【外資系企業向け】日本の中小法人判定基準と税務上の影響を徹底解説
2025年5月1日
日本の中小法人・中小企業者の定義
税法上の中小法人・中小企業者は主に資本金によって判定されます。 法人税法および関連の税制上は、資本金1億円以下の法人であれば多くの場合が中小法人等(中小企業者等)に該当します。ただし、資本金5億円以上のいわゆる大法人の100%子会社(完全支配下にある法人) は、資本金が1億円以下でも中小企業者等から除外されます。つまり、日本子会社自身の資本金が小さくても、親会社の規模が非常に大きい場合には中小法人 とはみなされない点に注意が必要です。
親会社の資本金が与える影響
海外親会社の規模(資本金額)は、日本子会社が中小法人に該当するかどうかに直接影響します。前述の通り、日本の税法上は「資本金5億円以上」の大法人によって完全に支配されている子会社は中小法人の優遇から除外されます。ここでいう「完全支配」とは、大法人が日本子会社の発行株式の100%を直接または間接に保有する場合を指します。
例えば、海外親会社の資本金が5億円以上ある大企業で、その親会社が日本子会社の株式を100%保有している場合、日本子会社の資本金がたとえ1,000万円や1億円以下であっても中小法人とは認められません。これは日本の税制上、日本子会社を親会社グループ全体の一部とみなし、中小企業向けの優遇を適用しないためです。
一方、親会社の資本金が小さい 場合(5億円未満)や、親会社が日本子会社の株式を完全には保有していない場合には、この限りではありません。たとえば海外親会社そのものが中堅規模(資本金5億円未満)であれば、日本子会社は通常の資本金要件(1億円以下)を満たす限り中小法人と判定されます。また、日本子会社の株式を分散して保有しているケースや、一部を他の出資者が保有しているケースでは、「大法人による完全支配」には該当しなくなるため、日本子会社が中小法人に該当する可能性があります。
親会社が上場企業など大規模な場合でも、日本子会社の判定においては株主構成も考慮すべきポイントとなります。
出資スキームの構築ポイント
日本子会社の設立にあたっては、資本金額や出資比率の設計によって中小法人のメリットを享受できるかが決まります。そのため、出資スキームを検討する際には以下の点に留意しましょう。
- 資本金額の設定:日本子会社の資本金はできる限り1億円以下に抑えることが基本です。資本金が1億円を超えると中小法人の範囲から外れてしまい、多くの税制優遇措置を受けられなくなります。
- 持株比率の調整:親会社が大法人に該当する場合(資本金5億円以上)、日本子会社を完全子会社(100%出資)にしないことで中小法人判定を維持できる可能性があります。
- 中間持株会社の活用:ケースによっては、海外親会社が直接日本の事業会社を持つのではなく、日本に小規模な中間持株会社(ホールディングス)を設立し、その傘下に事業運営会社を置くという手法も考えられます。
以上のように、出資額や持株比率の調整によって中小法人判定を受けられるかが変わります。日本進出時には、税務上有利な範囲で出資スキームを最適化することが重要です。複雑なスキームを用いる際は、専門の税理士と十分に検討し、日本の税務当局の解釈に沿った構成になっているか確認する必要があるでしょう。
判定基準による税務優遇の変化
日本子会社が中小法人に該当するか否かで、税務上の優遇措置や負担額には大きな違いが生じます。中小法人と判定される場合、各種税制上のメリットを受けることができますが、該当しない(大法人扱いとなる)場合、それらの特例は適用されず一般の税率・税制が適用されます。
主な違いは以下の通りです。
- 法人税率の軽減措置:中小法人等には年間所得の一定額まで法人税の軽減税率が適用されます。現在、年間800万円までの所得については15%という低い税率が認められています。一方、大法人に該当する場合、法人税率は一律23.2%(標準税率)が適用され、低所得部分への優遇はありません。
- 欠損金の利用制限:大法人では、繰越欠損金を翌期以降に控除する際、その期の所得金額の50%を上限としてしか控除できません。つまり、黒字の半分までしか過去の赤字と相殺できず、残りはさらに翌期以降に繰り越すことになります。これに対し中小法人等であれば、当期の所得金額の100%まで欠損金で相殺することが可能です。
- 外形標準課税の適用: 資本金1億円を超える企業には法人事業税の外形標準課税が適用されます。外形標準課税とは、企業の所得だけでなく、資本金や従業員数(給与総額)といった事業規模に応じて課税される仕組みです。
