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前川 研吾 Kengo Maekawa

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前川 研吾 Kengo Maekawa

ファウンダー&CEO  / 公認会計士(日本・米国) , 税理士 , 行政書士 , 経営学修士(EMBA)

リモートワーク及びハイブリッドワークがアジア太平洋地域の不動産業界に与える影響と今後の展望

2023年12月27日

ここ数年、世界中で不動産に複数の変化が見られました。現在ではスタンダードとなっているリモートワークは、当然のことながらこの不動産の分野に世界中で大きな影響を与えており、それはアジア太平洋地域 (APAC) も例外ではありません。リモートワークをする人が増えれば、より多くの企業がハイブリッドワークモデルを採用するため、その影響は商業用不動産と住宅用不動産の双方に波及します。新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、私たちの大半の生活スタイルが大幅に変わり、勤務体系も柔軟性がより求められるようになりました。ここでいう柔軟性の例として、より良いワークライフバランスやどのような場所でも仕事できる環境が挙げられます。こうした新しい暮らし方や働き方に伴い、不動産業界はこれらの変化する流れに対応するよう変革を遂げてきました。 RSM の不動産におけるプロフェッショナルは、リモートワークおよびハイブリッドワークがアジア太平洋地域の不動産市場にどのような影響を与えているか、見解を共有しています。

オフィススペースの需要:どの程度のスペースが過剰といえるか

2020年以前、商業用不動産は、好調な景況感を背景に、継続的かつ安定した成長を遂げていました。しかし、世界的なパンデミックとその後の法律や公式勧告により、この着実な成長は突然停止しました。

RSMシンガポールのパートナーであるデニス・リー氏は、「パンデミックは、『リモートワーク』がどのようにして可能になるのかについて再考する機会となり、その結果、稼働率の低下、大幅な賃料の改定、そして共同オフィススペースなど共有を活かすための従来のワークモデルの再構成をもたらしました。」と述べています。またリー氏は、「ここ数カ月、シンガポールの不動産投資信託でも一口当たりの分配金が減少し、全体的に家賃収益率が低下しています。」と述べています。

オーストラリアの商業用不動産市場では、依然として高級オフィススペースに対する需要が見られますが、必要とされる実際の床面積は減少しています。 RSM オーストラリアの不動産・建設担当リーダー、アダム・クロウリー氏は次のように述べています。「ほとんどの主要首都では、高級オフィススペースの需要は継続して多く、A+グレードのテナントが A+グレードのオフィススペースを探しています。しかし、A+グレードのテナントが占める床面積は減少しており、通常は高級物件を選択する大手企業や組織は、従業員の多くがハイブリッドワークモデルで稼働しているため、通常よりも少ないスペースでの賃貸契約しかしていません。」

組織が完全にオフィスに戻るのか、それともハイブリッドワークまたはリモートワークモデルを維持するのかについての議論はまだ続いています。しかし、シンガポールでは商業用不動産の需要が将来的に増加する可能性があります。 RSM シンガポールのビジネス コンサルティング ディレクター、キース・タン氏は、「『リモートワーク』に対する考え方の変化により、このような一部の落ち込みは一時的なものになると予想されます。」と述べています。「一般に、シンガポールの企業(政府機関を含む)はオフィスワークまたはハイブリッドのワークモデルに戻りつつあり、パンデミック後の回復により商業プロジェクトも軌道に戻りました。」

同様に、日本でもオフィススペースが復活するかもしれませんが、これまでとは異なる形での復活になるかもしれません。 「将来を見据えると、オフィスへの出勤率がパンデミック前の水準に戻る可能性は低いでしょう。」と RSM 汐留パートナーズのファウンダー・CEO の前川研吾氏は言います。 「その一方で、シェアオフィスやコワーキングスペースの台頭などに代表されるフレキシブルオフィスソリューションの急増が顕著です。」

