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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A​】学校法人の収益事業用不動産の売却益の税務上の取扱い​

2025年8月15日

質問

私は学校法人を運営しています。当法人では、学校運営とは別にマンションの賃貸業を行っており、当該事業については収益事業として法人税の申告を行っています。このたび、10年以上所有していたマンションの一室を売却することになりました。この売却により生じた譲渡所得についても、収益事業の所得として法人税の課税対象となるのでしょうか。

回答

マンション賃貸業が収益事業に該当することから、原則としてその用途に供していたマンションの一室の売却益も、収益事業の所得として法人税の課税対象となります。ただし、当該資産が「相当期間(おおむね10年以上)」保有されていた固定資産である場合には、法人税基本通達に基づき、課税対象外とすることが可能です。

制度趣旨と背景

学校法人等の法人税課税の原則

学校法人や公益法人は、公益目的事業から生じる所得には法人税が課されず、収益事業(政令で定める34業種、【税務Q&A】学校法人の施設貸出収入の税務上の取扱い参照)から生じる所得のみが課税対象となります。不動産貸付業はこの収益事業(法人税法施行令第5条第1項第5号)に該当します。

売却益の課税関係

収益事業に供していた不動産の売却益は、原則として収益事業の所得に含めて法人税の課税対象となりますが、長期保有資産の一時的な処分については、公益性や資産形成の経緯を考慮し、課税の柔軟な取扱いが認められています。

関係通達と解説

公益法人等が「収益事業」に供していた固定資産を処分した場合の課税関係は、主に「法人税基本通達15-2-10」及び「15-1-12」に基づき判断されます。

法人税基本通達15-2-10(固定資産全般)

公益法人等が収益事業に供していた固定資産(土地・建物等)を処分した場合の法人税上の取扱いを定めた通達です。

原則

収益事業に供していた固定資産(土地・建物等)の売却損益は、収益事業の損益に含め、法人税の課税対象と なります。

例外

以下のいずれかに該当する場合は、売却損益を収益事業の損益に含めないことができます。

  1. 相当期間(おおむね10年以上)保有していた固定資産(土地・建物等)の譲渡・除却等による損益
  2. 収益事業の全部又は一部を廃止し、その事業に使用していた固定資産の譲渡・除却等による損益

実務上の留意点

この通達により、長期保有資産の一時的な処分については、収益事業に係る損益に含めず、非課税とする柔軟な対応が認められています。また、この特例は「適用できる」規定であるため、損失が発生した場合には、あえて収益事業の損益に含めて課税所得を圧縮することも可能です。

法人税基本通達15-1-12(土地譲渡と「不動産販売業」該当性)

原則

土地に集合住宅を建設したり、区画整理等の開発を行って分譲する場合は「不動産販売業」とみなされ、収益事業として法人税の課税対象となります。

例外

以下の両方を満たす場合には、「不動産販売業」には該当せず、キャピタル・ゲイン部分は課税対象外となります。ただし、造成等で生じた付加価値部分の利益は課税対象となります。

  1. 土地を相当期間(10年以上)固定資産として保有していたこと
  2. 建築・造成等が譲渡を容易にする目的で行われたにすぎないこと

補足:キャピタル・ゲインと付加価値益の区分

公益法人等が長期保有していた土地を売却する場合、その利益のうち、地価上昇など単なる資産価値の増加分についてはキャピタル・ゲインと考え、法人税の課税対象外とされます。

一方、造成や建築によって新たに付加された価値部分については、付加価値益と考え、収益事業の所得として課税対象とされます。

例えば、造成前の時価で売却した場合の利益相当額がキャピタル・ゲイン、造成等によって得られた追加利益が付加価値益とされます。建物を建設して分譲した場合の建物部分の利益は、全額が「不動産販売業」として課税対象となります。

借地権を設定して権利金を受け取った場合は、その権利金が更地時価の2分の1以上であれば、土地の一部譲渡とみなされ、キャピタル・ゲインとして非課税扱いとなることがありますが、2分の1未満の権利金しか受け取っていない場合は、不動産貸付業による収益事業とされ、課税対象になります。

実務上のポイント

  • 10年以上保有」の要件:適用要件としての「相当期間」とは、一般的に10年以上とされます。保有期間の確認は必須です。
  • 複数資産売却時の一括適用:同一年度に複数の固定資産を売却した場合は、全ての損益について一括適用が必要です。売却益が出る資産だけを選んで適用することはできません。
  • 付加価値部分の分離計算:土地の造成や建物建築による付加価値部分は、分離計算が求められます。実務上は、売却価額から造成前の時価を控除し、付加価値益を明確に区分する必要があります。
  • 損失が出た場合の逆利用:特例は任意適用のため、売却損が生じた場合は、あえて損益に含めて課税所得を圧縮することも可能です。

質問に対する判断

本件の学校法人が営むマンション賃貸業は、法人税法施行令第5条第1項第5号に規定する「不動産貸付業」として収益事業に該当します。したがって、この収益事業の対象となったマンションの一室の売却益は、原則として収益事業の所得となります。

しかしながら、売却対象が10年以上保有していた固定資産であることから、法人税基本通達15-2-10の例外規定が適用され、売却損益を収益事業に含めない(=法人税の課税対象外とする)ことが可能です。

なお、売却に伴い大規模なリノベーションや開発行為等があった場合には、法人税基本通達15-1-12の論点(不動産販売業該当性)も併せて検討する必要がありますが、今回は該当しないものとしています。

以上のように、公益法人等であっても、保有期間や売却の態様によっては不動産の売却益が非課税となる場合があるため、個別事情を踏まえた慎重な判断が求められます。

国内税務Q&A_学校法人の収益事業用不動産の売却益の税務上の取扱い

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