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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A】現金対価のみで行う非適格合併における税務上の取扱い

2025年5月16日

質問

A社がB社を吸収合併しました。合併の対価は現金10百万円のみであり、A社株式の交付はありません。この合併における、A社、B社、B社株主それぞれの税務上の取扱いについて教えてください。

<合併に関する詳細>

  • 合併形態:支配関係のない法人間の吸収合併(共同事業要件等も満たさない非適格合併
  • 存続会社:A社
  • 消滅会社:B社
  • B社の純資産:資本金10百万円のみ
  • B社の資産内容:B社からB社株主への貸付金10百万円(帳簿価額=時価)のみ
    ※合併直前のB/Sは、資産(貸付金)10百万円、負債なし、資本金10百万円
  • 合併対価:現金10百万円のみの支払

回答

本件は非適格合併に該当し、

  • A社は、B社の資産である貸付金を時価10百万円で取得することになります。
  • B社は、貸付金10百万円を時価評価でA社に移転することになり、帳簿価額と時価が同額であるため、譲渡損益は発生しません。また、合併対価(現金10百万円)は、株主への資本払戻しに充てられます。
  • B社株主は、株式取得価額と同額の現金を受領することになり、みなし配当も譲渡益も発生しません。

非適格合併の概要

回答で言及されている「非適格合併」について説明します。

組織再編税制における適格・非適格の区分

企業組織再編(合併・会社分割・株式交換・株式移転等)においては、一定の税制適格要件を満たすかどうかによって、「適格組織再編」と「非適格組織再編」に分類されます。この区分により、再編時における資産・負債の移転に伴う課税の繰延べの可否が決定されます。

非適格合併となる場合

非適格合併と判断されるのは、法人税法上の「適格合併の要件を一つでも満たさない場合です。主な判断基準は以下の通りです。

  • 合併対価が株式のみでなく、現金やその他の資産が交付される場合(端株の整理や配当等、例外を除く。)
  • 合併後に被合併法人の主要事業が継続されない場合、または被合併法人の従業員の80%以上が合併法人で引き続き従事する見込みがない場合。
  • 合併法人と被合併法人の間に、完全支配関係(100%)や支配関係(50%超)がない場合、またはその支配関係が合併前後で継続しない場合。
  • 共同事業型合併の場合、主要事業の関連性や役員・従業員の引継ぎなどの追加要件を満たさない場合。

このような適格要件(支配関係、事業継続、合併対価要件など)を一つでも満たさない場合、その合併は非適格合併とされます。非適格合併は、税務上は通常の資産譲渡・配当・株式譲渡と同様に課税が生じることとなります。

非適格合併の当事者別の税務上の取扱い

  • 合併法人:被合併法人から取得した資産・負債を時価で取得したものとされます。
  • 被合併法人:資産・負債を時価で譲渡したものとみなされ、譲渡損益が認識されます(法人税法62条)。
  • 被合併法人の株主:受領する合併対価が株式取得価額を超える場合、その超過額についてみなし配当又は譲渡益の課税関係が生じる可能性があります。

株主課税のパターン

本件においては、合併対価・被合併法人の純資産(資本金等)・被合併法人株式の取得価額が全て同額であり、被合併法人の株主に課税関係は発生していません。

しかし例えば、合併対価の金額を12百万円、B社の資本金等を10百万円、B社株式の取得価額を8百万円とした場合には、株主に以下のような課税関係が生じます:

  1. みなし配当

    合併対価12百万円と資本金等10百万円の差額2百万円は、株主にとっては利益の分配であるとみなされるため、みなし配当に該当し課税が発生します。

  2. 株式譲渡益

    合併対価12百万円から上記みなし配当額2百万円を差し引いた10百万円は、B社株式の譲渡対価となります。B社株式の取得価額は8百万円であるため、差額の2百万円は株式譲渡益となり、課税の対象となります。

上記の通り、非適格合併により被合併法人の株主は課税を受けるケースもあるため、株主が保有する被合併法人株式の取得価額、合併により株主が取得する対価の金額及び被合併法人の合併直前の資本金等について注意深く確認し、税務上の影響額を事前に検討することが重要です。

質問に対する判断

本件は「非適格合併」に該当し、A社、B社及びB社株主のそれぞれにおける税務上の取扱い(課税関係・税務仕訳)について、以下の通り考察します。

1. 合併法人A社の処理

合併法人は、被合併法人から承継した資産及び負債を、譲渡があったものとみなして、譲渡時の時価で取得したものとされます(法人税法第62条)。本件では、B社が保有する資産は貸付金10百万円のみであり、A社はその取得に対して同額の現金を交付しています。よって、税務上の仕訳は以下のとおりです:

(貸付金)10百万円/(現金)10百万円

2. 被合併法人B社の処理

  1. 非適格合併により、被合併法人は資産を合併法人へ時価で譲渡したものとされ、譲渡損益が認識されます(法人税法第62条)。本件では、資産(貸付金)の帳簿価額と時価がともに10百万円であるため、譲渡損益は発生しません。税務上の仕訳は以下のとおりです:

    (現金)10百万円/(貸付金)10百万円

  2. 非適格合併において被合併法人が受け取った合併対価は、直ちに株主へ交付されるものとされます(法人税法第62条)。本件では、合併対価が現金のみであるため、以下の仕訳が考えられます:

    (資本金等)10百万円/(現金)10百万円

3. B社株主の処理

B社株主は、合併対価として金銭の交付を受けており、株主に対する資本の払戻しに該当します。法人株主等がその法人から資本の払戻しにより金銭の交付を受けた場合、その金額は有価証券の譲渡等として取り扱われます(租税特別措置法第37条の10第3項第4号)。本件では、B社株式の取得価額と払戻金が同額であるため、みなし配当も譲渡損益も発生しません。税務上の仕訳は以下のとおりです:

(現金)10百万円/(B社株式)10百万円

4. 実務上の留意点

合併後、B社株主はA社に対する債務者の立場となります。合併前はB社に対して債務を負っていたところ、合併により債権者がA社に変更されることになります。

なお、本件では貸付金が帳簿価額=時価であることが前提ですが、仮に回収可能性に問題がある場合は、その評価額(時価)が簿価を下回る可能性があり、その場合には譲渡損益が発生することになります。

また、被合併法人(B社)に繰越欠損金や含み損のある資産が存在していた場合であっても、非適格合併では原則として合併法人への引継ぎは認められません。そのため、税務上の繰越欠損金等の活用は基本的にできない点にも留意が必要です。

このように、非適格組織再編においては、資産・負債の時価評価や株主の課税関係を含めて、各当事者の税務対応を事前に慎重に検討することが重要です。

国内税務Q&A_現金対価のみで行う非適格合併における税務上の取扱い

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