日本における税務申告の全手順:外資系企業の日本法人設立と税務対応のポイント
2025年4月28日
日本の税務申告の基本知識
日本で事業を行う法人が納める主な税金には、法人税(国税)、消費税(国税+地方消費税)および地方税(法人住民税・法人事業税など)があります。
法人税は企業の所得(利益)に対して課される税金で、資本金や所得額に応じて税率が決まります(例えば中小法人は年800万円まで15%、超過部分は23.2%)。
地方税には都道府県や市区町村に支払う法人住民税・法人事業税があり、法人住民税には会社規模に応じた「均等割」(赤字でも支払う定額部分)と法人税額に連動する「法人税割」が含まれます。そのため、たとえ利益が出ていない年度でも一定額の法人住民税の納付義務があります。法人事業税は法人税と同じ所得を課税ベースとする地方税ですが、支払った法人事業税は翌年度以降の経費(損金)に算入できる点が特徴です。
一方、消費税は日本国内で商品・サービスの提供に対して課される間接税です。標準税率は10%(一部軽減税率は8%)で、企業は預かった消費税から支払った消費税を差し引いた差額を納付します。消費税は売上に対して課税されますが、2期前の課税売上高が1,000万円以下などの条件を満たす法人は納税義務が免除される「免税事業者」となります。つまり、新設法人や小規模法人では一定要件下で消費税を納めなくてもよいケースがあります。ただし、免税事業者は仕入れに含まれる消費税の還付を受けられないため、事業計画によっては課税事業者を選択した方が有利な場合もあります。
日本における子会社の法人登録の手順
外国企業が日本で子会社(日本法人)を設立する場合、まず会社形態を選択して法務局で登記を行います。設立登記が完了すると、その法人には国税庁から法人番号(13桁)が指定されます。法人番号は一法人につき一つ割り当てられる識別番号で、税務申告書や法定調書の提出の際に記載が必要になる重要な番号です。
設立後は、この法人番号を用いて税務署や自治体への各種届出を進めます。法人番号は国税庁のウェブサイト上で公表されており、誰でも確認できる公開情報になります。設立後に必要な税務手続として、まず所轄税務署に法人設立届出書を提出します。これは設立登記日から原則2ヶ月以内に提出し、定款や登記事項証明書の写しなどの添付が求められます。
同時に、税務上のメリットを享受するために青色申告の承認申請書も提出するのが一般的です。青色申告の承認を受けることで欠損金の繰越控除(赤字の繰越控除)などの特典が得られるため、新設法人であっても設立から最初の事業年度開始日以降3ヶ月以内(または最初の事業年度終了日の前日まで、早い方)に申請します。
また、日本で従業員に給与支払いを開始する場合には、給与支払事務所等の開設届出書を1ヶ月以内に税務署へ提出し、源泉徴収税の納付方法(例えば納期の特例適用など)についても手続きを行います。
これらの手続きは税務署への届出が中心ですが、地方税(法人住民税・事業税)のために都道府県税事務所や市区町村役所にも法人設立届出書(地方税用)を提出する必要があります。設立直後の各種届出を漏れなく行い、税務当局から発行される書類(納税用の書類や電子申告用のID/PWなど)が確実に受け取れるようにしておきましょう。
日本での税務申告プロセスの確立法
日本法人設立後は、速やかに社内の会計・税務申告プロセスを構築することが重要です。まず日々の取引を正確に記録するために、適切な会計システムの導入を検討します。近年はクラウド会計ソフトなども普及しており、専門知識がなくても設定・運用しやすいものがあります。また、会社として青色申告の承認を受けている場合は、正規の簿記(複式簿記)に従った記帳と帳簿書類の保存が義務づけられます。
日本の税法では、青色申告法人は適切な会計帳簿を備え付け、7年間保存しなければなりません。この保存には紙の帳簿だけでなく電磁的記録も含まれ、基本的には日本国内の事務所で管理することが求められます。特に税務調査に備えて、請求書・領収書などの証憑も含め一定期間(原則7年、場合によっては10年)の保管義務があります。
税務申告までの基本的なフローは以下の通りです。
- 日々の記帳
- 期末の決算(帳簿締切と決算書類の作成)
- 税額計算・申告書類の作成
- 申告書の提出・納税
まず決算期末に貸借対照表や損益計算書などの決算書を作成し、そこから法人税等の課税所得や税額を計算します。税額計算については減価償却費や引当金等、税法上調整が必要な項目があれば別表で加算・減算し、最終的な課税所得を算出します。法人税の申告書類一式とともに、税務署には決算書類一式も提出(または電子申告で送信)します。その後、確定申告期限までに確定した税額を納付します。
なお、法人税や消費税には中間申告・中間納付の制度もあり、前年度の税額が一定額を超える場合は事業年度の中間時点でも予定納税が必要です。また、毎月発生する源泉所得税や社会保険料なども含め、年間の税務カレンダーを作成して期限管理を徹底すると良いでしょう。
社内で対応が難しい場合には会計事務所に記帳代行や申告書作成を委託し、ダブルチェック体制を整えることも検討すべきです。
提出期限を守るポイント
日本の税務申告では提出期限の遵守が非常に重要です。法人税および地方法人税、法人住民税・事業税の確定申告書の提出期限は、原則として事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内と定められています。
