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前川 研吾 Kengo Maekawa

この記事の著者

前川 研吾 Kengo Maekawa

ファウンダー&CEO  / 公認会計士(日本・米国) , 税理士 , 行政書士 , 経営学修士(EMBA)

なぜ今後ESGへの取り組みが必要となるのか:企業における重要性とその影響、背景とは

2024年7月23日

ESGとは

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取ったもので、企業の持続可能な成長を評価するための基準です。ESGは、企業の環境への配慮、社会的な責任、そしてガバナンスの質を評価し、投資家やステークホルダーが企業の長期的な健全性を判断するための指標として使われます。具体的には以下の通りです。

環境(Environment)

企業が気候変動対策や資源管理、廃棄物の削減など、環境保護にどのように取り組んでいるかを評価します。再生可能エネルギーの利用やカーボンフットプリントの削減が重要な要素です。

社会(Social)

労働環境の改善や人権の尊重、地域社会への貢献など、企業が社会に対してどのような影響を与えているかを評価します。多様性やインクルージョンの推進、コミュニティ支援も含まれます。

企業統治(Governance)

企業の透明性やコンプライアンス、取締役会の独立性、経営陣の倫理観など、企業の内部統制や経営の質を評価します。ガバナンスの質は、企業の信頼性や長期的な安定性に直結します。

ESGは、企業が持続可能な成長を実現し、長期的な企業価値を向上させるための重要な枠組みとなっています。投資家は、ESGの各要素を考慮することで、リスク管理や長期的なリターンの最大化を図ろうとしています。

ESGが必要とされる背景

ESGが注目されるようになった背景には、さまざまな要因があります。

第一に、気候変動や環境破壊が深刻化する中で、企業には環境負荷を低減する取り組みが求められています。地球温暖化に対する取り組みは、国際的な規制や協定(例えば、パリ協定)によっても強化されています。

第二に、労働環境の改善や人権尊重、地域社会への貢献が求められています。企業が社会に対して与える影響が注目され、ステークホルダーの期待も高まっています。

さらに、投資家が短期的な利益だけでなく、長期的な持続可能性を重視するようになっていることも背景の一つとして考えられます。ESG評価は、投資判断において重要な要素となっており、ESGファンドの注目も高まっています。

最後に、各国政府や国際機関がESGに関する規制を強化しており、企業に対する透明性と報告義務が拡大しています。これにより、企業はESGに関する情報を公開し、ステークホルダーに対して説明責任を果たす必要性がより一層増しています。

このように「地球温暖化と環境問題」、「社会的責任の増大」、「投資家の意識変化」、「規制の強化」を背景に、ESGが必要とされるようになりました。

企業におけるESGの重要性とその影響

このようにESGが必要とされる中で、企業がESGに取り組むことの重要性はどこにあるのでしょうか。企業におけるESGの重要性は以下の点にあると考えます。

リスク管理

ESGに取り組むことで、環境リスクや社会的リスクを予防し、企業の持続可能性を高めることができます。例えば、気候変動対策を講じることで、災害リスクを軽減し、事業継続性を確保することができます。

ブランド価値の向上

ESGに積極的に取り組む企業は、消費者や投資家からの信頼を得やすくなり、ブランド価値が向上します。消費者は、環境や社会に配慮した製品やサービスを選ぶ傾向が強まっており、企業のESGへの取り組みが競争優位性をもたらします。

コスト削減

エネルギー効率の改善や資源の有効活用により、運営コストを削減することができます。例えば、再生可能エネルギーの導入や省エネ対策は、長期的に見てコスト削減に繋がります。

投資家の評価向上

ESG評価が高い企業は、投資家からの評価が向上し、資金調達が容易になります。ESG投資ファンドの増加により、ESGに積極的に取り組む企業への投資が促進されています。

ESGとSDGsの違い

ESGとよく混同される用語として「SDGs」というものがあります。

SDGsとは、 “Sustainable Development Goals”の略称であり、「持続可能な開発目標」を意味します。ESGとSDGsは、いずれも持続可能な社会を目指す枠組みですが、両者には以下のような違いがあります。

ESGは企業の持続可能な成長を評価する基準で、主に投資家が企業の健全性を判断するために用いられます。一方、SDGsは国連が設定した国際的な目標で、貧困や環境問題など、地球規模の課題を解決するための指針です。

また、ESGが企業の持続可能性を評価するための基準であり主に企業や投資家が対象となるのに対し、SDGs国連が設定した17の目標を達成するための国際的な指針であり政府・企業・NGO・市民社会など幅広いステークホルダーが対象となります。

