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新地 皓貴 Hiroki Shinchi

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新地 皓貴 Hiroki Shinchi

パートナー  / 公認会計士 , 税理士

IPO準備会社のIFRS対応と税務論点

2023年9月12日

2013年6月に、IFRS適用要件が緩和され、①上場企業要件の削除 ②国際的な財務活動・事業活動要件が削除されました。これにより、IPO準備会社、再上場準備会社についても、IFRSを任意適用した上場スキームが可能となりました。IFRSを任意適用することは、世界中の人が共通で使える、高品質で単一の会計の物差し(会計基準の世界標準)で連結財務諸表を作成することです。もちろん、グローバルオファリングや海外投資家の投資を容易にするメリットもあります。一方、IFRSを任意適用することは、2つの会計基準を並行して適用することとなり、取引所審査への準備も労力を要するものとなります。

下記では、IPO準備会社がIFRSを導入する場合の具体的な対応及び税務上の論点について解説していきます。

IFRSとは

IFRSは、「国際財務報告基準 (International Financial Reporting Standards)」の略語であり、国際会計基準審議会 (International Accounting Standards Board:IASB) が策定する会計基準です。

前身の国際会計基準委員会 (International Accounting Standards Board:IASC) 時代に作られた会計基準は「国際会計基準 (International Accounting Standards:IAS)」と呼ばれていました。IASはIASBに継承され、一部は現在も有効です。個々のIFRS及びIASはIASBが定款に定められた適切なデュープロセスに基づいて順次改訂、見直しを行っています(IASBプロジェクト計画表)。なお、全ての基準を総称するときにも、「IFRS」と総称されます。

米国、日本等においては、自国基準を保持しながら、自国基準とIFRSとの差異を縮小することによってIFRSと同様な会計基準を採用しようとする「コンバージェンス」が進められてきましたが、欧州連合 (European Union:EU) がEU域内上場企業の連結財務諸表にIFRSの適用を義務付け、域外上場企業にも「IFRS又はこれと同等の会計基準」の適用を義務付けたことを契機に、IFRSを自国の基準として採用する「アドプション」を表明する国が急速に増加し、世界的に「アドプション」ないしは「フル・コンバージェンス」への方向転換が加速化しています。

IFRSの採用がIPOに与える影響とは

(1) IFRSの採用

現在、日本においてはIFRSの適用は上場・非上場、企業規模に関係なく、強制されていません。このためIPO準備会社がIFRSを採用することは、任意適用になります。IFRSの任意適用とは、決算開示書類をIFRSに基づいて作成して報告・提出することを意味します。連結財務諸表はIFRSが適用される一方、単体財務諸表は日本基準が適用されるため、2つの会計基準を並行して適用する必要があります。これにより、利益計画、予算実績分析なども2つの会計基準により実施することになります。

(2) 上場審査に与える影響について

取引所の実質基準上場審査は、有価証券上場規程第207条における下記5つの適用要件への適合状況に対して上場判断がなされますが、IFRSを任意適用させた場合でも、これらの適用要件に大きな変更点はありません。

1企業の継続性及び収益性継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していること
2企業経営の健全性事業を公正かつ忠実に遂行していること
3企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること
4企業内容等の開示の適正性企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること
5その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項

①IFRSを導入する理由について

IFRSの任意適用に関して、「実態に即した会計基準を採用し、必要な会計組織が、適切に整備、運用されている状況にあること」、「企業内容の開示に係る書類が法令等に準じて作成されているか、かつ、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項や主要な事業活動の前提となる事項について適切に記載されていること」について確認されます。その審査の過程で、IFRS導入の経緯、任意適用した理由について質問・確認されます。IPO準備会社は、企業グループにとって、IFRS導入のメリットを説明できる必要があります。

②IFRSベースでの予算管理

上場審査では、予算統制に関して、「予算の策定が組織的に、かつ合理的に行われているか」について確認されます。この場合の予算は、「中期事業計画、年度予算、四半期、月次の単位でどのようなプロセスで作成されているか」、「上場後の公表する情報として有用なものか」について検討されます。連結財務諸表、四半期連結財務諸表がIFRSで作成される場合、当然予算もIFRSで作成することが要請されます。

ここで重要な点は、いつの時点からIFRSベースの予算を作成するかです。予算策定の信頼性を最も重視する期間は、申請期です。ただし、信頼性の確認には、策定根拠の妥当性のみならず、過去の予算と実績の乖離度合いも検討されます。過去の予算乖離の検討では、直前期のみならず、直前々期からのIFRSベースの予算作成と運用が望まれます。さらに、予算管理の審査では、「予算と実績の差異に関する分析及び予算達成のためのアクションが適切にとられているか (経営判断を含む)」、「予算統制スケジュールが適時開示上に支障がないか」、また「その後の事業活動や予算作成に反映されているか」について検討することになります。

