【国際課税Q&A】日本に恒久的施設(PE)を持たない外国法人が日本法人に著作権を譲渡した場合の対価に係る日本における源泉所得税及び消費税上の取扱い
2023年9月8日
質問
日本国内に支店等の恒久的施設(PE)を有していない香港の法人が、日本法人向けにアプリ用のキャラクター(著作権法上の著作物に該当)を作成し、日本法人に譲渡した場合、当該著作権の譲渡に対する日本における源泉所得税及び消費税上の取扱いについて教えてください。
回答
香港法人が日本国内にPEを有していなければ、著作権の譲渡に対しての源泉徴収は不要であり、消費税についても課税対象外と判断できます。
根拠
源泉所得税
1. 国内法による判定
今回の香港法人の日本法人に対する著作権の譲渡による収入が、日本で主に源泉徴収の方法で課税対象とされる国内源泉所得に該当するか否かが第一の論点となります。
外国法人が得る著作権の使用料又はその譲渡による対価については、所得税法161条1項11号ロにおいて、それを国内において業務を行う者から受ける場合は、国内源泉所得に該当するとされています。それゆえ、国内法上は、著作権の譲渡対価を外国法人に支払う場合には、税率20.42%による源泉徴収が必要となります(所得税法5条4項、179条1号、212条1項、213条1項1号)。
2. 租税条約による判定
外国法人の居住国と日本との間で租税条約が締結されている場合には、国内法による判定後、租税条約による判定が必要となります。租税条約による判定は国内法による判定に優先して適用されるためです。
日本と香港との租税条約に相当する日・香港租税協定上、著作権の譲渡から生ずる収入については、日・香港租税協定第12条の「使用料」の条項ではなく、第13条の「譲渡収益」の条項を適用するものと考えられます。
即ち、著作権に関しては第13条6項が適用され、居住地国課税の考えから、譲渡者である香港法人が居住する香港で課税がなされ、日本での源泉徴収は不要となります。
参考:租税条約によって異なる結論
著作権等の譲渡対価に対する源泉徴収の要否については、租税条約によって結論が異なることから、留意が必要です。
今回の日・香港租税協定では、著作権の譲渡対価は、第12条の「使用料」ではなく、第13条の「譲渡収益」に含めるといった判断がなされましたが、租税条約によっては、著作権等の知的財産権の譲渡対価を「使用料」に含める場合があるからです。この場合は、使用料条項内に、著作権等の知的財産権の譲渡から生ずる収入についても、使用料と同様に取り扱う旨の明示的な記載があることが多いです。
それゆえ、多くの租税条約で第12条にて記載がなされている「使用料」の条項を丁寧に読み取ることが重要となります。なお、著作権の譲渡対価が「使用料」に含まれる場合は、源泉徴収の対象となりますが、その税率は国内法上の20.42%よりも軽減される場合がほとんどです。
著作権等の知的財産権の譲渡対価を「使用料」に含め、源泉徴収が必要となる場合として、シンガポール(日星条約第12条5項にて明示)、韓国(日韓条約第12条5項にて明示)、ベトナム(日越条約第12条5項にて明示)などが挙げられます。いずれも源泉税率は10%に軽減されます(各租税条約第12条2項にて記載)。
一方、香港との租税条約のように、著作権等の知的財産権の譲渡対価を「使用料」としてではなく「譲渡収益」に含めると解され、日本での源泉徴収不要となるケースとしては、アメリカ、イギリス、インドなどが挙げられます。
以下、著作権の譲渡対価を第12条の「使用料」に含める場合の代表例として、日本とシンガポールの租税条約の第12条5項での明示部分を示します。今後、租税条約の該当箇所を見る際の参考にしてみてください。
日星租税条約
第12条(使用料)
1. -省略-
2. -省略-
3. この条において、「使用料」とは、文学上、美術上若しくは学術上の著作物(ソフトウエア、映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受領するすべての種類の支払金及び船舶又は航空機の裸用船契約に基づいて受領する料金(第8条で取り扱うものを除く。)をいう。
4. -省略-
5. 1、2及び4の規定は、文学上、美術上若しくは学術上の著作物(ソフトウエア、映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式又は秘密工程の譲渡から生ずる収入についても、同様に適用する。
消費税
消費税については租税条約ではなく、国内法のみで課税の要否が判定されます。
著作権を含む知的財産権は無形であるため、役務提供と類似しているように思われますが、知的財産権は資産であることから、その資産の譲渡や貸付けに係る消費税の内外判定基準は、原則として「取引が行われる時にその資産が所在していた場所」です。
しかし、無形資産は有形資産と異なり、資産の所在場所を目で見て確認できるものではないため、消費税上、知的財産権は、以下の通り大きく2つに区分された上で、内外判定基準が定められています。
権利の性質 | 該当する権利 | 内外判定基準 | 根拠条文 |
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登録により発生 | 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権、育成者権 | 権利の登録をした機関の所在地(同一の権利について2以上の国において登録をしている場合には、これらの権利の譲渡又は貸付けを行う者の住所地) | 消費税法施行令6条1項5号 |
創作により自動的に発生 | 著作権(出版権、著作隣接権その他これに準ずる権利を含む)、特別の技術による生産方式及びこれに準ずるもの | 著作権等の譲渡又は貸付けを行う者の住所地 | 消費税法施行令6条1項7号 |
上表より、著作権は「創作により自動的に発生する権利」であり、その内外判定基準は「著作権等の譲渡又は貸付けを行う者の住所地」となります。それゆえ、今回の事例に当てはめると、香港法人が著作物を作成し、日本法人に譲渡を行っていることから、「著作権等の譲渡又は貸付けを行う者の住所地」は香港であり、国外取引となり、消費税の課税対象外となります。