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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

【国際課税Q&A】非居住者に対するストックオプションの税務上の取扱い

2023年7月10日

質問

日本法人が、日本にPEを有しない海外居住者(ベトナム)である従業員に対して、税制非適格ストックオプション(以下、SO)又は税制適格SOを発行した場合の従業員に対する日本の税務上の取扱いについて教えてください。

回答

日本国内での勤務期間がないことを条件に、税制非適格SO・税制適格SO共に、SO付与時、権利行使時、株式譲渡時のいずれの場合においても、日本での課税はないものと判断できます。

重要用語

質問及び回答にて使用されている「税制非適格SO」及び「税制適格SO」について、今一度確認したいと思います。

そもそもSOとは、新株予約権の1つであり、新株予約権とは、将来の一定期間内(権利行使期間)に、事前に決められた価格(権利行使価額)で会社の株式を取得することができる権利をいいます。

SOは、新株予約権のうち、会社が自社又は子会社の従業員、役員等に対して、会社全体の業績向上へのインセンティブや権利行使までの一定期間、優秀な人材を引き留める効果を期待して付与するものをいいます。

SOの種類としては、まず有償で発行されるか、無償で発行されるかにより、「有償SO」と「無償SO」に分類されます。さらに、無償SOは、ストックオプション税制の適用を受ける「税制適格SO」とその適用を受けない「税制非適格SO」に分けられます。税制適格SOの要件として主なものは、下記の表の通りです(出典:ストックオプション税制(METI/ 経済産業省))。

税制適格SOは、権利行使時の取得株式の時価と、権利行使価額との差額に対する給与所得課税が株式売却時まで繰延べられ、株式売却時に売却価格と権利行使価額との差額を譲渡益課税とできます。

税制非適格SOでは権利行使時に、現金としての利益を得ていない時期に給与所得課税が発生しますが、税制適格SOではこのタイミングでの給与所得課税は行われず、株式売却時のみの譲渡益課税となるといった税務メリットがあります。

項目要件
付与の対象会社及びその子会社の取締役・執行役・使用人一定の要件を満たす外部協力者(弁護士や専門エンジニア等※)
発行価格無償発行
権利行使期間付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで(設立5年未満の非上場会社は15年を経過する日まで:令和5年改正)
権利行使限度額年間の合計額が1,200万円を超えないこと
権利行使価額ストックオプションに係る契約締結時の時価以上の金額
譲渡制限新株予約権は他者への譲渡が禁止
保管委託行使後は証券会社又は金融機関等による保管・管理等信託が必要

※社外高度人材活用新事業分野開拓計画の認定に従って事業に従事する外部協力者

根拠

今回の質問は、ベトナム居住者に対するSO発行に係る税務上の取扱いについてですが、日本居住者に対するSO発行のケースと比較しながら、判断根拠を見ていきたいと思います。

1. 税制非適格SOの場合の課税関係

居住者(日本)非居住者(ベトナム)
SO付与時課税なし課税なし
権利行使時給与所得等として課税日本勤務期間に対応する部分について、給与所得等として20.42%の分離課税(今回は、日本勤務がないため課税なし
株式譲渡時譲渡所得として課税日本での課税なし

前項の表の通り、日本の場合は、①権利行使時に、権利行使益部分(権利行使時の株式時価 -権利行使価格)が給与所得等として、②株式譲渡時に譲渡益部分(株式売却価額-権利行使時の株式時価)が譲渡所得として、計2回の課税がなされます(所得税法施行令84条③)。

ベトナムの場合も、日本の場合と同様に、①権利行使時の権利行使益部分は、その従業員や役員の役務提供の対価と考えられ、日本勤務期間に対応する部分(役員の場合は全額)が国内源泉所得として課税対象となり(所得税法161条①十二、所得税基本通達161-41)、適用税率は20.42%とされます(所得税法169条、170条)。

一方、②株式譲渡時の株式譲渡益部分は、当該非居住者が日本にPEを有しておらず、会社の特殊関係株主等に該当しない場合は、国内源泉所得には該当せず、日本での課税はなされません。

2. 税制適格SOの場合の課税関係

居住者(日本)非居住者(ベトナム)
SO付与時課税なし課税なし
権利行使時課税なし(課税の繰延べ)課税なし(課税の繰延べ)
株式譲渡時譲渡所得として課税①SO付与から行使の間に対応する利益:日本勤務期間に対応する部分に対して譲渡所得として課税(今回は、日本勤務がないため課税なし
②行使から株式譲渡までの間に対応する利益:日越租税条約第13条6項(居住地国課税)より、日本での課税なし

上表の通り、日本の場合は、SOの権利行使益に対する課税は、取得した株式の譲渡時まで繰り延べられ、株式譲渡時に譲渡所得として課税されます(租税特別措置法29条の2①)。これについては適用税率20.315%による申告分離課税となります。

非居住者に対する税制適格SOの場合も、国内法上は日本の場合と同様に、権利行使益部分に対しては、権利行使時に課税されず(租税特別措置法29条の2①)、株式譲渡時に国内にある資産の譲渡により生ずる所得として税率15.315%にて課税されることとなります(所得税法161条①二、所得税法施行令281①四ロ、租税特別措置法施行令19条の3㉓)。

但し、非居住者の居住地国と日本との間に租税条約が締結されている場合には、国内法に優先して租税条約の規定が適用されます。

PEを有しない非居住者が税制適格SOの権利行使後、それにより取得した株式を譲渡した場合、当該株式譲渡益を①SO付与から行使までの間に対応する利益と、②行使から株式譲渡までの間に対応する利益に分解した上で、①については租税条約上の給与所得条項、②については譲渡所得条項を適用の上、課税関係を判断するという事例があります。

この場合、①について、日本は日本勤務期間に対応する部分に対してのみ課税権を有し、PEを有しない非居住者の株式譲渡に係る国内源泉所等として15.315%の税率による申告分離課税の対象となり、②については、租税条約の譲渡所得条項が、居住地国課税を取る場合には日本での課税はなく、所得源泉地国課税を取る場合は日本でも15.315%の税率で課税がなされることになります。

本件では、日本の法人の従業員であるベトナムの居住者に日本国内での勤務期間がないことから、①については課税対象なし、②についてもベトナム・日本間の租税条約では、第13条6項より、株式の譲渡益は原則的に居住地国でのみ課税されることが示されていることから(居住地国課税)、日本での課税はなされないと判断できます。

国際税務Q&A_非居住者に対するストックオプションの税務上の取扱い(PDF)

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