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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

租税条約と日本が租税条約を締結している国について

2023年5月9日

租税条約とは、二重課税の排除や脱税の防止等を目的として、国と国の間で結ばれる条約のことです。日本は、2021年4月1日現在143か国・地域との間で、79条約等の租税条約を締結しています。ここでは、租税条約について詳しく解説いたします。

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租税条約とは

まずは租税条約について詳しく説明していきます。

例えば、日本のA会社が、B国に子会社を設立した場合に、日本でもB国でも課税されれば、二重課税になってしまいます。従って、どのような場合に、どちらの国で課税されるのかを二国間であらかじめ決めておく必要があります。これが、租税条約の目的です。

つまり租税条約とは、二重課税の調整、脱税及び租税回避への対応等を通じて、二国間の健全な投資経済交流の促進に資することを主な目的とした租税に関する条約ということになります。

租税条約には、OECD(Organisation for :Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)の加盟国を中心とした「OECDモデル租税条約」というものがあります。この条約は、OECD加盟国を中心として、租税条約を締結する際のひな型として利用されています。日本も、この条約に沿った規程を採用し、諸外国と租税条約を締結しています。

OECDモデル租税条約の主な内容

OECDモデル租税条約の主な内容について紹介します

①二重課税の調整
租税条約の目的の1つは、二重課税の排除です。租税条約では、源泉地国(所得が発生する国)が課税可能な所得の範囲を確定しています。例えば、事業所得は、支店等の活動により得た所得のみに課税されます。また、投資所得(配当、利子、使用料)については、それぞれの国と地域で課せられる税率の上限を設定しています。

②脱税及び租税回避への対応
こちらも、租税条約の目的の1つです。それぞれの国の税務機関の間で、納税者に関する銀行機密を含む情報の交換が行われます。一般的には、源泉地国で課税された税金を自国の税金から控除する外国税額控除という方法、または源泉地国で生じた所得を課税の対象から除外する所得免除という方法によって、二重課税の排除を行っています。日本では、前者の外国税額控除という方法を採用しています。

租税条約のメリット

外国の企業が日本に進出した際に、租税条約を利用するメリットには、以下のようなものがあります。

(1)二重課税の排除

まず1つ目のメリットとしては、日本に進出する外資系企業が、日本への投資や事業から得た利益に対する二重課税を避けることができるという点です。日本の法定実効税率(所得に対する課税率)は、諸外国と比較すると決して低くはありません。従って、二重課税となってしまうと、投資や事業から生じる所得から納税した後に残る利益は、大幅に減少することになります。

(2)租税に関する不当な取り扱いに関する調停

もし外資系企業が日本において、税制面で不当な扱いを受けた時には、両国間で設けられた協議機関へ申し立てを行うことができます。この点も、メリットの1つです。

(3)配当や利子への課税の軽減

外資系企業が日本において得た受取配当や受取利子への課税が軽減される点も、メリットとして挙げられます。

租税条約適用のための手続き

例えば、日本の企業がC国に子会社を設立した場合、利子、配当、使用料などについて、C国から原則として20.42%の源泉所得税が課されます。この場合、支払者(日本企業の子会社)が、その課税義務を負うことになります。

一方で、租税条約を適用することによって、C国に納める源泉所得税の減免を認められる場合があります。

この減免措置が適用されるには、「租税条約に関する届出書」を対象となる所得の支払の前日までに、支払者の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

日本が租税条約を締結している国・地域

財務省のウェブサイトによると、日本は2021年4月1日現在143か国・地域と79条約等を締結しています(財務省ウェブサイト)。なお、※がついている国・地域とは、租税に関する情報交換を主たる内容とする条約(いわゆる情報交換協定)を締結しています。

(1)北米・中南米(34カ国・地域)

アメリカ、エクアドル、カナダ、ジャマイカ、チリ、ブラジル、ペルー、メキシコ、ケイマン諸島(※)、英領バージン諸島(※)、パナマ(※)、バハマ(※)、バミューダ(※)

(執行共助条約のみ)
アルゼンチン、アルバ、アンギラ、アンティグア・バーブーダ、ウルグアイ、エルサルバドル、キャラソー、グアテマラ、グレナダ、コスタリカ、コロンビア、セントクリストファー・ネーヴィス、セントビンセント及びグレナディーン諸島、セントマーティン、セントルシア、ターコス・カイコス諸島、ドミニカ共和国、ドミニカ国、バルバトス、ベリーズ、モンセラット

(2)欧州(46カ国・地域)

アイスランド、アイルランド、イギリス、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、クロアチア、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ハンガー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポルトガル、ポーランド、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ルーマニア、チェコ、ガーンジー(※)、ジャージー(※)、マン島(※)、リヒテンシュタイン(※)

(執行共助条約のみ)
アルバニア、アンドラ、北マケドニア、キプロス、ギリシャ、グリーンランド、サンマリノ、ジブラルタル、セルビア、フォロー諸島、ボスニアヘルツェゴビナ、マルタ、モナコ、モンテネグロ

(3)ロシア・NIS諸国(12カ国・地域)

アゼルバイジャン、ウズベキスタン、ジョージア、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、タジキスタン、モルドバ、ウクライナ、キルギス、トルクメニスタン、ロシア

(4)アジア・大洋州(27カ国・地域)

インド、インドネシア、オーストラリア、韓国、シンガポール、スリランカ、タイ、中国、ニュージーランド、パキスタン、バングラデシュ、フィジー、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マレーシア、サモア(※)、マカオ(※)、台湾

(執行共助条約のみ)
クック諸島、ニウエ、バヌアツ、モンゴル、ナウル、ニューカレドニア、マーシャル諸島

(5)中東(9カ国・地域)

アラブ首長国連邦、クウェート、イスラエル、サウジアラビア、オマーン、トルコ、カタール

(執行共助条約のみ)
バーレーン、レバノン

(6)アフリカ(15カ国・地域)

エジプト、南アフリカ、ザンビア

(執行共助条約のみ)
ウガンダ、ケニア、ナイジェリア、ガーナ、セーシェル、ナミビア、カーボベルデ、セネガル、モーリシャス、カメルーン、チュニジア、モロッコ

(注1)税務行政執行共助条約が多数国間条約であること、及び、旧ソ連・旧チェコスロバキアとの条約が複数国へ承継されていることから、条約等の数と国・地域数が一致しない。

(注2)条約等の数及び国・地域数の内訳は以下のとおり。
・租税条約(二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止を主たる内容とする条約):66本、75か国・地域
・情報交換協定(租税に関する情報交換を主たる内容とする条約):11本、11か国・地域(図中、(※)で表示)
・税務行政執行共助条約:締約国は我が国を除いて111か国(図中、国名に下線)。
適用拡張により129か国・地域に適用(図中、適用拡張地域名に点線)。このうち我が国と二国間条約を締結していない国・地域は56か国・地域。
・日台民間租税取決め:1本、1地域

(注3)台湾については、公益財団法人交流協会(日本側)と亜東関係協会(台湾側)との間の民間租税取決め及びその内容を日本国内で実施するための法令によって、全体として租税条約に相当する枠組みを構築(現在、両協会は、公益財団法人日本台湾交流協会(日本側)及び台湾日本関係協会(台湾側)にそれぞれ改称されている。)。

おわりに

本記事では租税条約について紹介しました。租税条約を理解することで二重課税を防ぐことができるため、海外に進出する企業は必ず理解しておきたいところです。

弊社では、海外進出を行う企業に向けたトータルサポートを実施しています。租税条約に関するお手伝いももちろんさせていただきます。もし海外進出に関しお困りのことがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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