外資系企業のための日本会計システム導入ガイド
2025年5月16日
日本で求められる会計対応
日本法人を運営するには、日本独自の会計基準や税制への対応が不可欠です。日本法人では親会社が採用する会計基準と日本基準の差異(GAAP差異)を理解し、必要に応じ期末に帳簿を日本基準へ組み替える作業も発生します。また、日本の税務申告や法定開示は基本的に日本語で行われ、日本の法人税法や会社法に準拠する必要があります。たとえ親会社がUS GAAPやIFRSで連結決算をしていても、日本子会社としては決算書や税務申告書類を日本の形式で提出しなければなりません。
さらに、日本には消費税があり、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が2023年から開始されるなど、請求書の様式や保存方法にも独自の要件があります。
要約すると、外資系企業であっても日本法人は日本の会計・税務ルールに従う必要があるということです。親会社が採用する会計基準との違いを認識し、日本基準に調整する決算体制が求められます。
日本の電子帳簿保存法の概要
電子帳簿保存法は、税金に関連する帳簿書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律です。電子帳簿保存法で定める保存対象は大きく3つに分類されます。
- 電子帳簿等保存:自社のPCや会計ソフトで電子的に作成した帳簿・決算書類のデータ保存(任意)
- スキャナ保存:紙で受領・発行した書類をスキャンして画像データで保存(任意)
- 電子取引保存:電子的に授受した請求書・領収書などのデータ保存(義務)
このうち、「電子帳簿保存」と「スキャナ保存」は任意適用とされ「電子取引保存」は義務となります。保存期間は原則7年間(場合により10年)とされ、税務調査の際には電子データでの提示が必要です。電子保存では、記録の「真実性」と「可視性」を確保するため、以下の要件を満たす必要があります。
【電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等を行う場合の要件の概要】
- 電子計算機処理システムの概要の書類備付け
- 見読可能装置の備付け
- 検索機能の確保
- 訂正削除に関する措置
次のいずれかの措置を講じる必要があります。- タイムスタンプが付された後の授受
- 授受後遅滞なくタイムスタンプを付す
- データの訂正削除を行った場合に、その記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用
- 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け
(参考:国税庁|電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】Ⅱ 適用要件【基本的事項】
[https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/02.htm#a009])
これらの要件により、電子取引の記録が改ざんされることなく、必要な時に誰でも確認・検索できる状態を維持することが求められています。規模を問わず全ての事業者が対応義務を負う法律であるため、日本でビジネスをする以上、電子帳簿保存法への順守は避けて通れません。
IoT対応が必須な理由(電子帳簿保存法・効率化・データ連携)
日本で会計業務を円滑に行うには、「IoT対応」つまりデジタル技術の活用が必須です。これは電子帳簿保存法への対応、業務効率化、さらには社内外システムとのデータ連携という観点から説明できます。
まず電子帳簿保存法への対応のため、紙の書類をデジタル化する手段が必要です。例えば紙の領収書や請求書は、スキャナやスマートフォンで撮影しOCR読み取りすることでデータ化・保存する運用が一般的です。こうした機器やシステムは広い意味でIoT(モノのインターネット)の一部と言えます。領収書画像にタイムスタンプを付与し、会計ソフト上で修正・削除履歴を自動記録するには、対応ソフトやクラウドサービスの導入が不可欠です。
次に業務効率化の面でも、IoT活用は大きなメリットをもたらします。従来、紙の書類をファイリングして保管庫から探し出す作業には多大な時間を要していましたが、電子データ化すれば数秒で検索・閲覧が可能です。また、書類の紛失リスクや保管スペースの問題も解消します。承認プロセスも電子ワークフロー化することでテレワーク下でも滞りなく進められ、働き方改革にも寄与します。
さらにデータ連携の観点からも、現代の会計システムには他のシステムとの自動接続が求められます。例えば銀行口座やクレジットカードの明細を自動取得して仕訳に反映したり、販売管理システム・ECサイトから売上データを取り込んだりする機能です。クラウド会計ソフトの多くはこれらの外部サービスとAPI連携しており、手入力を減らす自動仕訳を実現しています。
日本における会社設立時の初期導入の課題と選択肢