消費税の確定申告期限も法人の場合、事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内となります。そのため、消費税についても法人税と同じタイミングで申告・納税するのが基本です。なお、事業規模により中間申告・納付の頻度が異なります。
いずれにせよ、本社の決算スケジュールやグループ全体の連結決算日程も考慮し、日本法人単体の税務カレンダーを作成して各税目の締切日を管理することが重要です。特に初年度は決算日から申告期限までの時間が限られるため、前もって必要データの収集や税理士との打ち合わせを行い、計画的に進めることが求められます。
必要書類の準備方法
日本の税務申告では、多くの書類や添付資料の準備が必要です。法人税の確定申告に必要な書類としては、まず法人税申告書および地方法人税申告書(別表一式)があり、税額計算の本表や各種別表を含む書類セットです。これらは、所得金額の計算過程や各種税額控除・加算調整項目を示すために用いられます。
次に、決算書類一式(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書など)や、勘定科目内訳明細書が必要です。勘定科目内訳明細書は、決算書の各科目の内訳を詳細に記載するもので、例えば「預金」「借入金」「売掛金」など主要科目ごとに、その内容や相手先、金額の内訳を一覧にしたものとなります。
さらに、法人事業概況説明書も作成し、会社の事業内容、従業員数、主要な科目の金額などを報告することが求められます。
消費税の申告に必要な書類は、採用する課税方式によって異なります。一般に、本則課税(原則課税)を採用している場合は「消費税及び地方消費税確定申告書(一般用)」と、その計算明細である「付表1:税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表」と「付表2:課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」を提出します。
消費税申告書は法人税とは別に作成し、税務署に提出します。また、消費税の計算根拠となる課税売上高計算表や課税仕入高計算表などの内部資料も作成しておくと、申告書の数字との整合性確認に役立ちます。
地方税の申告書類については、自治体ごとに形式が異なりますが、概ね法人税の確定申告と同じタイミングで提出されます。東京23区の場合は、法人住民税・法人事業税・地方法人特別税をまとめた統一様式(第6号様式など)が用意されているため、そちらを使うのが一般的です。
書類作成にあたっては、漏れなく正確に記載することが求められ、可能であれば税務申告ソフトや税理士のチェックを活用し、必要書類がすべて揃っているかを提出前に確認することが望ましいでしょう。
外資系企業特有の注意点
日本で子会社を運営する際には、外国親会社との取引に伴う税務上の留意点も存在します。まず、親子会社間での商品・サービスの提供、貸付金、ロイヤルティの設定などに際しては、移転価格税制に注意する必要があります。移転価格税制は、多国籍企業がグループ内で取引を行う際に、その取引価格を「独立企業間価格」と同等であるかのように適正に設定することを求める税制です。親会社と子会社の間の取引は、独立企業間価格で設定しなければならず、不適切な価格設定が認められた場合は、税務当局により課税所得が強制的に調整され、追徴課税を受けるリスクがあります。特に、グループ内での原材料や製品の売買、経営指導料などの取引においては、事前に価格設定の妥当性を検証し、英文契約書や価格算定根拠の文書を準備することが重要です。
また、一定規模以上の多国籍企業グループに対しては、移転価格文書化が義務付けられているため、該当する場合は適切な対応が求められます。さらに、外国親会社と日本子会社の関係では、恒久的施設(Permanent Establishment, PE)のリスクについても注意が必要です。通常、外国法人は日本にPE(支店などの事業拠点)がなければ、日本で法人税を課されません。しかし、実質的な営業拠点があると判断される場合は、親会社が日本での課税対象となるリスクがあります。
日本の専門家の活用と連携方法
日本の税務制度や実務に不慣れな場合は、税理士や公認会計士などの専門家の活用が非常に有効です。日本の税理士は税務代理の資格を持ち、法人に代わって税務申告書の作成・提出、税務署との交渉を行うことができます。
特に国際税務分野は法律の規定が非常に複雑であり、二重課税の防止策など、専門知識が要求されるため、経営者やCFOが一から対応するのは困難です。専門家に依頼することで、申告ミスの防止だけでなく、各種税制優遇策の最適な活用が可能となります。
専門家の活用により、税務調査への対応や最新の法改正情報の入手が容易になり、電子帳簿保存法やインボイス制度などの改正にも迅速に対応できるため、日々の業務に集中することができます。
まとめ
日本で外資系企業の日本法人を運営し、適切な税務申告を行うためには、計画的な準備と専門知識の活用が不可欠です。法人設立時には必要な届出を期限内に行い、法人番号の取得や税務署への各種届出を確実に実施することが基本となります。
税務コンプライアンスを徹底するためには、信頼できる日本の税務専門家との連携が大きな助けとなります。専門家のサポートを受けることで、煩雑な手続きや法改正への対応が容易になり、正確な申告と節税対策が実現できます。日本市場でのビジネスを成功させるための土台として、事前の準備と計画、そして専門家との連携を密に行い、事業運営に専念できる体制を整えてみてはいかがでしょうか。