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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A​】学校法人の収益事業利益を公益目的に​支出する場合の税務上の取扱い

2025年9月17日

質問

私は学校法人を運営しています。当法人では、学校運営とは別にマンションの賃貸事業を行っており、この事業については「収益事業」として法人税の申告をしています。このたび、この賃貸事業で得た利益の一部を学校会計に組み入れ、教育目的に充てたいと考えています。この場合、法人税法上の取扱いはどのようになるか教えてください。

回答

公益法人等が収益事業(マンションの賃貸事業)で得た利益を、非収益事業(学校運営などの公益目的事業)に支出する場合、その支出は法人税法第37条第5項に基づき「収益事業に係る寄附金」として取り扱われます。この寄附金については、一定の損金算入限度額の範囲内で、収益事業の所得計算上、損金に算入することが可能です。

法人税法第37条第5項の解説

本件でポイントとなるのは、法人税法第37条第5項の規定です。以下では、その条文の内容と制度趣旨について説明します。

条文の内容と「みなし寄附金」の考え方

法人税法第37条第5項には、次のように規定されています。

公益法人等がその収益事業に属する資産のうちから、その収益事業以外の事業のために支出した金額(ただし、公益社団法人または公益財団法人の場合は、公益に関する事業で政令で定めるものに限る。)は、その収益事業に係る寄附金とみなして、第一項の規定を適用する。

この規定により、公益法人等が収益事業(マンションの賃貸事業など)で得た利益を学校運営などの非収益事業に充てる場合、その支出は「寄附金」として取り扱われます。つまり、法人内部での資金移動であっても、税務上は「寄附」とみなされることから、これを「みなし寄附金」と呼びます。

制度趣旨:税制の公平性の確保

「みなし寄附金」制度が設けられている背景には、税制の公平性を確保するという考え方があります。まず、学校法人などの公益法人が行う公益目的事業(学校教育など)については法人税は課されません。一方、収益事業(マンションの賃貸事業など)は一般法人と同様に法人税の課税対象となります。

もし収益事業で得た利益を公益目的事業に自由に移し、全額が損金として認められる仕組みであれば、収益事業の課税所得を実質的にゼロにすることが可能になってしまいます。これでは、他の法人との間に著しい不公平が生じます。

そこで、収益事業から公益目的事業への支出は「みなし寄附金」として位置づけられ、損金算入には一定の限度が設けられています。これにより、公益法人の公益活動を尊重しつつも、収益事業については他の法人と同様の課税ルールを適用するという、バランスの取れた制度設計がなされています。

濫用防止規定

さらに、同項の末尾には次の但書が設けられています。

ただし、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることにより支出した金額については、この限りでない。

これは、令和3年度税制改正により追加された部分となりますが、次のように説明されています。

公益法人等が、収益事業に係る収入を収益事業以外の事業に係る収入に仮装して経理すること等の不正行為により課税所得を過少に計上していた場合には、その経理した金額は、外形的に収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額となるため、事後に修正申告又は更正があった場合においてみなし寄附金制度が適用され得るところ、このような不正行為の場合にはみなし寄附金制度を適用することは、収益事業から得られた利益の一部が公益性の認められる事業にか充てられることへの配慮から設けられた本制度の趣旨を逸脱しており、適正公平な課税を妨げる誘因となり得ると考えられることから、これを不適用とするものです。

したがって、公益法人が収益事業から公益目的への支出を行う際には、適正な会計処理が行われていることが不可欠といえます。

質問に対する判断と実務上の取扱い

本件は、学校法人が行っているマンション賃貸業の利益の一部を学校会計に組み入れ、教育目的に使用するケースです。これは、法人税法第37条第5項に規定される「収益事業に係る寄附金」に該当します。

この場合、法人税法上は損金算入が認められますが、「みなし寄附金」についても一般の寄附金と同様に損金算入限度額が設けられています。ただし、公益法人等(学校法人を含む)の場合は、普通法人に比べて優遇された損金算入限度額が適用される点が特徴です。

具体的には、公益法人等においては事業年度の所得金額の50%または200万円のいずれか大きい額が、損金算入の上限となります(法人税法施行令第73条第1項第3号)。

例えば、課税所得が1,000万円、資本金等の額が1億円である場合、寄附金(指定寄附金や特定公益増進法人 への寄附を除く)の損金算入限度額は、次のように比較されます。

公益法人等(学校法人)の場合

※損金算入限度額=所得金額×50%(ただし200万円に満たない場合は200万円が上限)

  • 所得金額の50%:1,000万円×50%=500万円
  • 定額:200万円

∴損金算入限度額=500万円(大きい方を採用)

一般法人の場合

※損金算入限度額={(期末の資本金等の額×当期の月数/12)×0.25%+(所得金額×2.5%)}×1/4

  • 資本金基準額:1億円×12/12×0.25%=25万円
  • 所得基準額:1,000万円×2.5%=25万円

∴損金算入限度額=(25万円+25万円)×1/4=12.5万円

このように、公益法人等では最大500万円まで損金算入が可能であるのに対し、一般法人ではわずか12.5万円 にとどまります。この比較からも明らかなように、公益法人等には寄附金の損金算入限度額について、一般法人よりも大幅な優遇措置が設けられていることがわかります。

補足:地方税の特例

法人税とは別に、地方税においても学校法人には特例が設けられています。

学校法人が収益事業で得た所得の90%以上を教育・研究等の公益目的に使用している場合、その収益事業は地方税法施行令第7条の4に基づき「収益事業に該当しない」とみなされ、法人住民税が非課税となります。

つまり、学校法人が収益事業から得た利益を公益目的に支出する場合、法人税と地方税とで取扱いが異なることになります。

法人税

収益事業から非収益事業(教育・研究等)への支出は「みなし寄附金」として扱われ、一定の限度額まで損金算入が認められるにとどまります。したがって、利益を全額公益目的に充てても、課税所得をゼロにすることはできず、原則として法人税が課税されます。

地方税(法人住民税)

収益事業の所得の90%以上を公益目的に使用している場合は、そもそも「収益事業」に該当しないとみなされ、課税対象から除外されます。

このように、法人税は「みなし寄附金」として損金算入額に制限がありますが、地方税では要件を満たせば一部の税目が課税対象外となります。したがって、収益事業の利益をどの程度公益目的に使用するかによって、法人税は課税が避けられない一方、地方税の一部については非課税となる可能性があります。

国内税務Q&A_学校法人の収益事業利益を公益目的に支出する場合の税務上の取扱い

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