以上のように、中小法人判定を受けられない場合、法人税率の上昇、欠損金控除の制限、地方税負担の増加など、トータルの税負担が重くなる傾向があります。事前に自社がどちらに区分されるかを把握し、シミュレーションしておくことが重要です。
利用できなくなる主な優遇制度
日本子会社が中小法人に該当しない場合、中小企業向けの様々な税制上の優遇措置を利用できなくなります。以下に中小企業者等だけが享受できる代表的な優遇制度を挙げます。
- 法人税の軽減税率:前述のとおり、中小企業者等では年800万円以下の所得に対し15%の軽減税率が適用されます。
- 欠損金の繰戻し還付:中小企業は青色申告を行っていれば、赤字が発生した際に前年度の黒字と相殺して法人税の還付を受けること(欠損金の繰戻還付)が可能です。
- 中小企業投資促進税制:中小企業者等が一定の設備投資を行った場合に、取得価額の30%の特別償却できる制度です。
- 中小企業経営強化税制:生産性向上や業務効率化に資する一定の設備投資を行った場合に、中小企業が受けられる優遇制度です。対象設備について取得価額の100%を即時償却または一定額の税額控除の適用が受けられます。
- 交際費等の損金算入特例:中小法人には交際費について年800万円まで全額を損金算入できる特例があります。
- 少額減価償却資産の特例:中小企業者等では30万円未満の減価償却資産を取得した場合、年間の取得価額の合計300万円までは一定要件のもと損金算入(即時償却)できる特例があります。
- その他の税額控除の優遇:中小企業にはこの他にも、研究開発税制における控除上限の引き上げや、賃上げ促進税制(所得拡大促進税制)の要件緩和・控除率上乗せ措置など、優遇規定がいくつか存在します。
以上のように、中小企業者等のみが享受できる優遇税制は多岐にわたります。日本子会社が大企業扱いとなってしまうと、これらの有利な制度が軒並み使えなくなるため、結果として税負担が増加するだけでなく、投資判断にも影響を及ぼす可能性があります。
中小法人と大法人の税務負担比較
中小法人と大法人では具体的にどれほど税負担に差が出るのでしょうか。いくつかの観点で比較してみます。
【法人税率の比較】
中小法人は年間800万円までの所得に15%・超過部分23.2%の法人税率、大法人は全所得に一律23.2%の法人税率が適用されます。その結果、課税所得が少ない場合ほど中小法人の実効税率は低く抑えられます。例えば年間の課税所得が800万円の場合、中小法人の法人税額は約120万円ですが、大法人では約186万円となり、中小法人の方が約66万円の法人税負担が軽くなります。逆に課税所得が数億円規模に達するような場合は、800万円部分の軽減効果の割合が小さくなるため、法人税率の差はあまり問題となりません。
【法人事業税負担の比較】
資本金1億円超の企業には外形標準課税が課されるため、たとえ利益が出ていなくても一定の法人事業税を支払う必要があります。一方、中小法人であれば利益がゼロもしくは赤字であれば法人事業税はかかりません。つまり、業績不振時の下支えとしては中小法人の方が有利です。
このように中小法人と大法人では税負担構造が根本的に異なり、中小法人の方が法人税・法人事業税ともに負担が軽減される場面が多くなります。現行制度の下では、外資系企業であっても要件を満たせば中小企業の優遇を受けられるため、適用可否を十分確認し最適な形で活用することが求められます。
海外親会社を持つ場合の注意点
海外親会社を持つ日本子会社は、中小法人判定に関して特有の留意点 があります。上述の通り「資本金5億円以上」の大法人によって完全に支配されている子会社は中小法人から除外されますが、海外親会社の場合この資本金が外貨建てであるため期末時点の為替相場が中小法人の判定に影響を与えます。
具体的には、海外親会社における外貨建ての資本金の額に期末の為替レートを乗じた金額が5億円以上であるかどうかによって、その子会社は中小法人に該当するかどうかを判定することになります。そのほかにも、移転価格税制や過少資本税制といった親子間取引に関連する税務リスクにも注意が必要です。
まとめ
日本で中小法人に該当するかどうかは、外資系企業の子会社にとって重要な税務上の判断ポイントです。資本金や親会社の出資比率により、軽減税率や各種優遇措置の適用可否が決まります。該当すれば税負担を抑えられますが、そうでない場合は大きなコスト増に繋がる可能性があります。
そのため、出資スキームを含めた設立段階からの慎重な計画が必要です。税制改正にも留意し、専門家の助言を受けながら対応することが重要になると考えます。