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関口 智史 Satoshi Sekiguchi

この記事の著者

関口 智史 Satoshi Sekiguchi

パートナー  / 社会保険労務士

中小企業退職金制度の概要と加入のメリット・デメリット

2017年12月18日

本記事では「中小企業退職金制度(以下:中退共制度)」の概要と、活用するメリット・デメリットについて詳しく説明します。

中退共制度とは?

中退共制度は、単独で退職金制度を設置することが困難な中小企業を助成するために制定された制度です。退職金制度を設置するためには、大きな時間的・金銭的負担が発生します。これらを軽減するために中退共制度が設けられました。

中小企業が退職金を支払うことができれば優秀な人材を獲得しやすくなることから、中小企業の振興と発展に寄与することを目指しています。

中退共制度の概要

中退共制度の概要について説明します。

対象企業

中退共制度に加入できるのは、以下の条件を満たす企業のみです。従業員数または資本金・出資金額の要件のいずれかに該当した場合には加入条件を満たしたことになり、申請できます。

業種常用従業員数資本金・出資金
製造業・建設業等300人以下3億円以下
卸売業100人以下1億円以下
サービス業100人以下5千万円以下
小売業50人以下5千万円以下

なお、中退共制度加入後、従業員数増などにより条件から外れてしまった場合には、一定の要件を満たすことで確定拠出年金制度などを実施する他の退職金共済団体等に退職金相当額を引き継ぐこともできます。

全従業員の加入が必須

中退共制度を利用するには、全従業員が中退共制度に加入する必要があります。従業員数に応じて掛金を拠出することになるため、従業員の数は資金繰りに深く影響します。ただし、雇用期間が決まっている雇用者や使用期間中の従業員、短時間労働者、休職者等は加入させる必要はありません。

中退共制度の仕組み

掛金の設定・拠出

加入した企業は月額の掛金を選択します。金額は5千円から3万円の間で16種類設定されており、企業は従業員ごとに月々の掛金の金額を選択し、その全額を負担します。

新規に中退共制度に加入する企業は加入後4カ月目から1年間、国からの助成を受けることができ、掛金の額が低くなります。月額掛金の2分の1(5千円を上限)が助成され、短時間労働者の場合は、さらに上乗せされて助成されます。

さらにもうひとつ助成制度があり、1万8千円以下の掛金から増額する場合には、掛金の増額に対してその月から1年間、増額分の3分の1が助成されます。

上記ふたつの助成制度は併用可能で、加入の手助けとなります。

従業員が退職した際の手続き

従業員が退職した際には一定の手続きをとることで、退職者への退職金の支払いが行われます。従業員の退職が決定した場合、事業主は「被共済者退職届」に必要事項を記入・押印の上、中小企業退職金共済(以下「中退共」)本部に送付します。送付後に、中退共本部は退職する従業員の掛金振替を中止します。

退職した従業員は、企業から「退職金共済手帳」という請求書を受け取ります。これを中小企業退職金共済本部に提出することにより退職金が支給されます。

この手続きからもわかる通り、退職金に関する手続き等はすべて中退共が実施してくれるため、企業は退職金に関する手続きを実施する必要がほとんどありません。業務削減の面からみても様々なメリットがあるといえます。

中退共加入によるメリット

中退共に加入した場合のメリットについて紹介します。

①掛金を損金扱いにできる

企業が中退共に支払う月額の掛金は、法人税法の規定により全額が損金に計上されます。そのため、利益が出ている企業にとっては法人税額を減額できます。

②雇用状態が安定する

中退共制度は国の中小企業対策の一環として設けられた制度で「中小企業退職金共済法」に基づいています。国が管理している制度のため、退職金が確実に支払われると考えてよいでしょう。将来に対して不安を抱える従業員が多い昨今、従業員の安心を高めてくれる制度といえます。

中退共制度により支給される退職金は「基本退職金」と「付加退職金」の合計額で支払われます。長期加入者ほど恩恵を受ける仕組みのため、従業員の離職防止にも効果が期待できます。

③負担なく退職給制度を創設できる

中退共制度は中退共本部から退職金が支給されるため、退職金の管理を会社自体がする必要がありません。そのため、企業内部に積立金を積み立てることも、退職時にまとまったお金を用意する必要もありません。退職金に関する手続きなどをしなくてもよいため、企業負担を軽減できます。

④福利厚生サービスが受けられる

中退共に加入することで、一部の福利厚生サービスが受けられます。例えば、中退共本部が提携しているホテル・施設を割引料金で利用できます。従業員の福利厚生まで手が回らない企業にとっては、福利厚生の一環としてアピールできます。

中退共加入によるデメリット

中退共にはもちろんデメリットも存在します。中退共加入のデメリットについて紹介します。

①定期的なキャッシュの流出を伴う

中退共制度では月額の掛金を支払います。毎月決まった額を支払う必要のある中退は、資金繰りの厳しい企業にとってリスクとなる場合もあります。長期にわたって月額の掛金を支払えるかどうかは、加入前に確実に確認しておいたほうがよいでしょう。

②掛金の減額が困難

掛金の額を減額するためには、従業員の同意又は厚生労働大臣の認定が必要です。従業員からの同意は、将来の受取金額減少につながるため、同意を得られないことがほとんどです。また、厚生労働大臣の認定は、申請書を厚生労働省に提出しその承認を受けなくてはなりません。加入後の掛金減額は簡単ではないことから、計画的に利用することをおすすめします。

③掛捨ての危険性

中退共制度では、掛金の納付が1年未満の場合には退職金が支給されません。また、1年以上2年未満の場合は掛金の総額を下回る金額の支給となります。一度拠出した掛金は返還されることが一切ないため、早期退職した場合には拠出した金額に対して退職者が受ける恩恵が少なくなり、掛捨・掛損となってしまう可能性があります。

おわりに

本記事では、自社だけで退職金制度を設けるのが難しい中小企業者向けの制度である「中退共制度」について詳しく説明しました。退職金の仕組みを簡易に利用できる一方で、気をつけなければリスクを負うことになりかねません。加入するかどうかは慎重に決めるとよいでしょう。もし中退共制度に関して相談がございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせください。

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