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長谷川 祐哉 Yuya Hasegawa

この記事の著者

長谷川 祐哉 Yuya Hasegawa

パートナー  / 税理士

時価の算定に関する基準(時価算定基準)の改定ポイント

2021年8月20日

2019年に「時価の算定に関する会計基準(以下、時価算定基準」)が公表され、2021年4月1日以降に開始する事業年度から適用開始されています。本記事では、時価算定基準が導入された背景やこれまでとの違い、覚えておきたいポイントなどについて紹介します。

時価算定基準の基本情報

2019年に公表された「時価の算定に関する会計基準(時価算定基準)」が2021年4月1日以降に開始する事業年度から適用されます。時価算定基準は、国際財務報告基準(IFRS)13号にならって作成されているため、理解するのに時間を要することもあるでしょう。新たな時価算定基準に関し、少しずつ説明していきます。

時価算定基準の導入背景

時価算定基準が導入されたのは、日本の基準を世界に合わせるためです。日本ではこれまで、取得原価主義を会計処理の原則として用いてきました。取得原価主義は支払額によって確定された金額であるため、客観性が高いと考えられてきたためです。しかしながら、取得原価は過去の一時点での価値であり、現在の価値を正しく示すものではありません。

これらの理由により、世界では、現在の価値である時価を会計処理に利用する流れが中心となりつつあります。時価を正しい方法で開示しながら会計作業を進めます。

日本でも時価会計の導入は進められてきましたが、「時価をどのように算定するのか」という具体的な規定はありませんでした。そこで今回の時価算定基準が導入されることになりました。

この変更により、日本の会計は国際的な会計に近づいたともいえます。現状は多くの企業が変更に戸惑っているかと思いますが、将来的には時価算定基準が一般化していくと考えられるため、今のうちに対応できるようにしておくとよいでしょう。

そもそも時価とは?時価の再定義

そもそも時価とは何か?と疑問に思う方もいると思います。これまでの時価は、「金融商品に関する会計基準」における以下の定義が一般的でした。

時価とは(金融商品に関する会計基準)

公正な評価額をいい、市場において形成される取引価格、気配又は指標その他の相場に基づく価額をいう。市場価格がない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とする

これに対し、「時価算定基準」では以下のように定義されています。

時価とは(時価算定基準)

算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう

両者を比較すると、市場での取引価格に基づくという点は同じです。しかしながら、時価算定基準では対象資産・負債を手放す場合の売却価格や支払い価格に基づくとしている点に違いがあるため注意する必要があります。

時価算定基準の適用範囲

時価算定基準は、以下の2項目に対して適用されます。

(1)「金融商品に関する会計基準」で定められている金融商品
(2)「棚卸資産」でトレーディング目的で保有する棚卸資産

特に注意が必要なのは、時価を把握することが極めて困難であるとされる金融商品です。金融商品の時価を正しく算定するためには後で紹介する評価技法を適用する必要があります。

時価算定の評価技法

会計基準に時価を利用する場合、時価を正しく算定する必要があります。それを可能にするのが時価算定の評価技法です。時価算定基準では評価技法の例として「マーケット・アプローチ」と「インカム・アプローチ」が挙げられています。

マーケット・アプローチとは、同一または類似の資産・負債に関する市場で成立価格を参考に評価する技法です。客観性が高いことで知られています。

インカム・アプローチは、将来得られる収益力をベースに評価する技法です。対象資産の固有の価値を評価に反映することができるため、広く利用されています。

上記はあくまでも評価技法の一例であり、必ずしもこれらに限定されているわけではありません。例えば、コスト・アプローチなどの評価技法でも問題ありません。ただし、国際的に利用されている客観性の高い評価技法を用い、できるかぎり確かな時価を導き出す必要がある点は押さえておくとよいでしょう。

おわりに

時価算定基準の適用により、会計がより複雑になったと感じる方も多いと思います。今後どのような流れになるのかはわかりませんが、現状、日本の会計基準も国際的な会計基準に近づいていくと考えられるため、少しでも早く移行準備を進めることをおすすめします。

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