評価方法に関しても、ESGが環境、社会、ガバナンスの3つの観点から評価されるが、SDGsは17の目標と169のターゲットに基づく多面的な評価が行われます。

日本におけるESGの現状

現在の日本においても、ESGへの取り組みはいくつか見受けられます。

例えば、日本政府はESG投資の促進やサステナビリティに関する規制の強化を進めています。例えば、金融庁は「スチュワードシップ・コード」を導入し、投資家に対してESG要素を考慮した投資判断を求めています。

また、上場している大企業を中心に、ESGレポートの発行やESG戦略の策定が進んでいます。例えば、トヨタ自動車などの大企業は、ESGの取り組みを強化し、持続可能な経営を目指しています。

さらに、日本の機関投資家もESG評価を重視するようになり、ESGファンドの運用が増加しています。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、ESG投資を積極的に推進しています。

課題としては、中小企業の取り組みが大企業と比較して遅れていることや、具体的な実施方法に対する知識や実務慣行が不足していることが挙げられます。

したがって、今後は中小企業へのESGの浸透を図るための支援が求められるでしょう。

ESGへの取り組みの具体的な影響

企業がESGへの取り組むことで様々な影響をもたらします。

環境への影響については、企業が環境への配慮を強化することで、エネルギー効率の向上や温室効果ガスの排出削減が実現します。例えば、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー技術の採用により、環境負荷を低減できます。これにより、企業は気候変動対策に貢献し、環境リスクを低減することが可能です。

また、社会への影響に関しては、 ESGに取り組む企業は労働環境の改善や人権の尊重、地域社会への貢献を重視します。例えば、労働条件の向上や多様性の推進は従業員の満足度を高め、生産性の向上に寄与します。また、地域社会への積極的な貢献活動は、企業の社会的評価を高め、地域との良好な関係構築に繋がります。

加えて、企業統治に関しても影響があります。ガバナンスの強化は、企業の透明性やコンプライアンスの向上に繋がります。例えば、取締役会の独立性を確保し、内部統制を強化することで、企業はより信頼性の高い経営を行うことができます。これにより、企業はリスク管理能力を高め、長期的な安定性を確保できます。

その他にも、ESGに積極的に取り組む企業は、投資家からの評価が高まり資金調達が容易になることで資本コストの低減を実現するなど、各方面で持続可能な成長を実現することが可能になると考えます。

ESGに取り組む企業の事例紹介

以下は、ESGに積極的に取り組む企業の事例になります。

ユニリーバ

環境負荷を低減するための持続可能な製品開発に取り組み、再生可能エネルギーの使用を推進しています。また、ユニリーバは社会的な取り組みとして、女性のエンパワーメントや教育支援活動を行っています。(参考:Unilever

パタゴニア

環境保護活動に積極的に関与し、リサイクル素材の使用を拡大しています。パタゴニアは、製品のライフサイクル全体で環境負荷を低減するための取り組みを行っています。(参考:Patagonia

トヨタ自動車

ハイブリッド車や燃料電池車の開発を通じて、環境に優しい技術を推進しています。トヨタは、2050年までに新車販売におけるCO2排出量をゼロにする目標を掲げています。(参考:Toyota

三菱UFJフィナンシャル・グループ

三菱UFJフィナンシャルグループは、グリーンボンド・サステナビリティボンドと呼ばれる、資金使途がESGを重視したプロジェクトに限定された債券を提供しています。(参考:MUFG

ESGへの取り組み方

ここまでESGの背景や重要性、企業の事例も解説してきましたが、ゼロから企業がESGに取り組んでいくためにはどのようなステップが考えられるでしょうか。企業がESGに取り組むための具体的な方法として以下のようなことが考えられます。

1. 戦略の立案

ESG目標を設定し、戦略を策定します。企業のビジョンやミッションと整合性を持たせることが重要です。

2. 内部体制の整備

ESG推進のための専門チームを設置し、社内教育を行います。従業員の理解と協力を得ることが成功の鍵です。

3. データ収集と分析

環境や社会、ガバナンスに関するデータを収集し、定期的に評価します。データの透明性と信頼性を確保することが重要です。

4. レポートの作成

ESGレポートを作成し、透明性を確保します。レポートは、ステークホルダーに対する説明責任を果たすための重要なツールです。

5. 利害関係者とのコミュニケーション

ステークホルダーとの対話を重視し、フィードバックを取り入れます。持続可能な成長を実現するためには、ステークホルダーの協力が不可欠です。

まとめ

ESGが必要とされる背景には「地球温暖化と環境問題」、「社会的責任の増大」、「投資家の意識変化」、「規制の強化」があり、ESGに取り組むことは企業にとって持続可能な成長を実現するための重要な要素です。

環境、社会、企業統治の3つの観点からの取り組みは、企業にさまざまなメリットをもたらし、現在の日本においてもESGに積極的に取り組んでいる企業は大企業を中心に多く存在しています。ESGは単なる流行ではなく、持続可能な社会を実現するための重要なフレームワークであるため、今後もますますその重要性が増していくでしょう。

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