CDPの情報開示がESG投資家の意思決定に及ぼす影響とその基準とは
2024年11月13日
近年、気候変動や持続可能な社会への関心が高まり、企業の環境対応が投資判断において重要視されています。その中で、CDP(Carbon Disclosure Project)の情報開示は、ESG投資家にとって企業の環境リスク管理や持続可能性を評価するための重要な指標となっています。
本記事では、CDPとは何か、その開示基準や投資家の意思決定にどのような影響を与えるかについて、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
CDPとは
CDPとは、Carbon Disclosure Projectの略称であり、企業や都市が環境リスクにどのように対応しているかを評価する非営利団体を指します。
評価する手順としては、まずCDPが企業に対して質問書を送付し、企業が回答を行います。その回答結果を受けてCDPが企業を評価し、情報開示が行われます。CDPは特に温室効果ガスの排出削減や気候変動への適応、水資源管理、森林保全などに関する情報の提供を求めています。CDPの質問書に回答する企業は、その結果に基づいてスコアリングされ、投資家にとって企業の環境リスクとその管理能力を評価するための基準となります。また、CDPは企業が持続可能な経済を実現するための具体的な行動を促し、その行動の透明性を確保するために重要な役割を果たしています。
CDP情報開示の重要性
CDPの情報開示は、企業が自社の環境への取り組みを透明かつ体系的に示すための重要な手段です。特に、気候変動や環境への配慮がますます重視される現在、企業が環境リスクにどのように対応しているかを示すことは、投資家にとって大きな意味を持ちます。情報開示を通じて、企業は利害関係者に対して責任を果たしていることを示すだけでなく、長期的な持続可能性を確保するための取り組みを可視化します。これにより、投資家や金融機関は企業の将来的な成長性とリスク管理の能力を評価することが可能となります。また、企業が具体的な環境目標を設定し、それに向けた進捗を示すことができれば、信頼性の向上にもつながります。
CDPが開示する主な項目
CDPは企業からの質問書に対する回答結果に基づいて情報開示を行います。この質問書の内容は、気候変動・フォレスト・水セキュリティの3つに大きく区分されています。
気候変動
温室効果ガス(GHG)排出量に関する情報を中心に、Scope 1(自社直接排出)、Scope 2(購入電力等の間接排出)、Scope 3(サプライチェーン全体の間接排出)の各カテゴリで報告が求められます。また、企業の気候変動に対するリスクと機会の認識、排出削減目標、具体的な戦略、管理体制の有無も評価の対象です。
フォレスト
企業がサプライチェーン全体で森林に及ぼす影響や、森林破壊リスクへの対応が求められます。特に、パーム油、木材、牛肉、大豆などの森林伐採に関連する商品についての情報が開示され、企業の森林保護活動やサステナブルな調達方針が重視されます。
水セキュリティ
水資源の利用に関するリスクと管理方針が評価されます。水の利用量や効率化に加え、水ストレス地域での使用状況やリスク管理の詳細が報告され、将来の水供給の不確実性にどう対処しているかが問われます。
これらの情報は、企業が環境リスクにどのように対応し、持続可能な経営を行っているかを示す重要な指標になります。
投資家が重視するCDPスコアの要素
CDPスコアは、企業の環境への取り組みを評価する重要な指標であり、投資家はこれを用いて企業の持続可能性やリスク管理能力を判断します。CDPスコアはA~Fまでの9段階に区分され、企業の回答内容によって格付けが行われています。具体的には以下の通りです。
CPDスコア | レベル | 内容 |
---|---|---|
A | リーダーシップ | リーダーシップを獲得するためには、組織は活用する戦略と実行する行動においてベストプラクティスを実証する必要があります。これらの行動は、環境スチュワードシップを推進するために CDP が協働している機関によって策定されたベストプラクティスを表しており、多くのケースは、既に環境方針や環境活動において主導的な企業によって実施されている内容です。 |
A- | ||
B | マネジメント | マネジメントポイントは、組織が環境課題に与える影響を認識した上で、良好な環境管理に関連する行動の根拠を提供する回答に対して付与されます。マネジメントスコアは、組織が環境への影響を管理しているかどうかを測定しますが、その分野のリーダーとしての地位を確立する行動を組織が行っているかどうかも示します。 |
