内部監査と外部監査の違い
2023年11月8日
内部監査と外部監査の目的
IPOの検討を開始すると、「監査」という言葉をよく聞くようになります。内部監査、会計監査、監査役監査の3つでしょう。会計監査は「外部監査」とも呼称されるため、特に内部監査と対比されます。
内部監査の目的は、「自社の企業価値の向上」です。
監査という名称の通り、自社の業務プロセスについて法令違反の可能性の有無やリスク検証を行いますが、その目的はあくまでチェックを行った後に問題点の解消や効率化を行うことです。
一方の外部監査の目的は、「投資家の保護」です。
外部監査(=会計監査)では、その名称の通り、主に企業が作成・公開する財務情報が監査の対象になります。経営者は「正しい情報を説明する責任(アカウンタビリティ)」を負っていますが、その責任を果たすため、開示される情報が正確であることを、独立した公認会計士又は監査法人に証明してもらうのが、外部監査です。
上場企業の有価証券報告書には必ず監査報告書が含まれています。有価証券報告書の妥当性を監査報告書が担保することで、当該企業に投資を行う投資家を保護する、という仕組みです。
役割と範囲の違い
ここからは、内部監査と外部監査の違いについて、役割と範囲の二つの側面から深掘りしていきます。
内部監査の役割は、企業価値の向上のためにチェックを行い、同時に社内のコンプライアンス意識を引き締めることです。また、範囲には、会計処理を含む社内のあらゆる業務フローが含まれます。
内部監査は自社の業務フローを第三者視点でチェックするものです。その為、法令違反が無いか、必要なルールが存在するか、といったチェックは行います。しかしながら、監査とは言っても社内の人員によるものである以上、外部に対して何らかの証明を行うことは難しく、IPOにおいて適切に行われていることを説明する以外は、社内向けの意味合いが強くなります。
監査と企業価値の向上、は一見結びつきが見えづらいですが、リスクになり得る要素を是正することで、先々のトラブルを防止し、将来的な企業価値の棄損を防止したり、非効率な業務を発見し、是正提案を行うことで業務工数の削減、ひいては粗利の向上に貢献したりすることが出来ます。
一方の外部監査の役割は、外部に対して開示される財務情報の正確性を証明することです。監査範囲についても、財務情報に関連する領域に限られます。
外部監査は、開示される財務情報について、各勘定科目の金額の妥当性を検証することによって、当該財務情報の正確性を検証します。勘定科目毎の残高の正確性を検証することで、開示される財務情報の正確性を担保する、という仕組みです。
ここで押さえておくべきは「重要性の原則」です。これは監査対象とする勘定科目について、金額や科目の性質から、最終的な利益に与える影響が乏しい科目については、簡便な処理を行って構わない、とするものです。
例えば利益が数十億円、数百億円という単位の企業にとって、期中取引額が数十万円、数百万円の科目は開示される情報に大きな影響を与えないため、簡便な処理で良いと判断されます。
金額基準が明確に示されているわけではありませんが、一般的には税引前当期純利益の5%未満の額の科目は重要性が無いと判断されるケースが多いです。但し、前述の通り、科目の性質も考慮されるため、当該会社のビジネスの根幹にかかわる科目である場合には、金額にかかわらず監査対象になります。また、赤字の場合も重要性の原則は適用されません。
このように外部監査も、優先順位付けを行うことで、実効性と効率を両立する形で監査が行われます。
独立性と中立性
ここまで内部監査と外部監査の違いにフォーカスしてきましたが、最後に共通するポイントについても解説します。それが、独立性と中立性です。
監査対象をチェックする、という性質上、監査対象から独立した立場で、中立の視点から監査を行えなければ意味がありません。その為、監査対象と監査人との間には利害関係が存在しないように監査業務が行われる必要があります。
外部監査においては、例えば監査を担当する会計士と会社に不正な関係があれば粉飾等を意図的に見逃すなどの犯罪行為に発展しますし、内部監査においても、内部監査室と各部署に上下関係や評価に影響する項目があっては監査が円滑に進まなかったり形だけの監査になったりします。
その為、外部監査では会社と利害関係の無い公認会計士又は監査法人が監査を行いますし、内部監査においても、内部監査室は代表取締役直下の部署として、他の部署と独立した位置づけで設置されます。
まとめ
今回は、内部監査と外部監査の違いを中心にまとめました。
内部監査と外部監査は目的、役割、範囲等の違いはご理解頂けたかと思いますが、あくまでこの違いは役割上の違いであって、それぞれが独立したものというわけではありません。冒頭に触れた監査役監査も含んで「三様監査」と呼称されるように、企業のコンプライアンス遵守の為、それぞれの監査は密接に連携するものです。
本稿で触れた違いや共通点をご理解いただき、三様監査のより効果的な連携を推進頂ければ幸いです。