ESG経営におけるサステナブルサプライチェーン構築の重要性と運用方法
2024年11月21日
ESG経営が重要視される中、企業におけるサステナブルサプライチェーンの構築は、持続可能な成長を実現するための不可欠な要素となっています。製品やサービスのライフサイクル全体で環境負荷を軽減し、社会的責任を果たすことが求められる現在、効率的なサプライチェーン運営に加え、その持続可能性の確保がますます重要になっています。
本記事では、サステナブルサプライチェーンとは何か、現状と動向、構築方法、そしてリスクや企業事例を通じて、その重要性と実践方法を解説します。
サステナブルサプライチェーンとは
サステナブルサプライチェーンとは、製品やサービスのライフサイクル全体にわたり、ESG(環境、社会、ガバナンス)を考慮しながら運営されるサプライチェーンを指します。これは、製造、流通、販売に至るすべてのプロセスで持続可能性を追求することを目的としています。
従来のサプライチェーンは効率性やコスト削減を重視していましたが、サステナブルサプライチェーンでは、これに加えて環境への負荷軽減や、労働環境の向上、コミュニティへの影響なども考慮します。サステナブルサプライチェーンは、企業が環境や社会に与える影響を最小限に抑えるための重要な手段となり、企業の社会的責任(CSR)や、持続可能な開発目標(SDGs)達成のための具体的なステップとして位置づけられています。
特に、グローバル化が進み供給網が広範囲にわたる中で、企業がサプライチェーン全体を管理しサステナビリティを実現することは、ビジネス成功の鍵となります。
ESGとサプライチェーンの関係性
ESGとサプライチェーンは密接に関連しています。
環境(Environment)の視点では、製品やサービスが作られる過程での温室効果ガス(GHG)排出や資源消費が問題となり、社会(Social)の視点では、サプライヤーの労働環境や人権問題が焦点となります。また、ガバナンス(Governance)の視点では、サプライチェーン全体の取引や運営において、不正や違法行為が行われないような体制を企業自ら適切に整備できているかどうかが問題となります。
例えば、サプライチェーンの最下層で劣悪な労働条件が存在する場合、その企業は社会的責任を果たしていないと見なされ、ブランドの評判を損なう可能性があります。また、環境に優しい素材を使用していない場合や、サプライチェーン全体のエネルギー使用量が多い場合、環境負荷の高い企業として批判されることがあります。そのため、ESG要素を統合したサプライチェーンの構築は、企業のリスク管理や長期的な競争優位性を確保するために重要と言えるでしょう。
サステナブルサプライチェーンの現状と動向
近年、企業のサステナブルサプライチェーンへの関心が急速に高まっています。特に、消費者や投資家からの圧力が強まり、企業は持続可能性への取り組みを強化せざるを得ない状況にあります。
グローバル企業は、環境負荷を軽減するために、再生可能エネルギーの利用や、リサイクル可能な材料の使用を推進しています。また、労働条件の改善や、地元コミュニティとの協力によって、社会的価値を高めようとしています。
具体的な動向としては、サプライチェーンのデジタル化が進んでいます。デジタル技術を活用することで、サプライチェーンの透明性や追跡性を向上させ、問題の早期発見や対応が可能になります。また、カーボンフットプリントの削減を目指す企業は、サプライヤーに対しても同様の目標を求め、サプライチェーン全体での持続可能な取り組みを推進しています。
サステナブルサプライチェーンの構築方法
サステナブルサプライチェーンを構築するためには、いくつかのステップがあります。
具体的には以下のようなステップが考えられます。
サステナブルサプライチェーンを推進する組織体制の構築
まずは全社横断的にサステナブルサプライチェーンを推進していく必要があります。経営陣はサステナブルサプライチェーンを支援・監督し、ESG関連部門をはじめ関連部署はその役割や責任を整理します。必要に応じて、専門組織や委員会など設置してサステナブルサプライチェーンを推進するような体制を整備します。
目標の設定と共有
企業がサステナブルサプライチェーンに関する目標を設定し、それを外部関係者に共有し、企業の方針を示します。ここでいう外部関係者とは、サプライチェーンの各工程におけるサプライヤーやメーカー、ベンダーなどの企業外部の関係者を指します。
外部関係者の整理
各工程における外部関係者を洗い出し、重要度やリスクによって分類します。その結果を踏まえ、会社はどのような対応が適切かサプライチェーン全体を考慮しながら検討します。
外部関係者の評価
外部関係者に対してアンケートや実地調査を実施し、具体的なリスクを特定します。適切な評価方法を確立し、評価結果のフィードバックが適切に行われているかどうか確認します。
外部関係者とのコミュニケーション
評価結果を踏まえ外部関係者にフィードバックを行い、改善していくことが重要となります。そのためには外部関係者と円滑にコミュニケーションを図り、サプライチェーン全体で協力していくことが求められます。
改善状況のモニタリングと開示
定期的に外部関係者をモニタリングし、改善状況を確認します。また、その活動を統合報告書やサステナビリティレポートなどで開示することも有効です。
サプライチェーンにおけるリスクと課題
サプライチェーンにおいては、さまざまなリスクや課題が存在します。主なリスクとしては、以下のものが挙げられます。
環境リスク
サプライチェーンが長く複雑な場合、エネルギー消費量やGHG排出量が増大しやすくなります。また、気候変動による資源供給の不安定化もリスク要因です。
社会的リスク
労働力の搾取や人権侵害が問題になることがあります。特に、低コストを求めて発展途上国から原材料を調達する場合、倫理的な問題が発生しやすくなります。
サプライチェーンの中断リスク
自然災害や地政学的リスクによって、供給網が中断する可能性があります。例えば、新型コロナウイルスのパンデミックでは、グローバルなサプライチェーンに大きな影響が及びました。
サプライチェーンにおける企業事例
サステナブルサプライチェーンを導入している企業の例として、以下が挙げられます。
【NTTグループ】
NTTグループは、持続可能な社会の実現に向けたサステナブルサプライチェーン構築を推進しています。同社は「調達基本方針」および「サプライチェーンサステナビリティ推進ガイドライン」に基づき、人権保護、環境負荷削減、公正取引など7分野で具体的要請を行い、サプライヤーとの信頼構築に努めています。また、第三者機関によるESG評価や直接対話を通じてリスク管理を強化し、必要に応じて是正措置を求めています。さらに、温室効果ガス削減の取組みを評価する仕組みを導入しています。調達部門スタッフへのESG教育や国際連携も実施し、2022年には国際的な環境分野の非政府組織CDPから最高評価を受けました。
参考:NTTグループHP(https://group.ntt/jp/sustainability/social/supply-chain/)
まとめ
サステナブルサプライチェーンの構築は、企業がESG目標を達成し、社会的責任を果たすための重要な要素です。サプライチェーン全体での持続可能性を追求することで、企業はリスクを抑え、長期的な競争優位性を確保することができます。環境、社会、ガバナンスの観点からサプライチェーンを見直し、持続可能な未来に向けた行動が企業に求められています。