて会社が相続人から黄金株を取得することができ、取得するときはその内容に従い対価があるのであれば対価を交付します。無対価と定められている場合は対価の交付は不要であり、対価が他の種類の株式であれば当該種類の株式を交付します。
取得条項による黄金株の対価が金銭であるときは、財源規制(会社法第461条)の対象ですので分配可能額がない会社は取得条項を発動することができません。
取得条項付株式を取得する
取得事由が生じたときに、当該株式会社が別に定める日が到来することをもって当該事由とする定めがあるときは、定款に別段の定めがある場合を除き、会社は当該取得日を株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって定めます(会社法第168条1項)。
当該取得日を定めたときは、対象株主に対して当該取得日の2週間前までに、当該取得日を通知します。この通知は公告をもってこれに代えることができます(会社法第168条2項、3項)。
会社は、取得事由が生じた日(上記定めがある場合は当該取得日)に、取得条項付株式を取得します(会社法第170条1項)。
上記取得日の通知をした場合を除き、会社は取得事由が生じた後遅滞なく、取得条項付株式の株主に当該事由が生じた旨を通知又は公告します(会社法第170条3項、4項)。
種類株式を廃止する
取得条項により黄金株を自己株式にした後、自己株式には議決権がありませんので黄金株を自己株式のままとしておいても問題が生じる可能性は低いかもしれません。
仮に自己株式となった黄金株を廃止するときは、一例としては取締役会の決議又は取締役の決定によって自己株式たる黄金株の消却を行った後に、株主総会の特別決議によって黄金株を廃止する旨の定款変更→登記申請を行います。
黄金株の内容として、黄金株を削除することが黄金株以外の種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主総会の決議も必要となることがあります(会社法第322条1項)。
また、黄金株主(発行会社)がいる状況で、下記に記載しているとおり黄金株の内容を普通株式と同じ内容にすることにより、自己株式である黄金株を普通株式にするという選択肢もあるでしょうか。
取得条項が付いていない場合
黄金株に取得条項が付いていない場合は、他の相続財産同様に相続人が黄金株を承継することになります。
相続人が複数いて黄金株を巡り争いが生じるようであれば、以降株主総会の決議を通すことができなくなる可能性があるため、黄金株は特に着地を描いておくことが重要です(紛争が生じてしまったときは弁護士の先生にご相談ください)。
遺言がなく、相続人同士が仲が悪い等で遺産分割協議がまとまらないケースでは、黄金株の帰属先が決まらず会社の経営に支障をきたすこともあるかもしれません。
株主との合意により自己株式を無償で取得する
黄金株を承継する相続人が決まった後は、当該相続人が黄金株を保有したままにするか、あるいは既に当該相続人が議決権の3分の2以上を保有しているような状況では黄金株を削除することも検討します。
株主から有償で自己株式を取得するには株主総会の決議等の一定の手続きが必要となりますが、無償で取得するのであれば株主との合意で行うことが可能です。
≫自己株式を無償で取得する場合の手続き
≫特定の株主から自己株式を有償で取得する場合の手続き
黄金株を自己株式として取得した後は、そのまま自己株式として置いておくか、自己株式の消却をして株主総会の特別決議によって黄金株を廃止する旨の定款変更→登記申請を行います。
黄金株を普通株式に変更する
相続人が黄金株を承継した後に、その株式の内容を変更(会社法第322条1項1号ロ)して黄金株を他の種類の株式(と同じ内容)に変更することも考えられます。
普通株と黄金株式の2種類を発行している株式会社の場合、黄金株の内容を普通株の内容とする定款変更を行うことで黄金株を削除することも可能です。
この手続きでは、必要となる種類株主総会の決議を忘れないようにしましょう。
相続人等に対する売渡しの請求
相続人間で遺産分割につき争いがあるようなケースでは、会社が株式の相続人等に対する売渡しの請求(会社法第174条)を行うことも選択肢に入るでしょうか。
相続人等に対する売渡しの請求は、定款の定めが必要であり、行使の期間が限られている等のいくつかの条件があります。
≫相続人等に対する株式の売渡し請求という定款の規定と請求権の行使
また、財源規制(会社法第461条)の対象ですので分配可能額がない会社は相続人等に対する売渡しの請求を行うことができません。
属人的株式として議決権を設定している場合
属人的株式(会社法第109条2項)を利用して特定の株主の議決権を増やしている場合、当該株主が死亡し株式が相続されると、当該株主に係る属人的株式の定めは効力を失います。
遺言がある場合は遺言の内容に従って、遺言がない場合は遺産分割協議によって株式を相続人の誰かが承継することになるでしょう。
会社を承継したい人が決まっているのであれば、株式に関する遺言をのこしておくことがリスクヘッジに繋がります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。