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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A​】学校法人の施設貸出収入の税務上の取扱い

2025年7月18日

質問

私は学校法人を運営しています。校舎・教室等の施設を、学校休校中にテレビドラマの撮影場所として数日間貸し出し、今年度に100万円以上の収入がありました。

当法人は公益法人であり、収益事業に係る部分以外は法人税が課されないと理解していますが、この収入は課税対象となるのでしょうか。

回答

今回の施設貸出収入は、法人税法上の「収益事業」に該当せず、法人税は課税されないと判断されます。

公益法人の税制概要と学校法人への適用

1. 学校法人の法的位置づけ

学校法人は、法人税法第2条第6号及び別表第2に規定される「公益法人等」に該当します。これは公益社団法人・公益財団法人と並ぶ非営利法人であり、教育という社会的に重要な公益目的を担う法人として、税制上も特別な配慮が講じられています。

2. 公益法人等への課税

公益法人等に対しては、法人税法第4条第1項により、「収益事業から生じた所得」に限って法人税が課税されます。この「収益事業」は、法人税法第2条第13号及び法人税法施行令第5条第1項で定められた「34業種」に該当し、且つ「継続して」「事業場を設けて」行われる場合に限定されます。

代表的な収益事業には、以下のようなものがあります。

  • 不動産貸付業(例:空き教室の反復貸出)
  • 席貸業(例:有償の会議室運営)
  • 物品販売業(例:常設売店の運営)
  • 印刷業(例:有償での資料印刷提供)
  • 技芸教授業(例:一般向け有料カルチャー教室)

これらに該当する場合でも、臨時的・一時的な活動であり、事業場を設けていない場合は、収益事業には該当しません。

3. 公益目的事業としての非課税措置

「収益事業」に該当する場合であっても、その内容が社会全体の利益に資するものであると認められる場合には、「公益目的事業」として収益事業に含まれず、非課税となる場合があります(法人税法施行令第5条第2項第1号)。

また、次のものは、収益事業から除かれています。

  • 出版業から除かれるものとして、「学術、慈善その他公益を目的とする法人がその目的を達成するため会報を専らその会員に配布するために行うもの」(法人税法施行令第5条第1項第12号)
  • 貸席業から除かれるものとして、「私立学校法第三条に規定する学校法人若しくは同法第百五十二条第五項(私立専修学校等)の規定により設立された法人がその主たる目的とする業務に関連して行う席貸業」(法人税法施行令第5条第1項第14号)

4. 公益法人のその他の税制上の優遇措置

みなし寄附金制度の活用

収益事業利益のうち、公益目的事業に充当した支出を一定限度まで損金算入できます。実質的に課税所得を減らす効果があります。

金融収益の非課税

利子や配当等について、所定の条件を満たす場合には源泉徴収の対象とならず、非課税扱いとなります。

寄附者側の税制優遇

法人の場合は損金算入限度額の拡大、個人の場合は所得控除又は税額控除が認められるなど、寄附行為に対して税制上の支援がなされています。

5. 一般法人との違い

  • 一般法人(普通法人)は、収益事業・非収益事業を問わず全ての所得が法人税の課税対象となりますが、公益法人等は収益事業から生じた所得に限り課税対象となり、公益目的事業・教育事業などについては非課税となります。
  • 公益法人等には、寄附金控除、みなし寄附金制度、金融収益の非課税など、税制上の優遇措置が設けられていますが、一般法人には原則としてこうした優遇措置はありません。

質問に対する判断

本件において、校舎等をテレビドラマの撮影場所として貸し出した件については、次のように判断されます。

  • 該当施設は、通常は教育目的に使用されており、当該貸出は学校の休校日を利用した一時的な行為に過ぎません。
  • 法人税法施行令第5条に定める34業種における「不動産貸付業」や「席貸業」に形式上近似する可能性はあるものの、継続して事業場を設けて行っているわけではないため、収益事業には該当しないと考えられます。

以上より、本件収入は法人税法上の収益事業に該当せず、法人税の納税義務は生じないと判断されます。

なお、今後こうした施設貸出を反復継続的に行い、年間契約や外部向けの募集・案内、専用の管理体制や収支管理が整備されるなど、独立した事業性が認められるような形態となった場合には、収益事業への該当性が生じる可能性があるため、継続的に実態に応じた判断が必要となります。

【参考】法人税法施行令第5条第1項に定める34業種

本文で記載の通り、法人税法施行令第5条第1項では、公益法人等に対する「収益事業」として課税対象となる34の業種が定められています。これらは「特掲34業種」とも呼ばれ、以下の通りです。

① 物品販売業⑱ 代理業
② 不動産販売業⑲ 仲立業
③ 金銭貸付業⑳ 問屋業
④ 物品貸付業㉑ 鉱業
⑤ 不動産貸付業㉒ 土石採取業
⑥ 製造業㉓ 浴場業
⑦ 通信業㉔ 理容業
⑧ 運送業㉕ 美容業
⑨ 倉庫業㉖ 興行業
⑩ 請負業㉗ 遊技所業
⑪ 印刷業㉘ 遊覧所業
⑫ 出版業㉙ 医療保健業
⑬ 写真業㉚ 技芸教授業
⑭ 席貸業㉛ 駐車場業
⑮ 旅館業㉜ 信用保証業
⑯ 料理店業その他の飲食店業㉝ 無体財産権の提供等を行う事業
⑰ 周旋業㉞ 労働者派遣業

これらの業種に該当する事業を継続して事業場を設けて行う場合、公益法人等であっても法人税の課税対象となります。

国内税務Q&A_学校法人の施設貸出収入の税務上の取扱い

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