B- | ||
C | 認識 | 認識スコアは、環境課題が事業とどのように関連するかについての組織の評価の包括性を示しています。認識スコアは、組織が初歩的なスクリーニングや評価を超えて環境課題に対処するための行動を取ったことを示すものではありません。 |
C- | ||
D | 情報開示 | 質問書のほぼ全ての質問は、情報開示の度合いを評価されます(生物多様性とプラスチックに関する質問を除く)。情報開示スコアは、組織の報告の完全性を測定しています。各質問に割り当てられる点数は、要求されたデータ量とデータ利用者にとっての相対的な重要性の両方に依存します。 |
D- | ||
F | 無回答 | 質問書に対して回答を行わなかった。 |
引用:CDP 2024コーポレート完全版質問書 スコアリングイントロダクション
(URL: https://japan.cdp.net/disclosure/companies-discloser)
投資家はこれらをもとに企業の持続可能性とリスク管理能力を総合的に評価し、投資判断を行います。スコアの高い企業は環境問題に対する対応能力が高いとみなされ、長期的な成長が期待されます。
CDPの情報開示が投資家の意思決定に与える影響
ESG投資家は、企業が持続可能な成長を実現できるかどうかを判断するために、CDPの情報開示を重要な指標として活用しています。
企業のCDPスコアは、投資家の意思決定に次のような影響を与える要因となります。まず、企業が高スコアを獲得している場合、その企業は環境リスクへの対応が優れているとみなされ、長期的に持続的なリターンが期待できると判断されます。これにより、投資家はその企業に対する投資に積極的になるでしょう。一方で、スコアが低い企業は、リスク管理が不十分と判断され、投資の対象外とされることもあります。
さらに、投資家はCDPスコアを他のESG評価と組み合わせて活用することも多く、全体的な企業評価の一環として利用しています。このため、企業が持続可能なビジネスモデルを実現し、環境リスクに積極的に対応することが投資家の意思決定に大きな影響を与えると考えられます。
事例の紹介
実際にCDPスコアが高い企業は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。CPDから高く評価を受けている日本企業の事例を紹介します。
【花王株式会社】
花王株式会社は、4年連続でCDPの気候変動(脱炭素)、水セキュリティ、フォレストの3部門においてトリプルAを獲得しています。「2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブ」の目標を掲げ、持続可能な生産活動を推進しています。スペインの工場にバイオマスを活用するプラントを建設し、CO2排出量を削減しています。また、食器用洗剤のボトルの肉厚を薄くし、プラスチック使用量を削減するなど、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減に努めています。
【積水ハウス株式会社】
積水ハウス株式会社は、国内住宅・建設業界で初めてCDPのトリプルAを獲得し、持続可能な住宅の提供に力を入れています。2022年度時点で戸建て住宅の93%をZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化し、2023年以降の分譲マンションもすべてZEH仕様にすることで、住宅の脱炭素化を推進しています。さらに、住宅の庭に生態系に配慮した樹木を植える「5本の樹」計画を実施し、地域の自然環境保護にも寄与しています。
まとめ
CDPの情報開示は、企業が環境リスクにどのように対応しているかを示すための重要な手段であり、ESG投資家の意思決定に影響を与えています。CDPスコアは、企業の持続可能性を評価するための指標であり、投資家はこれを通じて企業の環境への取り組みを判断します。
企業の目線に立って考えてみると、積極的にCDPに参加し高いスコアを獲得することは、持続可能なビジネスを実現するための重要なステップとなり得るかもしれません。環境への取り組みを強化し、CDPを通じて情報開示を行うことで、ESG投資家の支持を得ることができ、長期的な成長を実現する可能性が高まります。
これからもCDPは、企業と投資家の間の重要な橋渡し役を果たし続けるでしょう。