商業登記関係 株式会社を設立するときに、どのような点に気を付けるか(司法書士目線)
株式会社の設立
私が独立開業してから5年半以上経過し、今まで350社以上の会社・法人設立に携わってきました。司法書士事務所・法人に勤務していた期間も含めると、その数字はもっと大きくなります。
ところで、最近ではご自身で会社設立の手続きをされる方も多いかと思います。
これから会社を作ってビジネスを伸ばし、世の中により良いサービスを提供されていく方が、会社の根幹である定款や持株比率等で数年後に躓いてしまうことがあるとしたらそれは非常にもったいないことです。
創業のフェーズにおいて、弊社でサポートするときは次のような点に気を付けていますので、少しでもご参考になれば幸いです。
あくまで、弊社が気を付けている点ですので、他の司法書士の先生や、他の士業(税理士、弁理士等)の先生は別の視点で他に気を付けている点があるかと思いますので、その点はご了承ください。
会社設立は専門家に任せてビジネスに専念されたい方は、弊社までお問い合わせください。
法人の種類
設立する法人の種類を何にするかは、法人を設立する目的によります。
ここでは、設立する会社の種類を株式会社としていますが、1人法人で初期費用を抑えたいのであれば合同会社、資格認定ビジネスや協会ビジネスをするのであれば一般社団法人が利用されることがあります。
商号
商号(会社名)としてはいくつかルールがあり、登記できない商号で、会社設立の登記前に会社印鑑セットや名刺、広告等を作ってしまうと大変です。
また、同一商号同一本店が禁止されているため、本店として登録することを予定している建物と同じ建物内に、同じ会社名が無いかチェックします。
資産管理会社ではなくビジネスを展開していく予定であれば、商標チェックも行っておくと良いでしょう(弁理士にチェックを依頼します)。
≫株式会社、合同会社、一般社団法人の商号(名称)の法的なルール
目的
事業目的は設立後に追加することもできますが、追加するときは株主総会の決議と変更登記が必要となります。
そのため、3-5年以内に行う予定のある事業目的を記載しておくのが良いのではないでしょうか。
後で事業目的を追加すると費用がかかるからということで、何でもかんでも目的をとりあえず入れてしまい、事業目的が30個にも及ぶ会社を見かけることがありますが、何をやっている会社かよく分かりません(それが良いか悪いかはさておき)。
許認可が必要な事業を行うときは、それに関する事業目的を入れておくことはマストです。
≫許認可が必要な事業を行うときは、その目的を定款に記載しておく
≫会社の事業目的と登記
本店
小さく始めるならランニングコストを抑えるために自宅を本店とされる方も少なくありません。
一方で、自宅がマンションやアパートの場合、住居以外の利用不可と管理規約に記載されていることがあり、その場合、設立登記自体はできてしまいますが、管理規約違反に該当してしまう可能性があります。
バーチャルオフィスを本店とすると、100%不可ではないとしても法人口座の開設に苦戦される話もよく聞きます。
法人口座の開設には賃貸借契約書を求められることがありますので、賃貸借契約書を出してくれるオフィスが、法人口座の開設の観点からは望ましいといえます。
≫定款の本店の所在地の記載について
≫会社の所在場所は、ビル名や部屋番号まで記載するべきか
公告方法
公告方法は「官報」「日刊新聞紙」「電子」の中から決めますが、「日刊新聞紙」は昔からある会社か、ダブル公告をする際に日刊工業新聞が利用されるくらいのイメージで、これから設立する会社が選択することはあまりありません。
「官報」にするケースが少なくありませんが、決算公告の費用や罰則が気になる方は「電子」になると思います。
≫定款に公告方法を定めないとどうなるか
≫株式会社の3つの公告方法とメリット・デメリットを紹介します
株式の譲渡承認機関
株式会社を設立するときは、非公開会社とすることがほとんどであるため、株式の譲渡承認機関を決定します。
取締役会設置会社であれば、譲渡承認機関は取締役会とすることが多いのではないでしょうか。
取締役会非設置会社であれば、「株主総会」「取締役の決定」「代表取締役の決定」が選択候補となりますが、「代表取締役の決定」だと代表取締役が譲渡当事者になる場合の利益相反が懸念されます(ただ、手続きはできます)。
承認機関を「当会社」としておくと取締役会を設置(又は非設置に)するときや解散するときに、譲渡制限に関する定款規定を変更しなくて済みます。
なお、譲受人が株主であるときは承認不要とする記載も見かけますが、個人的にはあまり好きでなく、小さいかもしれませんが一定のリスクは伴います。
≫株式会社の株式の譲渡制限の定めとその注意点
資本金の額
資本金の額は、金銭出資の場合1円から設定することが可能であり、いくらにするかは各会社によるところが大きく思います。
資本金1円では信用面でネガティブに働く可能性があり、1000万円以上にするのであれば消費税の免税について検討した上で設定した方がいいでしょう。
経営管理ビザの取得を考えているのであれば500万円以上にし、有料職業紹介事業の許認可を得るのであれば500万円以上にする等、資本金が何かの要件になっているときはその要件を満たす金額を設定します。
1株あたりの金額
1株当たりの金額は、1万円又は5万円とすることが多く、また、一般的ではないでしょうか。
