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前川 研吾 Kengo Maekawa

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前川 研吾 Kengo Maekawa

ファウンダー&CEO  / 公認会計士(日本・米国) , 税理士 , 行政書士 , 経営学修士(EMBA)

日本初のサステナビリティ開示(SSBJ)基準を紐解く・その1:枠組みと位置づけ

2025年3月25日

ポイント

2025年3月、財務会計基準機構(FASF)内に日本のサステナビリティ開示基準を開発すること等を目的として2022年に設立された「サステナビリティ基準委員会」は、パブリックコメントを踏まえて日本初の「サステナビリティ開示基準」(SSBJ)を公開しました。

この動きは、国際会計基準財団(IFRS財団)がこれまでに「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」を設置し「全般的な開示要求事項(S1基準)」および「気候関連開示(S2基準)」を発表した流れを受けたものです。

SSBJは基本的にプライム上場企業の適用を想定して策定されていますが、それ以外でも推奨される動きが出てくるでしょう。また、現時点でSSBJは現時点では強制力のあるものではありませんが、金融庁のワーキング・グループを通して法改正を含めて義務化の検討が進められています(詳細下記3.および5.参照)。こうした動きは、欧州各国を中心とした海外でのISSB実施の動きに目を向けたものとなっています。ISSBおよびSSBJは、今後ビジネス界の標準の方向に進んでいくものと考えられます。

尚、ISSBまたはSSBJは基本的に、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言における4つの構成要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)を、気候から全てのサステナビリティ関連のリスクと機会に拡大するための、またこれまでのTCFDへの企業の取り組みをさらに強化するための基準と捉えることができます。

このように位置づけられる基準を踏まえると、企業が気候変動や自然資本との関わりの中で経営視点からサステナビリティをどう考えていくのか、またその考え方を、人的資本をはじめとする他の資本との関係を含めて経営の中にどう織り込んでいくのか等について、「ガバナンス」の検証が益々求められることになるでしょう。

その検証の中で、企業の見通しと、サステナビリティ関連のリスク及び機会とのあいだの「つながり」をしっかりと見据えることが一つのポイントとなっていくと言えます。

ISSB/SSBJの背景と目的

ISSBは、2021年11月3日、グラスゴーで開催されたCOP26において設立されました。ISSBは公益のために、投資家と金融市場のニーズに焦点を当てた、高品質で包括的なサステナビリティ開示のグローバル・ベースラインをもたらす基準を開発することを目的としています。

サステナビリティが、投資の意思決定の主流になりつつある中で、関連するリスクと機会について、質の高い、世界的に比較可能な情報を提供することを企業に求める声が高まっていました。特に、企業と投資家の双方にコスト、複雑性、リスクをもたらしている関連基準や要求事項の断片化に対処することが、強く望まれていたという背景があります。

そのようにして、ISSBは、G7、G20、証券監督者国際機構(IOSCO)、金融安定理事会、アフリカ財務大臣、40カ国以上の財務大臣、中央銀行総裁の支持を受け、サステナビリティ基準の策定に取り組んでおり、国際的な支援を受けています。

こうした背景を受け、日本においても国際基準との整合性を確保しつつ日本企業の実態に沿った開示基準を作成するために、2022年7月にSSBJが設立されました。

英国ではISSB基準と概ね同一の基準の適用が勧告されており、カナダにおいてもISSB基準に整合するサステナビリティ開示基準の最終化が公表されています。

SSBJの構成と適用

具体的に、SSBJの構成と適用(対象/範囲・時期・方法)の基本について、下記に見てみましょう。

【SSBJの構成】

SSBJの基本的な構成は、次のように示されています。

  • SSBJ基準は、サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」(「適用基準」)、サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」(「一般基準」)、サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(「気候基準」の3本柱で構成されている(詳細3参照)。
  • SSBJの「適用基準」は、ISSBのIFRS S1の基本となる事項を定めた部分に相当し、「一般基準」は、同じくIFRS S1の「コア・コンテンツ」に、「気候基準」はISSBのIFRS S2に相当する。

【適用】

適用全体の詳細については、「適用基準」を見ていく必要がありますが、ここでは適用対象/範囲、適用時期、適用方法についてのみ、端的に記しておきます(「適用基準」の詳細については、次号コラムで取り上げます)。

