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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

この記事の著者

松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

【国際課税Q&A】衛星回線使用料に対する報酬の源泉徴収の要否

2024年2月15日

質問

当社は、国内でコンテンツを制作(又は購入)し、世界各国に配信するため、海外の配信サービス会社にコンテンツ配信を委託しています。配信にあたって日本国外で利用する衛星回線(中継機器)の使用料を配信サービス会社に支払っていますが、当該報酬は日本での源泉徴収所得税の対象になるのでしょうか。

回答

  1. 衛星回線使用料を中継機器(機械装置)の使用料と捉える場合、国内法では「使用地主義」に基づき日本国外で業務の用に使用されている機器であれば、源泉所得税の対象外と判断されますが、租税条約が「債務者主義」を採用する場合には、対価の支払いを行う法人の所在地がある日本での課税となり、源泉所得税の対象となる場合があります。
  2. 衛星回線使用料を役務提供の対価と捉える場合、国内法では国内での役務提供に該当しなければ課税対象外となり、租税条約においても日本における課税対象外と判断されます。

参考にされる考え方

1. 衛星回線使用料に係る契約

海外の配信サービス会社にコンテンツ配信を委託する契約には、配信に必要な衛星回線(中継機器)の使用に関する内容が含まれます。この中継機器の使用に係る対価が日本での源泉所得税の対象になるか否かは、当該使用料が所得税法161条1項各号に規定される「国内源泉所得」のいずれかに該当するか否かよって判断されることとなります。

実際には、契約書の文言や内容を個別具体的に検討し、事実認定する必要があります。

2. 中継機器の使用料に対する考え方

中継機器の使用料に対する考え方については、国内法上の法令等には明確な規定等はないものと思われますので、現在のOECDモデル租税条約(2017年版)コメンタリー12条パラグラフ2に関する9.1における考え方についてここで紹介します。コメンタリーでは、次のように解説されています。


「放送事業者や電気通信事業者は、海外に放送等を送信するために、衛星オペレータを所有する衛星中継装置の容量を使用する中継装置リース契約を締結することがある。

典型的な中継装置リース契約では、対価は衛星中継装置の伝送容量を使用するために支払われる。その際に、衛星オペレーターの衛星技術は放送事業者や電気通信事業者等の顧客に移転されていないので、情報又は秘密工程の使用又は使用する権利の対価とみることはできない。したがって、このような対価は使用料を構成しない。

ただし、産業上、商業上又は学術上の設備(ICS設備)のリースを使用料の定義に含む租税条約では、契約内容により使用料となる場合がある。多くの場合、中継装置のリースという名称を使っているが、借手は、中継装置を物理的に占有できるわけではなく送信容量が割り当てられるだけである。貸手が衛星を運営し、借手は割り当てられている中継装置にアクセスできない。このような場合、支払は、ICS設備の使用又は使用の権利の対価ではなく、第7条が適用されるサービスの対価の性質を持つ。(以下省略) 」


したがって、OECDモデル租税条約においては、中継機器リース契約の対価は基本的には第12条の使用料ではなく、第7条の事業所得が適用されるとしています。

根拠

1. 衛星回線使用料を中継機器の使用料と考える場合

(1) 国内法による判定

所得税法第161条1項11号は、「国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの」と規定し、 「当該業務に係るもの」とは、国内において業務を行う者に対し提供された同号イ、ロ又はハに規定する資産の使用料又は対価で、当該資産のうち国内において行う業務の用に供されている部分に対応するものをいうとしています(所得税基本通達第161-33)。

即ち、国内法においては、いわゆる「使用地主義(資産や権利等が使用された場所を所得源泉地とする考え方)」が採用されているといえます。したがって、「使用地主義」のもとでは、中継機器は日本国外で業務の用に使用されているという観点から、日本での源泉所得税の対象外と判断されます。

(2) 租税条約による判定

国内法と租税条約の源泉規定が異なる場合には、国内法の源泉規定を租税条約上の規定に置き換えて、国内源泉所得を取り扱う(源泉置換規定)ことになります。

日本が締結している租税条約の中には、使用料について源泉徴収が必要な場合に「使用地主義」ではなく、「債務者主義(使用料等を支払う者の居住地を所得源泉地とする考え方)」により源泉地の判定を行う条約もありますので、必ず 配信サービス会社の所在する国との間で締結されている租税条約を確認する必要があります。

「債務者主義」を採用する租税条約が適用される場合には、中継機器の使用地が海外であるにも関わらず、その使用料の対価の支払者、つまり債務者が日本居住者であるため、所得源泉地は日本となり、日本における源泉所得税の対象と判断されます。

なお、この場合には租税条約上の限度税率が定められているため、租税条約に係る届出書を提出することにより、当該限度税率に基づく源泉所得税を徴収することになります。

また、本件の中継機器のような設備の使用料を租税条約上の使用料条項に含める国と、含めない国が存在しているため、この点からも個別の租税条約の検討が必要となります。

2. 衛星回線使用料を役務提供の対価と考える場合

(1) 国内法による判定

衛星回線の使用を、役務の提供に該当すると判断する場合は、一定の人的役務提供事業が国内で行われているときは、源泉徴収対象となる国内源泉所得として扱われます(所得税法161条1項六) 。それゆえ、衛星回線の使用が国外で行われている場合は、国内源泉所得には該当せず、日本における課税対象外と判断されます。

(2) 租税条約による判定

OECDモデル租税条約では、上記の源泉徴収が必要となる 一定の人的役務の提供事業から生じる所得は「事業利得」に含まれ、7条にて記載がなされています。7条(事業利得)においては、非居住者や外国法人の事業所得に対しては、非居住者等が日本に事業拠点(PE)を有し、これを通じて日本において事業を行わない限り、日本では課税されない(PEなければ課税なし)という内容が示されています。

本ケースのように、衛星回線の使用は国外にて行われている場合、租税条約上も日本での課税対象外と判断されます。

国際税務Q&A_衛星回線使用料に対する報酬の源泉徴収の要否 (PDF)

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