外資系企業が日本に子会社を設立する際、経理システム初期導入には言語・操作性のギャップや本社ERPとの統一性、さらにはコスト面での課題があります。英語向けシステムは現地スタッフに馴染みにくく、日本製ソフトは外国人CFO向けの使い勝手に欠ける場合があるため、多言語対応や使いやすさの工夫が必要です。
また、本社ERPは大規模でオーバースペックとなることが多く、クラウド会計ソフトのような低コスト・短期間での導入が有利とされます。さらに、アウトソーシングや勘定科目の調整など、初期段階での柔軟な運用方法を検討することが求められ、各選択肢は本社連携や将来の拡張性も踏まえて最適なバランスを見極める必要があります。
オラクルやSAP、Xeroが不向きな理由
海外製ERPであるOracleやSAP、Xeroは高機能な反面、導入・運用が複雑で専門知識や高額なコンサル費用が必要なため、小規模な日本子会社には過剰な負担となります。日本独自の業務(消費税管理や法定調書作成)への対応や、英語ベースの画面表示による操作性の課題もあり、現場での適応が困難な場合があります。
また、日本特有の法制度(消費税、電子帳簿保存法など)への対応について、日本の会計ソフトの方が適時に行われるため、海外製品の導入メリットが少なく、結果として日本の会計ソフトが選ばれる傾向にあります。
日本独自の会計システムの紹介(勘定奉行、PCA会計など)
日本には、古くから多くの企業に利用されてきた独自の会計ソフトウェアが存在します。代表的なものとして、勘定奉行(OBC社)、PCA会計(PCA社)、弥生会計(弥生株式会社)などが挙げられます。これらのソフトは、日本の商習慣や税制に合わせた設計となっており、国内で高いシェアを誇ります。それぞれの特徴は以下の通りです。
【勘定奉行】
中堅中小企業向けの定番会計ソフトです。操作画面や帳票レイアウトが日本の経理担当者にとって馴染みやすく、販売管理や給与ソフト(商奉行・給料奉行)との連携もスムーズです。近年はクラウド版「勘定奉行クラウド」も提供しており、最新の電子帳簿保存法にも対応しています。
さらに、Global Editionという英語対応のクラウド版も用意され、メニュー表示を英語化できるため、外資系企業でも利用しやすくなっています。国内での導入実績が豊富なため、税理士や会計士のサポートも受けやすい点が魅力です。
【PCA会計】
勘定奉行と並ぶ老舗の会計ソフトです。複数部門やプロジェクト別の管理など、高度な会計処理に対応可能なインストール版とクラウド版が提供されています。毎年の税制改正や法対応のアップデートが行われ、安心して使い続けられる設計です。
UIは伝統的な日本の会計ソフトに近く、簿記の知識があるユーザーには使いやすい一方、全自動化よりも手入力を許容する設計となっています。
【弥生会計】
中小企業・個人事業主向けに圧倒的な知名度を持つ会計ソフトです。デスクトップ版が長年支持され、直感的なインターフェースにより、簿記に不慣れな経理担当者でも扱いやすいと評価されています。
近年は「弥生会計オンライン」というクラウド版も登場しました。ただし、英語画面には対応しておらず、外資系企業で使用する場合は日本人スタッフ主体での運用になるケースが多いです。
freeeとマネーフォワードの特徴
近年、日本のクラウド会計市場ではfreeeとマネーフォワードが主導的な存在となっています。両社は、銀行明細の自動取得、領収書のOCR処理、他のクラウドサービスとの連携など先進的な機能を備え、バックオフィス業務全体の効率化を実現しています。
会計知識が不要な作業については、自動化・簡略化に重点を置いており、経費精算の入力から自動仕訳が生成されるため、操作の手間が大幅に軽減されます。反対に会計知識が必要な場面では、簿記知識のあるユーザーが直感的に入力できるUIも魅力的です。
さらに、両社とも月額プラン制を採用し、サーバー費用やバージョンアップ費用が不要なため、導入コストが低く、常に最新の法改正(電子帳簿保存法やインボイス制度など)に対応できる安心感があります。
現状はマネーフォワードのみが英語表示可能で提供されているため、外資系企業がfreeeを利用する場合は、日常の操作を日本人スタッフが担当し、CSVエクスポートやカスタマイズ機能を活用して海外本社への報告資料を作成するなど、運用面で工夫が必要となります。
まとめ
外資系企業のCFOや経理責任者は、日本独自の会計・税務要件(日本会計基準、消費税対応、電子帳簿保存法など)を正確に把握し、これらに対応可能なシステムを選定することが必須です。導入の容易さやコスト面、さらに本社とのデータ連携手段(CSV出力やAPI連携等)も重要な判断材料です。
勘定奉行・PCA会計・弥生会計などの伝統的なシステムや、freee・マネーフォワードといったクラウド型会計ソフトにはそれぞれの強みがあり、自社の規模や運用体制、ITリテラシーに応じた選択が求められます。最終的に、適切なシステム導入は法令遵守や業務効率化、グローバル基準との連携を実現し、現地ビジネスの基盤強化に直結するでしょう。