一方で、投資家からのエクイティによる資金調達を検討している場合は、1株当たりの金額を小さく設定して発行済株式数を大きくしておくと融通が利きます。
≫株式会社を設立するときに、1株当たりの金額をいくらにするのが良いか
発行可能株式総数
発行可能株式総数は、公開会社であれば発行済株式数の4倍以下で設定しなければなりませんが(会社法第37条3項)、非公開会社であれば、そのような制限はなく自由に設定することができます。
設立後に発行可能株式総数を変更するには株主総会の特別決議が必要となり、発行可能株式総数を変更したときはその変更登記をしなければなりませんので、一般的には発行済株式数に対してある程度余裕のある発行可能株式総数にしておきます。
特に、ベンチャー企業で投資家から出資を受けることを想定している場合は尚更です。種類株式で調達する場合は結局、発行可能(種類)株式総数を変更することになりますが。
一方で、ケースとしては少ないですが、発行済株式数=発行可能株式総数とすることもゼロではありません。
≫株式会社における発行可能株式総数について
≫発行可能株式総数=発行済株式数とするメリット・デメリット
持株比率
1株=1議決権という前提において持株比率は、会社の重要なことを決定する株主総会という機関において大きな意味を持ちます。
特に50%:50%で株式を保有し合うと、何かあったときにデッドロックが発生してしまう可能性があり、発生すると何も前に進められなくなってしまいます。
株式を持たれたまま喧嘩別れで出て行かれると、強制的に相手の保有する株式を回収することが難しく、そうなると大変です。
とはいえ、お互いの士気や関係性にも関わってくるため、リスクを承知で50%ずつ保有してスタートするケースも少なくありません。
創業者間契約、株主間契約を締結しておけば、多少のリスクヘッジにはなるでしょうか。
株主総会の定足数と決議要件
株主1名の会社であれば、定足数や決議要件を考える必要はないでしょう。
当該株主が賛成すれば可決、反対すれば否決というシンプルな構造であるためです。
一方で、株主が複数いる会社においては、定足数と決議要件について検討をしておいた方がいいかもしれません。
A:51%、B:30%、C:19%という持株比率のケースで、普通決議や特別決議の定足数を3分の1としてしまうと、Aが株主総会に欠席しても普通決議や特別決議が通ってしまう可能性が生じます。
≫株主総会とその決議要件(普通決議、特別決議、特殊決議 他)
取締役の任期
取締役の任期は、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」ですが、非公開会社であれば2年の部分を10年に伸長することができます。
取締役の任期が満了すると、当該取締役が継続して取締役であるとしても再任の手続きと登記が必要となる関係で、とりあえず10年とする会社が少なくありません。
今の時代、10年も取締役を任せるにはリスクがあり、何かあったときに取締役を辞めてもらうことも大変です。
1人法人であれば取締役の任期は10年としておいて問題ありません。しかし、取締役を増やすときは、その人の属性によって任期は調整した方がいいでしょう。
代表取締役の選定方法
取締役会設置会社においては、代表取締役の選定方法は取締役会の決議のみとしておくことがほとんどで、それが不都合になることは稀です。
取締役会非設置会社においては、「株主総会の決議」or「取締役の互選」のどちらかを選択することが一般的です。
株主総会の開催の手間(株主=代表1名のケースではそんなに手間ではありません)を考えると、「取締役の互選」がスムーズかと思います。
一方で、株主が、代表取締役を選定するというイニシアチブを握っておきたい場合は「株主総会の決議」が良いのではないでしょうか。
1人法人であればどちらでも問題ありません。
≫代表取締役の選定をする方法にはどのようなものがあるか(株主総会?取締役の互選?)
取締役会のみなし決議
取締役会設置会社であれば、みなし決議(会社法370条)の規定を定款に定めておきます。
特にリモートワーク推奨である現在において、この規定がある会社はかならず「みなし決議」をしなければならないわけではありませんので、選択肢が増えるという意味で、とりあえずこの規定を定款に入れておいて損はありません。
≫取締役会の決議を書面又は電磁的記録で行う準備はできていますか?
事業年度
会社を設立するときは、会社設立日から1年以内の日を事業年度末日として定める必要があり、一般的には定款に事業年度について記載します。
- 設立日の前の月の末日
- 繁忙期を避ける
- 自分が経営する他の会社の事業年度を考慮
3月1日に設立するのに事業年度末日を3月31日にしてしまうと、すぐに決算が来てしまいますし、消費税の免税を活かすのであれば第1期目を長くしておくと有利であることがあります(設立当初6ヶ月間の売上と給与の額によってそうでない場合があります)。
決算の作業を考えると、繁忙期があるビジネスの場合は、事業年度末後の2-3ヶ月は繁忙期と重ならないようにすると良いかもしれません。
2社目、3社目の会社を作る場合は、自分が経営する他の会社の決算を考慮するケースがあり、顧問税理士に確認をされた方が良いでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。