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新地 皓貴 Hiroki Shinchi

この記事の著者

新地 皓貴 Hiroki Shinchi

パートナー  / 公認会計士 , 税理士

日本進出を狙う中国企業が知っておきたい日本の監査制度について

2025年1月31日

中国企業が日本進出に際し子会社を設立する際に、最も重要な課題の一つが「監査制度の理解」です。

中国では全企業に年次監査が義務付けられる一方、日本では一定の基準を満たす企業のみが法定監査を必要とします。

本記事では、監査義務の有無判断から実務対応まで、日本に子会社を設立しようとする企業のCFO・経理部長が押さえるべきポイントを網羅的に解説します。

日本特有の法制度を踏まえた具体的なアドバイスを通じ、コンプライアンスと効率的な事業運営を実現するためのガイドとしてご活用ください。

中国と日本の監査制度の違い

中国では、企業の規模や業種を問わず、毎年の監査が法的に義務付けられています。これは、国家財政の透明性確保や外資規制の一環として制度化されたもので、監査報告書の提出が税務申告や営業許可の更新に直結します。

一方、日本では会社法と金融商品取引法に基づき、大会社や上場企業など一部の企業にのみ監査が義務化されています。中小企業は原則として監査不要ですが、自主的に任意監査を実施するケースもあります。

【主な違いのまとめ】

項目中国日本
監査義務全企業に年次監査義務基準を満たす企業のみ義務化
目的国家管理・外資規制投資家保護・透明性確保
中小企業の扱い義務対象原則不要

監査対象基準の詳細解説

日本において監査義務が発生するかは、以下のいずれかを満たすかで決まります。

(1)会社法上の大会社

会社法により、資本金5億円超または負債総額200億円超の企業は監査義務が発生します。

(2)上場企業(金融商品取引法)

東京証券取引所・名古屋証券取引所などに株式を上場している企業は監査を受ける必要があります。

(3)親会社の監査義務の波及

外資系企業の子会社の場合、親会社が本国で監査義務を負っていると日本子会社も連結対象として監査が必要になる可能性があります。

そのほかにも、銀行や保険会社、公益法人など特定の業種においては業種別の規制によって法定監査が必要となるケースがあります。

法定監査の対象となる企業とは

日本で法定監査が義務付けられる企業は、会社法と金融商品取引法に基づき明確に定義されています。

(1)会社法上の大会社(会社法第2条)

資本金または負債総額が一定規模を超える企業は、「大会社」として監査義務が発生します。

基準の詳細は以下の通りです。

  • 資本金5億円超:設立時または増資後の資本金が5億円を超える場合。
  • 負債総額200億円超:貸借対照表の負債合計が200億円を超える場合(※連結ベースでなく単体ベースで判定する)。

【具体例】

  • 資本金6億円の日本子会社:監査対象。
  • 資本金3億円だが負債総額250億円の会社:監査対象。

※親会社が大会社でも、子会社単体が上記の基準を満たさなければ監査不要になります。

(2)上場企業(金融商品取引法第193条の2)

日本の証券取引所に上場している企業は、投資家保護の観点から法定監査が必須です。

対象取引所としては、東京証券取引所(プライム・スタンダード・グロース)、名古屋証券取引所などが挙げられます。

また、上場企業には以下の事項も追加で監査が義務付けられています。

  • 中間監査または四半期レビュー:上場企業は最低でも半期ごとに監査法人のチェックを受ける必要があります。
  • 内部統制報告書:財務報告に関わる内部統制の有効性を監査法人が評価します。

(3)特定業種の企業

銀行や保険会社など企業の属する業種によっては、業法や特別法で追加の監査が義務付けられます。公益法人もまた収益規模により法定監査を実施する必要がある場合があります。

監査義務がない場合の対応策

監査義務のない中小企業でも、以下の対策で財務の信頼性を高めることが可能となります。

  • 自主的な任意監査の実施:監査費用はかかるものの、取引先や投資家からの信頼向上、内部統制の強化につながります。
  • 内部監査体制の構築:不正やエラーを早期発見するための定期的なチェックを行う体制を整備することで信頼性を向上できます。
  • クラウド会計ツールの活用:freeeやMFクラウドなどに代表されるクラウド会計ツールを利用し自動化を図ることで、不正や改ざんを防止することが可能になります。

Bookkeepingと監査の役割と連携

Bookkeeping(簿記)と監査は、企業の財務管理において密接に関連しています。簿記は、企業の日常的な取引を記録し、財務状況を把握するためのプロセスです。

これに対して、監査はその記録が正確であるかどうかを独立した立場から検証するプロセスです。監査は、企業の財務報告が正確であり、適正であることを保証する役割を担っています。

Bookkeepingと監査は、単独で行われるものではなく、相互に連携することでスムーズな業務運営が可能になります。Bookkeepingが適切に行われていない場合、監査はその記録の正確性を確認できなくなります。

一方、監査によって指摘された問題をBookkeepingで改善することで、次回の監査に向けての準備が整います。この連携は、企業の透明性と信頼性を高め、効率的な業務運営を支える要素となります。

日本で監査を受ける際には、Bookkeepingと監査の連携を意識し準備を進めることが求められます。

監査準備のためのポイント

監査を受けるためには、いくつかの準備が必要です。以下に、監査準備のためのポイントをいくつか挙げます。

  • 会計帳簿の整備:すべての取引が適切に記録され、財務諸表の前提となる基礎資料が正確であることを確認します。
  • 財務諸表の作成:財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)を作成し、監査人に提出できるようにします。
  • 監査人とのコミュニケーション:監査人と事前に打ち合わせを行い、監査の範囲や日程を確認する必要があります。
  • 内部統制の確認:内部統制が適切に機能しているかを確認し、必要な改善を行います。

これらの準備を十分に行い監査に臨むことで、スムーズな監査プロセスを実現することができるでしょう。

日本の監査制度の実務的な注意点

日本で監査を実施する外資系企業、特に中国企業にとって、制度や文化の差異に起因する想定外の課題は少なくありません。

まず顕著なのは言語と文化の壁です。監査中のコミュニケーションが日本語で行われる場合、専門用語の翻訳ミスやニュアンスの誤解が生じやすい点に注意が必要です。

これを回避するためには、監査契約の段階で英語または中国語で対応できるバイリンガルの監査チームを配置するよう事前に協議しておくとよいでしょう。

また、日本の電子帳簿保存法の厳格化も無視できません。領収書や請求書の管理方法を見直し、クラウド会計ソフトを導入して電子化を徹底することが求められます。

さらに、税務と監査の連携が挙げられます。日本の税務制度と監査は密接に関連しており、税務面での対応が監査結果にも影響を与えることがあります。

対策としては、日本の税制に詳しい税理士と顧問契約を結ぶことで監査上論点となる税務に関する事項に適切に対処することができるでしょう。

まとめ

本記事では、中国企業の監査制度と日本の監査制度の違いについて解説しました。

中国企業が日本市場に進出する際には、これらの違いを理解し、適切な監査対応を行うことが求められます。

また、監査義務がない場合でも任意監査を受けることなど対策を講じることで、企業の信頼性を高めることができます。

Bookkeepingと監査の連携を意識し、監査準備を十分に行うことで、スムーズな監査プロセスが実現できるでしょう。

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