申請会社単体では、日本基準での予算と実績の差異分析を行い、企業グループではIFRS基準で予算と実績の差異分析を行うため、両者の相関性が重要視されます。IFRS導入プロセスにおいて、申請会社単体の会計制度と企業グループの会計制度の差異をできるだけ排除することが望まれます。また、申請期では、月次での予算と実績の差異分析が求められます。タイムリーなIFRSベースの月次決算体制の確立と有効な分析の運用状況が要請されます。取引所審査の前で行われる主幹事証券審査もありますので、直前期からIFRSベースの月次決算体制の導入と、予算と実績の差異分析の実施が必要となります。

③「のれん」に関する事項ついて

IFRSの会計処理のうち日本基準と大きく異なる処理として、「のれん」の償却処理があります。日本基準の「のれん」償却に関する会計処理は、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって償却する一方で、減損の兆候がある場合には、減損損失を認識するかを判定します。IFRSの「のれん」償却に関する会計処理では、償却は行わず、減損の兆候の有無にかかわらず、最低毎期1回減損テストを行います。日本基準とIFRSで「のれん」の償却方法が大きく異なるため、「のれん」償却の金額が多額となる場合、利益に与えるインパクトが大きくなります。このため、「のれん」の審査では、開示の適正性、利益に与えるインパクト等を検討するために以下の事項が特に確認されます。なおこれらは、監査法人等による準金商法監査(金融商品取引法第 193 条の 2 第1項の規定に準じて、IPOを目指す企業に対して行われる監査)でも主要な監査論点となります。

  • 「のれん」の発生の理由及び経緯
  • 当初計上額の算定方法
  • 減損テストの具体的方法
  • 「のれん」関連の開示

IFRS対応における税務上のポイント

(1) IFRSによる決算書の作成方法

上記に記載したとおり、IFRSで作成される決算書は連結財務諸表のみであり、単体の財務諸表は日本基準で作成する必要があります。連結財務諸表をIFRSにより作成する方法は一般に下記のとおり2つ存在します。

①日本基準帳簿とIFRS帳簿を2つ用意する方法。具体的には、日々の取引をIFRSで仕訳入力し、IFRS財務諸表を作成する(同時に日本基準でも仕訳入力を行い、日本基準の財務諸表を作成する)

②日々の取引を日本基準で仕訳入力(日本基準の帳簿を作成)し、その帳簿をベースにIFRSとの調整仕訳を加えて、IFRS財務諸表を作成する方法

(2) 税務上の影響

①、②いずれの方法を採用しても、日本基準による帳簿が存在します。このため、税務上の影響は、日本基準による一般に公正妥当と認められる企業会計基準と法人税法による処理との取扱いに相違がある論点が税務上、影響を及ぼすことになります。。

IFRS対応に伴う税務申告書作成のポイント

税務申告は、個別申告方式によります(2022年4月1日からグループ通算制度開始に伴い、連結納税制度は廃止)。IFRSをIPO準備会社が任意適用しても、単体財務諸表は日本基準で作成する必要があります。このため上記に記載したとおり、日本基準による帳簿は作成する必要があります。

したがって、IFRSを適用しても、税務申告書を作成する際には、単体財務諸表作成の際に適用した日本基準による一般に公正妥当と認められる企業会計基準と法人税法上の取扱いに留意し、両者の差異を把握し、税務調整を加えることで税務申告書を作成することができます。このため、IFRSを適用した場合であっても、日本基準による帳簿が適切に作成されていれば特段問題はないといえます。

まとめ

日本は、現況のインフレ基調から、失われた20年の世界的に例を見ない長期デフレからの脱却期待が大きい状況にあります。今後、海外投資家の日本投資への積極化が期待できることから、IPO準備会社は日本の投資家のみを想定することなく海外投資も視野に入れることがより重要になってきます。IFRSは会計基準の世界標準とも呼べるものであり、IFRSを適用し連結財務諸表を作成し開示することで海外投資家が、IPO準備会社の財政状態・経営成績を知ることができ、かつ外資系企業と比較することも可能となります。

このようなメリットを享受すべく、上場企業限らず、IPO準備会社もIFRSの適用を検討してはいかがでしょうか。なお適用にあたり、上記述べたように、IFRSの適用による上場審査における特有の対応事項が存在すること。税務の観点からも、結局IFRSを適用しても日本基準による帳簿を適切に作成することが重要であること、については留意しておく必要があります。

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