都市部から地方へ: 郊外の不動産

一部の国では、人口密度の高い都市部以外の住宅用不動産市場で需要が急増しています。人々が自宅で働き過ごす時間が増えるにつれ、自宅のスペースがますます必要とされるようになり、職場に近いという利便性はそれほど重要ではなくなりました。前川氏は次のように述べています。「リモートワークの増加により郊外や地方の住宅需要が高まり、通勤の選択肢が広がっています。それが進むにつれて、都市部以外の住宅やリモートワークのニーズに合わせた環境の構築への関心が今後も続くことを期待しています。」

都市中心部の商業用不動産の需要が鈍化しているにもかかわらず、明らかに「都市周縁部や特定の機能に特化した郊外のエリア内での不動産需要の再配分」が見られるとキース・タン氏は言っています。オフィススペースへの出勤率が低下する中、都市部の高額なオフィススペースの利用事例は説得力を失っています。そのため、多くの組織は、そこで働く人々と同様に、都市部での事業運営にかかるコストを回避し、より柔軟なワークモデルに対応するために、事業を都市部から郊外に移しています。シンガポールでは、「中央ビジネス地区の総床面積に対する一般的なビジネスにおける需要は、『コロナウイルス以前』のレベルと比較してほぼ20%縮小しています。」とデニス・リー氏は認めています。 「企業はオフィススペースの需要を考え直し、ハイブリッドな働き方の要件を満たすために労働力ニーズを再調整しているようです。一方で、さまざまな場所に事業を展開するために設計された特定の地域や施設が開発され、従来の事業拠点が都市部から郊外へシフトしているようです。」

トレンドに逆らう: 柔軟なオフィスソリューション

従来のオフィススペースの需要が減少し続ける一方で、持続的で柔軟な労働環境に対する需要の高まりにより、複合用途オフィススペースやコワーキングスペースといった新しい形態の商業用不動産が誕生しています。シンガポールのタン氏は、「不動産市場の工業用および複合用途オフィススペース部門の利回りは堅調で、賃貸指数は過去24カ月連続で上昇を示しています。」と述べています。具体的には、物流、電子商取引、ハイテク分野を成長させるというシンガポール政府の計画によって推進されています。

日本でも同様に、コワーキングスペースの導入が進んでいるようです。「様々な分野で柔軟な労働環境が必要とされるようになり、その需要に応えるための不動産事業者が急速に増え続けています。」と前川氏は言います。 「従来のオフィススペースとシェアオフィスを含むリモートワークを組み合わせた、ハイブリッドな仕事スタイルが新たな標準になりつつあります。このようなスタイルは、柔軟な作業環境を構築する企業のニーズに合致しています。その結果、商業用不動産の取り巻く環境は、柔軟性とリモートワークの統合という需要の変化に対応できるようになりつつあります。」

需要の急落の影響を受けた多くの商業施設は、より現代的なニーズに合わせて施設を変えていく検討を続けています。オーストラリアでは「高級ではないオフィススペースのオーナーや投資家は、新しいテナントを誘致するための改修に投資するか、または、多額な賃貸優遇措置を講じるか、といった選択肢を検討しています。一方、建物を他の用途に再利用する選択肢を模索している企業もあります(商業施設から住宅への転換等)。」とRSMオーストラリアのアダム・クロウリー氏は述べています。

まとめ

アジア太平洋地域におけるリモートワークやハイブリッドワークへの労働環境の変化は、不動産情勢に大きな影響を与えています。従来のオフィススペースの需要は課題に直面している一方で、柔軟なワークモデルの台頭により、複合用途オフィスやコワーキングスペースなどの革新的なソリューションが生まれています。企業が進化する仕事のモデルに対応する中で、より多くのスペースと柔軟性への要望を反映して、郊外の住宅不動産に向かう傾向が顕著であります。これを受けて、不動産業界は変化し適応性を取り入れ、より柔軟でリモートに適した世の中への需要を満たすために、オフィススペースの従来の概念を再定義しています。

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