【国際課税Q&A】過少資本税制の適用
2024年3月12日
質問
米国法人(親会社)により、各々100%保有される日本法人(当社)とシンガポール法人(兄弟会社)があります。
- 当社がシンガポールの兄弟会社から借入を行った場合、これに係る支払利子は、過少資本税制の対象となるでしょうか。
- 過少資本税制の対象となる場合、損金不算入となる支払利子部分に対しても源泉徴収は必要でしょうか。
回答
- 原則として、兄弟会社も国外支配株主に該当し、負債資本比率が3:1超などの要件を満たす場合は、過少資本税制の対象となります。
- 基本的に源泉徴収は支払う利子全額に課されるため、損金不算入部分も含めた支払利子に対して源泉徴収が必要となります。ただし、租税条約により源泉税率の減免がなされる場合があります。
重要用語
質問及び回答にて言及されている「過少資本税制」という制度は、国際税務における重要な制度の1つであるため、ここで掘り下げて確認したいと思います。
1. 制度趣旨及び概要
企業が海外の関連企業から資金を調達するのに際し、出資(関連企業への配当は損金算入できない)を少なくし、貸付け(関連企業への支払利子は損金算入できる)を多くすれば、日本での税負担を軽減することができます。
過少資本税制は、海外の関連企業との間において、出資に代えて貸付けを多くすることによる租税回避を防止するため、外国親会社等の資本持分の一定倍率(原則として3倍)を超える負債の平均残高に対応する支払利子の損金算入を認めないこととする制度です。
2. 適用要件
以下の2つの要件を満たす場合に、過少資本税制が適用され、国内企業から海外の関連企業への支払利子の損金算入に制限がかかることになります。また要件に出てくる「国外支配株主等」「資金供与者等」についても以下を参照して下さい。
2要件
- (1) 国外支配株主等(*1)及び資金供与者等(*2)に対する平均負債残高 > 国外支配株主等の資本持分×3
- (2) 総負債に係る平均負債残高 >自己資本の額×3
まず、(1)の要件を判定し、該当する場合は(2)の要件にも該当するかの判定を行うことになります。
国外支配株主等(*1)
国外支配株主等とは、非居住者等で内国法人との間に次の関係があるものをいいます(租税特別措置法第66条の第5項1号、租税特別措置法施行令第39条の13第12項)。
- 内国法人の発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有する非居住者等
- 内国法人の発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有する者によって、その発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有される外国法人
- 内国法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係にある非居住者等
よって、①②の持株基準を回避したとしても、③の実質支配基準により借入金の大部分を非居住者等から調達している場合には、国外支配株主等に該当するケースが多いと考えられます。
資金供与者等(*2)
資金供与者等とは、内国法人に資金を供与する者及びその資金の供与に関係のある者をいいます。
3. 損金不算入となる支払利子額
過少資本税制が適用される場合、以下の算定式により支払利子の損金不算入額が算定されます。
<算定式>
支払利子等の額×(国外支配株主等に係る平均負債残高-国外支配株主等の資本持分×3)÷国外支配株主等に係る平均負債残高
根拠
1. 過少資本税制が適用になるか否かの判定
兄弟会社は、上述の「国外支配株主等」の説明における②「内国法人の発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有する者によって、その発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有される外国法人」に該当するものと考えられます。本件では、米国法人(親会社)による日本法人(当社)とシンガポール法人(兄弟会社)保有率が各々100%となっているため、兄弟会社であるシンガポール法人は当社にとって国外支配株主となります。
それゆえ、上述の過少資本税制の適用2要件(負債資本比率が3:1超)を満たす場合には、過少資本税制の対象となります。
2. 損金不算入部分の支払利子に係る源泉徴収
過少資本税制の適用により、日本における支払利子の損金算入が否認されたケースにおいても、海外の関連企業への支払利子の全額に、原則として20.42%の源泉所得税が課されることに変わりはありません。
一方で、租税条約により源泉税率の減免がなされる場合があるため、本件に関しては、シンガポールと日本の租税条約を確認する必要があります。以下租税条約のうち、該当部分を抽出します。
日星租税条約
第11条(利子)
- 一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
- 1の利子に対しては、当該利子が生じた締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該利子の受領者が当該利子の受益者である場合には、当該利子の額の10パーセントを超えないものとする。
- -略-
上記第11条(利子)第2項より、本件の場合は、源泉税率は10%以内に減免されることとなります。