【国際課税Q&A】外国法人側の源泉税納付が未了の場合の外国税額控除の可否
2023年11月10日
質問
3月決算の日本法人が、外国の会社に自社が著作権を有するゲームアプリの利用許諾を行ったことで得るロイヤルティに相当する対価が入金される際、源泉税が徴収されていました。
当該外国法人は8月末に源泉税について納付予定であり、今回の源泉徴収に係る納付も8月に行う予定とのことです。
この際、3月決算の日本法人の申告時に外国法人側で対応する源泉税の納付が完了していなくとも、外国税額控除を取ることは可能でしょうか。
回答
日本法人側で外国税額控除を取ることは可能と判断できます。
重要用語
今回の質問及び回答にて使用されている「外国税額控除」という用語は、国際税務の重要用語の1つであるため、今一度、ここで取り上げて確認したいと思います。
外国税額控除とは、端的に言えば、国際的二重課税の解消のため、外国で支払った税金のうち、一定額を日本の税金から差し引くことができる制度です。
日本の居住者や内国法人は、所得の生じた場所が国内であるか、国外であるかを問わず全ての所得について日本で課税されます(全世界所得課税)。ただし、国外で生じた所得については、外国の法令でも所得税や法人税に相当する租税の課税対象とされることがあるため、日本と海外の双方で二重課税となる場合があります。当該国際的な二重課税を調整するために、一定額を日本の所得税又は法人税の額から差し引くことができることにした制度を、外国税額控除制度といいます。
外国税額控除は、「控除限度額」を超えない範囲で行うことができます。法人の場合、「控除限度額」は次の式で計算されます。
計算式
控除限度額=その年分の法人税の額×(その年分の国外所得金額 / その年分の所得総額)
即ち、「全世界所得」に対する「国外で生じた所得」の割合を出し、日本の法人税額に乗じることで、その年度の控除限度額が算出されることになります(法人税法施行令142条)。
控除しきれなかった外国税額は3年間繰り越すことができ、また反対に、外国税額の控除後にもなお控除限度額の枠に余裕がある場合も、3年間繰り越して控除枠を利用することが可能となります(法人税法69条2項3項、法人税法施行令144条145条)。
外国税額控除制度を利用する場合、外国税額は損金の額に算入されません(法人税法41条)。
外国税額控除を利用しない場合は、外国税額を損金処理することが可能ですが、課税所得の計算上、支払外国税額について損金に算入し、所得から差し引いた上で税率を乗じて国内での支払税額を算定することから、他の一般経費と同様に、「外国税額×税率」の金額分しか二重課税を排除できないため、一般的には税額控除を利用した方が、会社の日本における法人税の負担が少なくなります。
根拠
(1) 外国での源泉徴収が適切か否かの確認
外国の会社にて行われた源泉徴収について、問題がなかったかを確認します。外国税額控除を取るにあたっては、国際的二重課税の根拠となる外国法人税(所得税)が、適切なものであったか否かを確認することが重要です。その際には両国間の租税条約の確認も必須です。この時点で不要な源泉徴収がなされていたり、源泉徴収されている金額が過大であったりする場合には、日本における外国税額控除の可否の検討以前の段階で、取引相手への指摘、もしくは相手国への源泉税率の減免申請が必要となるためです。
(2) 外国税額控除の適用時期
次に本題である、外国で対応する源泉税を納付していない状況で、日本の申告時に外国税額控除を取ることができるか否かという点を見ていきます。
第一に、法人税基本通達16-3-5において、外国税額控除は「外国法人税を納付することとなる日の属する事業年度において適用」とされています。
第二に、同上通達逐条解説にて「外国法人税を納付することとなる日=納付すべき租税債務が確定した日」と解説されていることから、「外国税額控除は、納付すべき租税債務が確定した日に適用することが可能」と読み取ることができます。
最後に、通則法15条1項~3項において、源泉徴収による所得税は、源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時に、租税債務の確定がされるものと扱われています。
以上より、外国の源泉税においても、所得支払日=租税債務確定日として整理できるものと考えられます。
よって今回の事例のように、未だ外国で源泉徴収税分の納付がなされていない場合においても、源泉税控除後の金額にて日本法人に入金がなされている時点で、既に納付すべき租税債務が確定されていると考えられ、日本の申告においてこの分の外国税額控除を取ることは可能と判断できます。
(3) 外国税額控除適用時に保存が必要な書類
外国税額控除適用時に保存が必要な書類の詳細に関しては、法人税法施行規則29の4及びそれを受けた法人税基本通達16-3-48において規定がなされています。
具体的には、源泉徴収の場合、「源泉徴収の外国法人税に係る源泉徴収票その他これらに準ずる書類」が含まれており、日本の支払調書のような書類があれば、根拠資料になると考えられます。
申告時に納税証明等を得ることができない場合の取り扱いについては法令上明確ではありませんが、まずは会社が対価の支払い時に源泉徴収を行ったことを確認できる書類等を保存するとともに、その源泉税納付が完了次第、速やかに「源泉徴収の外国法人税に係る源泉徴収票」に相当する書類も取得し、保存しておくことが必要と考えられます。