適用対象/範囲

SSBJの対象として、端的にいえば、基本的にはプライム上場企業を対象として策定されているものの、プライム上場企業以外の企業への適用可能性も考慮に入れられています。一方、そのいずれの対象企業について、現時点では強制的なものではありません。他方、サステナビリティ関連財務開示の対象として、報告企業自体だけでなく、「バリュー・チェーン」も対象とします。その「バリュー・チェーン」とは、「報告企業のビジネス・モデル及び当該企業が事業を営む外部環境に関連する、相互作用、資源及び関係のすべて」(適用基準第4項(12))と定義されています。したがって、製品又はサービス提供や供給、流通、消費に至るまでの、相互作用、資源及び関係、たとえば、材料及びサービスの調達、製品及びサービスの販売及び配送などについても、基準の対象として考慮が必要ということになります。

適用時期

現時点で強制適用時期は定められていません。しかし既に、2024年2月に金融審議会において「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(WG)」が新設され、具体的な適用対象や(強制)適用時期が検討されていることに留意する必要があります。同ワーキング・グループ第4回資料によると、時価総額3兆円以上の企業には2027年3月期から義務化し、1兆円以上の企業は2028年3月期から義務化、さらに時価総額5,000億円以上の企業には、2029年3月期から義務化、2030年以降、プライム全企業適用義務化の案が明らかになっています。

適用方法

どのように適用するかについては、基準の中で下記のように定められています。

  • 「サステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表と同じ報告企業に関するものでなければならない」(適用基準第5項)
  • 「関連する財務諸表を特定できるようにしなければならない」(適用基準第7項)
  • サステナビリティ関連財務開示は、基本的に、「関連する財務諸表と同時に報告し(適用基準67項)、関連する財務諸表と同じ報告期間を対象としなければならない(適用基準第68項)。

SSBJの3本柱

前述のように、2025年3月に発表されたSSBJは次の3つの柱から成ります。ここでは、その柱3本の、キーワードになるものを示しておきます(それぞれの柱の詳細については、次号以降のコラムをご覧ください)。

柱1:サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」(「適用基準」)

キーワード:質的特性、つながりのある情報、リスクと機会、不確実性、ガバナンス

柱2:サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」(「一般基準」)

キーワード:リスクと機会、ビジネス・モデル、バリュー・チェーン、影響、レジリエンス、評価

柱3:サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(「気候基準」)

キーワード:気候関連のリスクと機会、ビジネス・モデル、バリュー・チェーン、影響、気候レジリエンス、評価、TCFD、温室効果ガス排出

SSBJと既存の関連基準との関わり

ISSBは、国際的なサステナビリティ開示基準の開発にあたり、白紙の状態から基準の開発を始めるのではなく、既存の基準やフレームワークを基礎としてきました。したがって、SSBJは既存の関連基準をバラバラではなく束ね、よりサステナビリティと経営との結びつきを強めていくための基準と捉えることができます。

SSBJとISSBとの関係について、上記に述べたことに加え、次の点に留意が必要です。

  • SSBJは、基準を適用した結果として開示される情報が、国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとして策定された。
  • 原則として、ISSB基準の要求事項がすべて取り入れられている(主として基準の読みやすさを優先して順番や用語を言い換えあり)。
  • したがって、SSBJ基準独自の取扱いを選択しなければ、ISSB基準に準拠したことになるように意図して作成されている(ISSB基準の要求事項に代えてSSBJ基準独自の取扱いを選択した場合、ISSB基準に準拠することになる場合もあれば、準拠しないことになる場合もある)。

SSBJの実施に向けて

SSBJは、サステナビリティ開示基準を開発する基準設定主体であり、SSBJ基準に準拠した開示かどうかを保証する際の「保証基準」については、金融審議会を中心に検討が進められています。2022年12月公表された金融審議会ディスクロージャーWG報告では、「…企業によって社会全体へのインパクトが異なることや様々な業態があること、企業負担の観点、欧米では企業規模に応じた段階的な適用が示されていることを踏まえると、我が国では、最終的に全ての有価証券報告書提出企業が必要なサステナビリティ情報を開示することを目標としつつ、今後、円滑な導入の方策を検討していくことが考えられる」と提言がなされました。

その後、前述の新設「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するWG」では、法改正を視野に入れた検討が進められ、第四回WGでは具体的に2028年3月期から保証制度を導入することが提案されています。

こうした動きを見定めながら、個別ルール・規制対応に終始することに留まらず、中長期的な視野をもって、経営とサステイナビリティの視点から「ガバナンス」をもう一度見直すことが、あらゆる企業に求められていくことになりそうです。

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